「報本反始」のすすめ

岩崎 新太郎   (27歳・会社員・埼玉県)

 

 「報本反始(ほうほんはんし)」とは、儒教経典『礼記』効特性の篇より「本に報い始めに反る(もとにむくいはじめにかえる)」と読み下す。天地自然、また祖先に感謝し、その恩に報いること。いわば今を生き生かされている身として、当然の態度である。私はこの言葉に感服し、正月の書き初めでは「報本反始」と筆を執った。そして私はこの半年間、自身のルーツを探りに「報本反始」の旅へ出た。

 もとより自身のルーツに興味はあったが、高額な費用がかかると思い、躊躇していた。しかしきっかけは、昨年より夫婦別氏問題が再燃していたことも相俟って、今こそやるべき時だと決心し、ルーツ探しを始め、今もなお調査中である。

 まず、昨年の秋に、本籍地の役所にて、父方母方それぞれの戸籍を遡れるところまで遡り、請求可能な明治十九年式戸籍まで取得した。また複数の自治体から戸籍を取得したため、費用もそれなりにかかった。とはいえ、業者に委託するよりは費用も格段に安く済み、且つ自分自身で調べていく過程がとても面白いので、読者のみなさまにも是非おすすめしたい。おおよそ五代から七代前くらいまでのご先祖様は調べられる。時代的には幕末前くらいまでである。戸籍を読むこともなかなか興味深い。

 ただし、飽くまでも戸籍で辿れるのは、前述の通り明治十九年式戸籍までであり、さらに先まではわからない。そのため、戸籍を深く読み、苗字のルーツなども調べていくと、新たな発見があり楽しい。

 また、先の大戦で亡くなっていた遠縁も戸籍で確認できた。祖父母等から話は聞いていたが、戸籍を読んで詳しくわかり、先の大戦も決して他人事ではなく、「つながっている」ことを確信した。先人のおかげさまで今を生かされていることに、御祭神として祀られているルーツの県の護國神社、東京九段の靖國神社へ正式参拝し、英霊の御霊に感謝の氣持ちと哀悼の誠を捧げた。さらに、まだ実行していないのだが、陸軍の場合、戦没者本籍地の都道府県庁で軍歴証明書を取得できるので、今後こちらも取得する予定だ。

 ほかに調査内容としては、親戚をはじめ、遠縁から話を伺い、ルーツ各地の図書館の司書さんに郷土史や当時の地図などから調べていただき、また菩提寺を探して過去帳を調べていただきながら、墓石も調べたりし、なかなか一筋縄ではいかない。

 そして、実際にルーツの土地を訪ねる。家があった場所、また今もある場所もあるが、その場所でご先祖様から連綿と「つながっている」という神聖なる感覚に包まれ、思わずその場で拝んでしまう。それからお墓を探し、先祖代々のお墓に墓参する。ここでもまた、「つながっている」という感覚とともに、ご先祖様のおかげさまで今の私がありそれに感謝し、ご先祖様に恥ずかしくないように生きんとする決意も自ずと湧いてくる。

 自身のルーツの土地はひと通り訪ねた。その土地の自然、風土、歴史に触れながら、ご先祖様に思いを馳せる。様々なる歴史がそれぞれにある。それは決して良い話ばかりではないが、それぞれの歴史を経て、今の私へとつながり、生かされて生きていることに改めて思いを致す。

 それ故に、昨今の夫婦別氏問題、戸籍不要論などを耳にすると、違和感を感じずにはいられない。私自身、難しいことはわからないが、戸籍が無ければ、ご先祖様を辿ることも難しい。また、そもそも家族が家族であるという証明さえ出来なくなれば、ここまで共同体を失ってきた日本人は何を頼りに生きていくべきなのだろうか。とても危うい風潮だと私は考える。

 大切なことはご先祖様からの「つながり」に思いを致し、おかげさまの心のもとに、私たち自身が生かされていることに感謝し、立派に生きることこそご先祖様に対しての恩に報いることとなるのではなかろうか。そして、私自身も後を残さねばならないのだが、それは如何に…。私の「報本反始」の旅はまだまだつづく。