一つ一つの内容については、なかなか批評は難しいなと思いました。それゆえ、全体を読んで自分なりに感じたことを書かせて頂きます。
わたしは、現 在、滋 賀 県の市街地から離れた山村に住んでいます。大阪で生まれ、大阪で育ちましたが、今住んでいる家には、物心ついた頃から、年に何度となく帰省しておりました。
こちらに住むようになって、六年近くになるのですが、昔と比べると祭祀は随分簡素化され、住む人間の意識も変わってきたと思います。いつの間にか戦前生まれの人が居なくなり、戦中生まれの人間も随分減ってきました。九十歳を超える人間は、意外に少ないのです。五十年ぐらい前まで、わたしの祖父母の世代の人が大勢いて、江戸時代の末頃からそんなに意識的に変わらないのだろうと思える生活を送っていました。
父方祖父母は、明治二十年代生まれでずっと田舎暮らしだったので、当然ですが、母方祖父母も、若くて大阪に出たにも拘わらず、生まれた土地が自分の故郷だと思っていました。わたしの祖父母たちや、さらにその子どもである父母たちも「近代的自我」が十分ではなかった人々だと思います。 (母は、小学校を卒業する頃から、大阪で生活していますが。)当時旧制高等学校や大学を出たような人はいませんでした。尋常小学校卒業きりがほとんどでした。せいぜい、よくても旧制中学校を卒業した者しかいませんでした。つまり「近代的自我」が乏しい人々ばかりだったのです。
父も伯父(母の兄)も、田舎の在所の人に見送られて、徴兵されて戦争に行きました。父は一九一七(大正六) 年生まれなので、日中戦争が始まった時から徴兵され、戦後の昭和二十二年まで、シベリアに抑留されていました。
『敗戦とトラウマ』で深刻なトラウマをテーマにしている城山三郎、三島由紀夫はじめ、様々な切り口で小説に仕上げた人々は、少なくとも「近代的自我」を強く持ち得た人々だと思います。程度の差はあれ、自己の内面をよく見つめて、小説という形で世に問うことに成功していると思います。一方、「近代的自我」の確立が乏しかったわたしの祖父母の世代の田舎の人々や、その子どもたちである父母、とりわけ実際に戦争に長年赴いた父にトラウマがなかったのかと言えば、そんなことはないと思います。ただ、内面を見つめ、著述するというようなことは出来なかったということだと思います。
心のうちでは、「何なんだ、この変わり方は?」と思っていたと思います。皆が皆、すぐに「敗戦」「戦後」を受け入れられたとは思えません。わたしの父は、戦後教育を受けて、リベラル教師に「あなたの父親は、中国で酷いことをしてきた」などと教えられて、批判の目を向ける娘に対して、哀しい、悔しい思いを抱いていたと思います。内面を見つめる余裕も術もなく、日々の生活に追われて、傷がかさぶたになっていたと思います。
父の子どもである、戦争を経験していないわたしの世代にトラウマがなかったのかと言えば、ないわけがありません。自分の親が戦場でトラウマを負い、銃後でもいろいろなトラウマを負ったこと、そのことの本当の意味を理解することが生きているうちに出来なかったこと、それがトラウマです。
どうして、実際に戦場に行って長年そこに居た親の本当のことをもっと聞いておかなかったのか、父母はどんな教育を受け、どんなことを思っていたのか。亡くなってしまった今では、何一つ聞けないのです。
遠い親戚には、自分の息子を戦争で亡くした人もいました。その人は、何と言っていたかと言うと、「○○、○○(亡くなった息子たち) のお陰で、恩給を貰えて楽に暮らせる、有難いことだ」。当時わたしは、何という親だ、自分の息子たちを易々と戦争に行かせて、自分はその死に報いる恩給で、楽に暮らせることを有難がるなんて、と思っていました。今では、息子たちの死を喜ぶ親など居るはずがない、そう言って納得して息子たちの死が無駄死にではなかったと自分に言い聞かせていたのだと心から分かります。近所では、戦争が終わったのに息子が帰って来ないと悲観して、首をくくった父親も居ました。これが、「近代的自我」の乏しい人らのトラウマでなくて何なのでしょう。
慰安婦騒動があったとき、父は「今ごろ何を言っているのだ」と非常に怒っておりました。親を否定することで、「近代的自我」を得たと思っていたわたしです。なかなか「バカの壁」を破ることは難しいことだと思いました。
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