先週6月17日(土)に行われた「信州支部定例会」にて、早稲田大学教授の佐々木邦明先生の「交通政策」をテーマとした講義が行われました。
今回はその模様をお伝えいたします(とても内容を網羅することはできませんので、私が把握した範囲での要約になります)。
「佐々木邦明先生」は長野県須坂市のご出身で、クライテリオン編集長の藤井先生の1年先輩で同じ京都大学の「土木工学科」を卒業されています(その時の名残で、たまに「藤井」と呼びかけると周囲の人に驚かれることがあるそうです)。その後、山梨大学教授となり、現在は早稲田大学教授としてご勤務されています。
佐々木先生には、2021年の「信州松本シンポ」、今年4月に企画した「第4回信州学習会」にご参加いただき、それがご縁でこの度、「信州支部定例会」にお招きし講義をしていただく運びとなりました。
普段、長野県内のクライテリオン読者が集まり、最新号の読み合わせなどを行っている小規模の「定例会」に、早稲田大学教授である佐々木先生にお越しいただき、専門である「交通政策」についてお話がお聞きできたことは、信州支部にとって画期的な一歩となりました。
さて、講義の内容ですが、今回のタイトルは、
【交通政策の地域における必要性と政策はなぜうまくいかないのか?】
でした。以下、セクションごとに箇条書きで、私が読み取ったポイントをご紹介していきます。
===以下、講義内容===
1、交通政策の必要性
・「公共交通」は「公共財」であり、自分が支出しなくても、誰からが支出した分で「ただ乗り」できてしまう性質がある【非排除性】。よって、支出してよい額より低い額しか支払う意思が働かないため、「市場メカニズム」に任せてしまっては、必要な整備が進まない。
・逆に、「私的交通(車利用)」では、「排ガスや騒音などの環境問題、交通困難者の発生、予防医療サービスの低下による医療費の増大」など、思わぬところにマイナスの影響が出る可能性がある(負の外部性)。しかし、この「負の外部性」が市場では意識されないため、発生するマイナスの影響以上の需要が生まれてしまう。
・このような、【市場の失敗】を防ぐために、「交通政策」によって市場への介入が必要となる(規制などにより強制的に消費や供給を変更する。税金などによって消費や共有を変更する。外部性を取引する市場を作るなど)。
2、山梨県(地方の一例として)の公共交通の現状認識
・「公共交通」の利用者は減少してきた。自動車交通においては道路渋滞が起きている。公共交通の存続は難しい一方、道路は共有不足という現状。
・その現象には、「地域の構造が変化」が関わっている。自動車利用を前提として「住む・働く・買う」場所が薄く広がったことで、移動自体は増加しているが、バスや鉄道などの路線と移動の出発地、目的地が一致しなくなった。
・しかし、公共交通には「福祉的や役割(医療サービスへのアクセス保障、社会生活へ平等な参加保障)」もあるため、「私的交通手段(車)」を持たない人にも提供する必要がある。
・また、公共交通は、地域の活性化【賑わいのある街づくり】にも影響を与えている。私的交通手段(車)の利用が全面化すると、人々はバラバラに移動するため、街から賑わいがなくなってしまう。
・さらに、「公共交通」は観光客の足としても重要。周遊行動が広がると観光の満足度が上がる。逆に、観光地での渋滞は満足度を下げる。渋滞が緩和されれば観光地での滞在時間が延長され、支出額も上がるという経済効果もある。
3、解決のために、公共交通の利用者の増加にむけて
・「自動車利用」の増加によって、現状のままでは「公共交通」はどうあっても衰退する運命にある(①利便性低下、②公共交通が生かされない都市構造、③校外型商業の発展など)。
・よって、交通政策は市場に任せる「需要追従型」ではなく、需要そのものを調整する「需要マネジメント型」で計画を立てることが「鍵」となる。
・しかし、そもそも「交通」とは、「今いる場所とは違う場所で、何かをしたいために移動する」ものであり(派生需要)。それ自体が目的ではないため予測・調整することの困難がある。
4、解決のための方法
・「公共交通の利用を増やす=行動を変える」ために、心理的方策を一連の手続きとして体系化した、「モビリティマネジメント」という手法がある。個人の行動をフィードバックし、無意識的に行ってきた行動を振り返ることで、行動変化の可能性が生まれる、など。
・また、環境に働きかける行動変化もある(公共交通の情報を流通させる。行先を分かりやすく表示。駅のデザインをオシャレにする、など)。
・相乗効果を持つ他の主体や活動(買い物、医療、通勤など)、環境政策との連携も考えられる。
5、長期的な戦略
・「公共交通」と「自動車(私的交通)」の特性を見極めた交通利用を促す。
・福祉サービスなどの「公共サービス」を公平に提供するためには、「交通」を連携させる必要がある。地域の将来をどう描き、その中で交通をどう位置づけるかが問われる。社会保障を含む「都市計画」を推進する。
・公共交通の利用促進のためには、需要をまとめること。つまり、「時間・空間が異なる行動を同一の時空間に変化させること」が課題となる。そのために、必要な需要を見極めて、的確なターゲットに、適切な戦略を用いて働きかけていく。
===講義内容、以上===
私が要約した講義のポイントは以上になります。これで佐々木先生の講義の内容が尽きるわけではなりませんが、幾分なりとも講義の内容を汲み取っていただければ幸いです。
その後、佐々木先生からは、引き続き「信州支部」の活動にご協力いただける旨のお言葉をいただきましたので、さらに先生をお招きし講義から学ぶとともに、その情報や考え方を長野県内に広げていく機会を連携して作っていきたいと考えています。
今後も「信州支部」は、
①定例会(偶数月第3土曜日に行う、県内の「クライテリオン読者」の勉強会)
②学習会(不定期で行う「クライテリオン執筆者」の講師を招いた講演会)
③情報発信(いまのところ「信州支部メルマガ」のみ。今後、拡充予定)
の【3本柱】を回しつつ充実させていきますので、活動へのご参加ご協力のほど、何卒よろしくお願いいたします。
髙江啓祐(37歳・公立中学校教諭・岐阜県)
2024.12.02NEW
髙平伸暁(37歳・会社員・大阪府)
2024.12.02NEW
塚本嵐士(22歳・学生・東京都)
2024.12.02NEW
農家のおじさん(29歳・自営業)
2024.11.28NEW
日髙光(41歳・会社員・東京都)
2024.11.28NEW
宮元栄以子(68歳・高校非常勤講師・滋賀県)
2024.11.28NEW
角田敏男(66歳・嘱託社員・東京都)
2024.11.28NEW
田尻潤子(翻訳業・東京支部)
2024.11.28NEW
長谷川正之(信州支部・経営コンサルタント)
2024.11.28NEW
前田健太郎(49歳・東京都)
2024.11.28NEW