食料安全保障強化のために「就農人口を増やして自給率を上げよう」「種を守ろう」という話を最近はよく耳にするようになりました(地上波や新聞では知りませんが)。しかし、食料安全保障に必要なのはそれだけなのでしょうか? ということを、主要穀物である”米”の生産過程から考えてみます。
まず、私たちが米を食べるまでに必要となる作業は大まかに以下の4つとなります。
1,米作り
2,加工
3,保存
4,輸送
では、この作業において具体的に何が必要なのかを少し細かく見てみましょう。
1.米作り
まずは種もみを確保します。種子法等で問題になっておりますが、当然ながら種がなくては話になりません。
次に種もみを水につけて芽を出させます。その際に病気対策として殺菌剤を使います。
次に種まきをします。その際に培土と種まき機と機械を動かす電力が必要になります。
次は苗が伸びるまでに田んぼを耕して苗を植える準備をします。その際にトラクター,石油,肥料,水,が必要になります。用水路が無い場合は、井戸から水を汲むためのポンプと、ポンプを動かすための電力が追加で必要になります。
水が張れたらようやく田植えができます。さて、その後に必要となるものは何でしょうか? ……そうですね。除草剤と殺虫剤(場合によっては殺菌剤も)ですね。これがないと米の収穫量と品質が落ちてしまいます。
さて、稲の天敵は草と虫だけではありません。夏場は台風がやってきます。その際に川が氾濫して田んぼが冠水してしまったら大変です。そうならないようにするには防災インフラが必要になります。
後は秋に機械で稲を刈れば米作り完了です。
2.加工
“加工”って何の話? と思うかもしれませんが、ここでの加工とは乾燥・脱穀・精米のことです。少なくとも乾燥と脱穀と石抜き(精米機に備わっている機能)は行わないと食べることが出来ません。(乾燥させなくてもいい? カビてる玄米が食べたいのであれば構いませんが……)
では、この工程に必要なものは何でしょうか? ……そうですね。設備・電力・石油(乾燥用の燃料)・資材(紙袋orフレコン)ですね。
では次に行きましょう。
3.保存
米は生鮮食品なので低温倉庫に置いておかなければいけません。そんな必要はないという方は真夏の時期にクーラーの効かない部屋で白米を2・3ヶ月ほど放置してみてください。
さて、低温倉庫に何が必要かですが、当然ながら電力が要ります。夏場なら特にそうです。政府の備蓄米も低温倉庫に貯蔵していますので、その保存にも必要です。
ちなみに、備蓄米は十分なのかについては知りませんが、農水省の資料では適正備蓄水準が100万トン程とあります。米の需要量が約700万トンなので大体2ヶ月分でしょうか。麦も外国産については備蓄しているようですが、こちらも2ヶ月分程度のようです。
《備蓄米についての参考資料(全て農水省より):米の備蓄運営について①,米の消費及び生産の近年の動向について,麦の需給に関する見通し》
4.輸送
当然ですが、道路が無いと私たちの手に米を届けることは難しくなります。何なら精米する際にも玄米を精米工場へ輸送する場合が多々あります。ですので、交通インフラは無くてはならないものとなります。
ここまで考察してみましたが、現代の農業というのは大部分を設備に頼っているということがわかると思います。ですので、エネルギーがなければ米の輸送はおろか米作りもできないということになります。
そして、交通インフラも重要であり、これが脆弱であると災害時に餓死者が出ることになるでしょう。防災インフラも必要で、ここを疎かにすると収穫量が不安定になってしまうことでしょう。
米作りには各種資材…特に種・農薬・肥料はなくてはならないものです。農薬については安全性について疑問があるかもしれませんが、無ければ生産性の低下を招くことになるでしょう。
さて、わが国での食の問題は人手不足と種だけでしょうか?エネルギー・インフラ・資材の備えは十分でしょうか?それは有事の際にも対応できる状態でしょうか?今一度思い出していただきたく存じます。
髙江啓祐(37歳・公立中学校教諭・岐阜県)
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髙平伸暁(37歳・会社員・大阪府)
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田尻潤子(翻訳業・東京支部)
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前田健太郎(49歳・東京都)
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