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【川端祐一郎】今われわれは何をすべきなのか

川端 祐一郎

川端 祐一郎 (京都大学大学院准教授)

先週土曜日に開催した大阪シンポジウムの終わりに、「日本を少しでもまともな国にするため、『表現者クライテリオン』を定期購読することに加えて(笑)、我々は何をすべきですか」という質問をされた方がいました。おそらく、「国家の政策がどうあるべきかはある程度分かったので、それを踏まえてわれわれ市民が取るべき『行動』は何なのかを聴かせてほしい」という意味だったのだと思います。

これは『表現者クライテリオン』の編集委員に限らず誰も簡単には答えられない問題ですし、時間がなかったこともあってシンポ会場では多くを論じることができませんでした。私も説得力のある見解を持ち合わせているわけでは全くないのですが、その後の懇親会で参加者の方々と議論している中で、指針というかキーワードのようなものが2つぐらい話題になりました。

1つは、我々はもっと「組織立った社会」を必要としているということです。

たとえば政治について言うと、小選挙区制が導入された1990年代から、我が国では「政党」という組織がどんどん厚みを失っていっているように見えます。以前のメルマガにも書きましたが(この記事この記事)、小選挙区制では「党対党」の戦いになるので、党中央の力が強くなる傾向があります。その結果として政党が、多様な意見を集約・表出したり、長い時間をかけて人材の育成を行ったりする懐の深い組織ではなく、「一握りのリーダー層とその他大勢のイエスマン」からなるビジネス集団になってしまっているように見えます。

そして、「組織」が本来果たすべき役割を果たしていないというのは、政治家の側だけではなく、市民の側でも同じではないでしょうか。かつての選挙では、たとえば労働組合のものをはじめとして、「組織票」というものが非常に重みを持っていました。もちろん今でもあるのですが、今どき「組織票」というとなんかダサい感じがするし、「なんで俺の投票先を他人から指図されなあかんねん」と思ってしまうところがありますよね。

しかし人間の社会が良質な判断力を養う上で、「組織」というものは非常に重要な役割を果たしてきたし、これからも果たし得るはずです。組織というのは、議論を通じて視野を広げる場でもあり、利害の集約や調整を行う場でもあり、少数意見を拾い上げて表出するための場でもあり、人材を育成する場でもあります。ところが我々は選挙に際して、メディアの情報だけ読んで各自の判断で投票すべきだという風潮になっていて、どこに投票するのがよいか相談するような場はないに等しい。

各論を語りだすと、労働組合はどうなのか、業界団体はどうなのか、自治会とかってどうなのか、市民運動は起こすべきなのかとか、色々ありすぎて字数が足りないのですが、ひとまず今日のところは大まかな指針として、我々は政治に関して「徒党を組む」「組織立って行動する」ということにもっと積極的になっても良いはずだ、ということだけ述べておきたいと思います。

たぶん、『表現者クライテリオン』とは別の講演会やシンポジウムなんかで「私たちは一市民として何をすればいいのでしょうか?」といった質問をすると、「とにかくまずは選挙に行きましょう!」みたいな答えが返ってくるのが定番でしょう。選挙に行くこと自体は結構なことですが、その前に「人が集まって相談する」という文化や習慣をもっと持てるような努力をしないと、全体の判断力は上がらないはずであって、「有権者1人1人の良識に期待する」みたいなやり方で社会がよくなるとは私は思えないんですよね。

さてもう1つ話題に上ったのは、社会を良くするための「タイミング」をどうやって捉えるかということです。

会社のような組織でも、国家や社会でも似たようなものだと思うのですが、トップが無能である時期や、組織がシステムとして腐敗しているような時期というのは、心ある人がどんなに頑張っても物事はよくなりません。とりわけ、現場からボトムアップで様々な提案を上げたりしても、全く成果には繋がりません。これを言うと「悲観主義者だ」と怒る人もいるのですが、人間組織や社会にはそれ自身のリズムとか歴史の流れみたいなものがあって、ダメな時は本当にダメなものです。

しかしこれは、トップが馬鹿な時代には何をしても無駄だから、何もしない方が良いということを意味するのではありません。苦境からの復活を遂げる組織や社会というのはたいてい、どう頑張っても物事を変えられない不毛な時代に、それでもなおかつ様々な具体的プランを現場が用意し続けている。そして、たとえば社長が変わるといったタイミングで「機が熟した」時に、一気にそれまでの準備が花開くわけです。

「我々はどうすればいいんですか」という冒頭で紹介したご質問の背景には恐らく、「本を読んで勉強したり、雑誌を買ってみたり、知り合いにもそれを勧めてみたり、シンポジウムなどの集会に参加してみたりしても、何も良くなる兆しがないように思える」という無力感があるのだと思います。地域やら会社やらで実行すれば世の中のためになるような良いアイディアを持っていても、どうせ受け入れられないだろうみたいな無力感もあるかも知れません。

しかしやっぱり、その無力感に負けずに頭を使い続けること、正しいと思うことを正しいと言い続けることは、機が熟した時にそのタイミングを逃さないために、絶対必要なことであるはずです。そういう思いから、『表現者クライテリオン』も来年からは、「具体的なプラン」の提案を増やして世に問うていくという方針です。読者の皆様からも様々なご意見を頂ければと思っています。

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