『表現者criterion』メールマガジン

【對間昌宏】東京一極集中への歯止めとしての「地域愛着」

From 對間昌宏(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程) 

東京一極集中をはじめとした、地方から都市への人口集中。その弊害は、本メルマガも含めて、様々に指摘されてきました。例えば、地方都市の衰退や公共サービスの非効率性、大規模災害に対する脆弱性等々。

ここで、筆者が懸念する点は、これまでの識者たち(多くは経済や都市計画の専門家である)が、大都市圏から地方圏への都市機能や企業の移転による公共サービスの向上や雇用の創出など、ハード(Built environment)の環境整備に対する議論に終始する傾向があることです。確かに、それらの環境整備が、大都市圏での人口集中緩和や地方創生に貢献することに重要な要素であることは明白でありますが、ここで、人々が地域に対して感じる愛着(Place attachment:地域愛着)という重要な観点が欠けていると感じられます。地域愛着というのは、人々の心理現象であるため、わかりやすく費用と効果が推定できる環境整備と異なり、政策として扱いにくいことは理解できますが、この視点が欠落することで、今後、社会に望ましくない事態を引き起こす可能性があります。

本稿では、地域愛着と人口移動の関係性を一つの研究トピックとして、これまで研究してきた筆者が、東京一極集中対策として地域への愛着を高めることの重要性を簡単に述べていきたいと思います。

地域愛着というのは、人が地域との間で形成される心理的な結びつきである(Monzo & Devine-Wright, 2013)。人は、生活していくための基本的な欲求を満たす特定の地域に対して、心理的な結びつきを感じるようになるとされます(Relph, 1976)。生態学的な観点で述べると、人は自身の遺伝子を後世に残しやすい(例えば、生存確率が高い地域)に対して愛着を感じることによって、自身に有利な地域を生活の拠点として選択する確率を高めていると考えられます。

国際的には主に社会学(Sociology)や人口地理学(Population Geography)の分野において、人口移動(Migration)については研究がなされてきており、地域の愛着というのも人口移動・居住地選択における重要な要因の一つとして扱われています(Gustafson, 2009)。人口移動の要因としては、主に次の4つがあげられていることが多いです:①就業機会(Job opportunity)、②進学機会(Educational environment)、③生活の質(Quality of life)、④地域愛着(Place attachment)。これらの要因が移住行動に与える影響の大きさは、個人のライフステージによって異なります。例えば、若い男性は就業機会に重きを置き、子育て世代はゆとりのある生活を求め、生活の質を重視する傾向があります。前者3つの要因は環境の整備の依存が大きい一方で、地域愛着は個人の生活履歴が大きく反映されますが、これらの要因はそれぞれ完全に独立しているわけではなく、相互に関連しあっています。

地域愛着に焦点を当てると、地域愛着の要因は大きく3つに分けられます(Lewicka, 2010):個人属性的要因(Socio-demographic factor)、物理的要因(Physical factor)、社会的要因(Social factor)。つまり、年齢や家族構成などの個人属性や、人との交流や社会規範といった社会的要因だけでなく、都市の利便性や環境のような物理的要因も地域愛着を形成することにつながるとされます(Taima & Asami, 2018)。しかし、重要な点は、物理的要因だけが地域愛着を構成するのではなく、むしろ、友人や近隣住民、家族とのつながりの深さといった社会的要因が地域愛着の大きなウェイトを占めているということです。

したがって、人口移動に与えるメカニズムとして、これまで多くの識者が指摘してきた環境整備が人口移動に影響を与えるだけでなく、環境整備が地域愛着に影響を与え、地域愛着も人口移動に影響を与えているという構図が考えられます。

これらの研究の蓄積による重要な示唆としては、東京をはじめとした大都市への人口流出を防ぐために、地方圏は環境整備によって雇用の創出や公共サービス向上を目指すだけでなく、地域住民同士の交流や自身の居住地域に貢献する活動などを促進することを通じて、地域を好きになってもらう施策を同時に行っていくべきであると考えられます。つまり、環境整備の質が高くとも、地域に愛着がなければ、人々は地域外に流出してしまうし、一方で地方都市のように大都市ほど環境整備が十分に整っていなかったとしても、地域に愛着があれば、人々は流出しにくいし、一度出ていったとしても戻ってきてくれる可能性が高いと言えます。

さらには、将来的に人口流出の問題は、国内の地方圏から大都市圏への人口移動にとどまらず、日本から国外への人口流出の問題へと発展する可能性があります。

先述したように、人口移動する要因としては、大きく4つの要因があります。これまで、前者3つ環境整備については、日本の水準は国際的に高く、また、地域愛着については、日本人は島国であること(物理的障壁)と英語のレベルが低いこと(社会的障壁)で、海外の人とコミュニケーションが取れずにいたため、海外の人との深い交流ができず、海外の土地に対して愛着を形成しにくい状況でした。しかしながら、ご存じの通り、日本の人口は縮小することで政府の歳入も減り、公共投資も十分にできずインフラの老朽化が進む一方であり、発展を続ける海外諸国からは、居住環境水準としても取り残されつつあります。また、グローバル化を推進する政府の方針によって、英語教育も盛んになり、海外諸国との社会的な障壁も低くなりつつあります。つまり、就業機会や都市機能などの社会基盤の水準が海外諸国と見劣りしてしまうことが進むと、国内の高度な人材が海外に流出していくことが進んでしまうことが危惧されます。これは国家の存続にかかわる大きな問題だと考えられます。

実際、元々、陸続きの国が多く、言語などの社会的な障壁も大きくない欧米諸国では、国家間の人口移動(International migration)が、人口流出する国で大きな問題として扱われており(DeWaard, Nobles, & Donato, 2018)、日本も徐々にこのような問題に直面することが予想されます。

このような人材の流出を食い止めるためにも、国内全体が一体となって、海外諸国と比較して見劣りしない、生活のしやすい環境を整備していくことと同時に、居住する市町村というスケールだけでなく、国というスケールでも、人々が誇りと愛を感じ続けられるような取り組みを推進していくことが重要だと考えられます。そのような取り組みを推進することで、国民が国内で住み続けることにつながり、もし高度な人材が一度海外に渡航し滞在することがあったとしても、いずれは新たな知恵や技術を携えて日本に戻ってくることで、国家の持続的な発展に寄与することが期待できます。

なお、各地域が検討するべき施策については、地域性に大きく依存するため、一般的に提言することは困難です。筆者は人口移動や地域愛着について数理的・定量的に研究を実施してきており今後とも継続していきたいと考えているため、もし、人口移動施策の検討等について関心のある方がいれば、いつでもご連絡ください。

對間昌宏(たいままさひろ)
東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程
独立行政法人日本学術振興会特別研究員
taima[at]ua.t.u-tokyo.ac.jp

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コメント

  1. 小笠原健三郎 より:

    その『都市部一極集中』による、地方自治体の税収不足を解消する為に始めた『ふるさと納税』ですが、実態は【お得な通販変わり】に成っており、地域愛とは無関係なのが『何ともはや』ですよね?

    しかも、高所得者によっては、【お得な通販&節税対策】に成って仕舞っております(泣)

    本当にふるさとに納税したければ、地元に帰るとか、地元に残るのが本筋で有りましょ
    しかし、私の様な浅学の者でも分かりますが、『地域のインフラが脆弱では、人が住み着かない(若者が定住し難)。 そして企業にして見れば、雇用する人が居ない上に、インフラが脆弱で、消費地への輸送に問題が起る』ですよね

    矢張り、『均衡ある国土の発展』は正しい政策でした
    勿論、地域性が有りますので、地域の特性に基づいた物で無ければ成りませんがね?
    農地や酪農地域まで、ガチャガチャとインフラ整備を行うと、食料安全保障(食料の安定的な供給)が既存します故

    矢張り、食料供給の問題も含めますと、『第一次産業従事者への、何らかの優遇措置』により、若者が営農や漁業に従事しやすい環境を作る政策
    極論なら、『第一次産業従事者は、全て国家公務員とする(地方公務員だと、地方自治体の予算成約で厳しい)』と言う手段も、食料自給率向上と食料の安定的な供給には必要かも知れません

    浅学な者の戯言ですが、何らかのヒントに成れば幸いです

  2. 学問に目覚めた中年。 より:

    この問題は、表向きだけで論じるならば、地元への愛着心は万国共通の処で簡単なことです。しかし世界史の変遷が示すように闇の勢力が存在する限り未来永劫、続いていく問題になる事が予想されます。それは、闇の勢力に付随する政治なり経済の利害がもたらすからです。その結果、深刻な少子高齢社会になり不安定な社会を形成しながら負の連鎖は続き幼児虐待なども引き起こし更には移民を増やす要因となり未来に重大な禍根を残します。ついでに今月七日に厚労省から発表された昨年の出生数はこの二年程で十万人減少の有様は致命傷で話題の年金どころの話ではありません。

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