【藤原昌樹】醜悪な姿を晒し続ける平和主義者たち ―安和桟橋におけるダンプカー死傷事故を巡って―(前半)

藤原昌樹

藤原昌樹

起こるべくして起こった事故-普天間基地移設工事のダンプカー死傷事故

 

 2024年6月28日の午前10時10分頃、沖縄県名護市の安和桟橋の作業ヤードの出入口で、辺野古の新基地建設に使う土砂を搬出していたダンプカーが抗議活動中の女性と警戒に当たっていた民間警備員の男性を巻き込む事故が発生し、女性が足の骨を折る重傷を負い、男性が死亡してしまいました(注1)

 

 現場は沖縄本島西海岸の名護市安和港付近です。この港には周辺から切り出された土砂がダンプカーで運び込まれ、その土砂を桟橋から船に積み込み、その船が沖縄本島をぐるりと回って埋め立て用のそれを東海岸の辺野古沖へと運んでいます。

 

 

写真:死亡した警備員 女性を引き留めようと巻き込まれたか 安和桟橋での事故 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)

 

【図解あり】名護市安和ダンプ事故 現場カメラに事故時の映像 沖縄県警、分析すすめる – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)

 

 捜査関係者によると、現場付近に設置された記録用カメラで事故の状況が撮影されており、現在、沖縄県警がカメラ映像をもとに事故原因の調べを進めているとのことですが、事故の流れは概ね下記の通りであったと考えられています。

 

  • 抗議活動をする1人の女性がダンプカーの進行方向の左前方からダンプカーの前に飛び出して牛歩で横切ろうとした。
  • 警備員がその女性を制止して連れ戻した。
  • その様子を見ていた別の女性がダンプカーの前に飛び出し、それに気づいた警備員が当該女性を制止して連れ戻そうとした。
  • 別の警備員による合図でダンプカーが発進し、ダンプカーの前に飛び出していた女性と彼女を連れ戻そうとしていた警備員の2人が巻き込まれ、女性が足を骨折する大怪我を負い、男性警備員が死亡してしまった。

 

 事故発生直後、ダンプカーの運転手は「別の警備員の合図で発進した」と話しており、ダンプカーの右前方の位置にいた別の警備員が、桟橋前の国道を名護市屋部方面から本部町向けに走行する車両の有無を確認した上で合図を出したとみられています。

 女性と警備員の2人がダンプカーの前にいたにもかかわらずに発進してしまったのは、運転席が高い位置にあるために(近づき過ぎていた)2人が死角に入っていたからではないかと言われており、運転手が視認できていなかった可能性が指摘されています。

 

 普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画を巡っては、辺野古の米軍キャンプ・シュワブ前で抗議の座り込みが続いているほか、2018年から土砂の搬出作業が始まった名護市安和(今回の事故現場)や本部町塩川の搬出港付近で、市民団体のメンバーがプラカードを持ってダンプカーの前をゆっくりと横断する「牛歩」戦術で土砂の搬出を遅らせようとする抗議活動が続けられています。

 

 抗議するために集まる人数は日によってまちまちですが、多い時には数十名ほどになることもあります。国道から土砂を積んだダンプカーが来て港に入ろうとすると、抗議をする人が入口の前をゆっくりと「牛歩」します。その間、ダンプカーは停止せざるを得ません。「牛歩」が過ぎると港に入り、桟橋で土砂を降ろして国道に戻るのですが、その際にも「牛歩」が行われます。

 

 大型車であるダンプカーは死角も多く、その前を「牛歩」で横断して妨害するという抗議方法を巡っては、その危険性を指摘する声も少なくありませんでした。

 事故を防ぐため、沖縄防衛局が契約する警備会社の警備員が毎日警戒に当たっています。

 

 普段から辺野古移設工事で石材の搬出作業に従事し、今回の事故直後の現場を目撃したダンプトラックの運転手が、取材に対して「1年程前に警備会社が変わり、土砂搬入のスピードアップを図って無理な誘導が増えていた。いわゆるヒヤリハット事例が何度もあった」「工期のスピードアップの指示が上からあったようで、危ない事案が増えた。ただ事故の責任は運転手が問われるということで、大半の運転手は無理な誘導に従っていなかった」「日々危険を感じることがあった」と証言していたと報道されています(注2)

 

 この度の事故は「起こるべくして起こった事故である」と言わざるを得ません。

 

なぜ「牛歩」による妨害行為を取り締まることができないのか

 

 普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対の立場をとる沖縄のマスメディアでは、事故原因を「警備員による無理な誘導」や「政府が強硬に工事を推し進めていること」に求める論調が多く見受けられますが、ダンプカーの前をゆっくりと横断する「牛歩」戦術といった危険な方法での抗議活動が行われていること自体が一義的な事故原因であることは火を見るよりも明らかなことです。

 

 私自身がその1人であったのですが、「なぜ危険な『牛歩』戦術による抗議行動を取り締まることができないのか」と疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。

 

 安和港や塩川港付近で「牛歩」戦術による抗議活動が行われていることは周知の事実であり、防衛省や沖縄県警も実情を把握し、その危険性を認識していました。

 

 しかしながら、現状では抗議活動そのものを取り締まる法的根拠がなく、防衛省関係者は「妨害行為であることは明らかであり、警察もそばにいるが手が出せない」「あくまで歩行者なので通行妨害にはならず、取り締まることができない」「警備員が『車両が通りますので』と言って抗議者を止めることも、歩行者の通行の妨げになるためできない」と指摘しており、捜査関係者は「座り込んだり、寝転んだりといった道路における禁止行為がない限り、法令に基づく取り締まりは難しい」と明かしています(注3)

 

 沖縄県の玉城デニー知事は、記者会見で牛歩戦術という抗議手法について認識を問われた際に「法的根拠がないので特段の対応は行っていない」と繰り返すのみであったと報じられています(注4)

 

 今回の事故の発生を受けて、玉城知事は「県民の安全に責任を持つものとして、極めて遺憾である」として、亡くなられた男性の冥福と怪我をした女性の一刻も早い回復を祈るコメントを発表しました。また、「事故原因が究明され、安全対策が取れるまでの間は、沖縄防衛局に対して工事のための土砂搬出作業を中止するように求める」との考えを示し、工事現場周辺で抗議活動を行う市民らに対して「法令を遵守し、地域住民の安全安心に配慮していただきたい」と呼びかけています(注5)

 

 玉城知事が「県民の安全に責任を持つ知事」として、沖縄防衛局に対して「事故原因が究明され、安全対策が取れるまでの間は作業を中断すること」を求めることは至極当たり前の手続きであるように思えます。

 

 しかしその一方で、たとえ県知事に抗議活動を禁止する権限がなく、取り締まるために必要な法的根拠が未だ整備されていないのだとしても、非常識で危険な抗議活動をする輩に対して、遠慮がちに「地域住民の安全安心への配慮」を求めるだけではなく、強く非難することで彼らを諫めて危険な抗議活動を止めさせるように努めるのでなければ、「県民の安全」への責任を果たしていると言うことはできません。

 

 7月10日の沖縄県議会本会議において、2022年12月以降、今回の事故が起こってしまった安和の港湾を利用する事業者側が、沖縄県に対して「抗議者が事故に巻き込まれないように安全対策としてガードレールを設置して欲しい」「自ら費用を負担するのでガードパイプを設置させてほしい」と何度も要請していたこと、しかしながら、その事業者側からの要請に対して、県が「歩道であることからガードレールを設置する予定はない」「事業者によるガードパイプの設置は歩行者の横断を制限することになる」として認めていなかったことが明らかにされました(注6)

 また、県は昨年(2023年)2月17日、安和港と同じく「牛歩」による抗議活動が行われてきた本部町の本部港塩川地区に、「大型車両の往来を妨害する行為」が県港湾管理条例で定める禁止行為に該当する旨を明記した警告看板を2枚設置し、禁止行為を行った場合は「条例に基づき過料を処することがある」と警告をしていました。しかし、市民から「何故、過料を科すのか」などと「厳しい意見」が寄せられたとして、県は現場を確認した上で「状況は危なくない」と判断し、設置から約2ヵ月半後の5月2日に撤去していたことも併せて明らかにされています。

 

 沖縄県が、安全対策を求める事業者側からの要請を認めなかったことや市民―恐らく、いわゆる地域住民としての「市民」ではなく、抗議活動をする運動家としての「市民」―からの「厳しい意見」に応えて警告看板を撤去してしまったことは、「県民の安全」に対する責任を果たすどころか、その責任を放棄し、抗議活動を支援するために県民を危険に晒す行為であり、断じて見逃すことができるものではありません

 

…後半に続く(後日配信)


脚注

(注1)警備員がダンプに接触し死亡 辺野古新基地工事車両の出口付近 抗議活動の女性もけが 沖縄・名護市安和 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
辺野古埋め立て土砂を運ぶダンプにひかれ警備員が死亡 抗議中の市民は足を骨折 沖縄・名護市の安和桟橋【動画あり】 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
死亡した警備員 女性を引き留めようと巻き込まれたか 安和桟橋での事故 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
辺野古めぐる抗議現場でダンプにはねられ警備員死亡 抗議者も搬送 [沖縄県]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
左折のダンプカーに2人巻き込まれ 1人死亡 名護市|NHK 沖縄県のニュース
辺野古移設に抗議の女性と警備員、ダンプにはねられる 警備員は死亡 沖縄・名護 – 産経ニュース (sankei.com)
死亡の警備員、車道に出た抗議女性を止めようとしたか 辺野古ダンプ事故 – 産経ニュース (sankei.com)
辺野古移設工事の土砂運搬ダンプカーにはねられ、警備員男性が死亡…周辺で抗議活動の女性も重傷 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
「頭部破裂」と通報 辺野古移設工事を警備の男性がダンプと接触し死亡 女性も足を骨折 | 沖縄のニュース|RBC 琉球放送 (1ページ) (tbs.co.jp)
【続報・ダンプ事故】辺野古埋め立てに抗議する女性が飛び出し 警備員は巻き込まれたか | 沖縄のニュース|RBC 琉球放送 (1ページ) (tbs.co.jp)
死傷者、運転手の死角か 県警、カメラ映像など分析 安和ダンプ事故1週間 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
【図解あり】名護市安和ダンプ事故 現場カメラに事故時の映像 沖縄県警、分析すすめる – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
安和事故 市民ら現場確認 弁護士主導で状況整理 | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
名護市安和のダンプ事故、市民団体が現場検証 沖縄 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
「殴られっぞ」「殺されるぞ」と警察を罵り、“死亡事故”も発生…カメラマンが見た「辺野古抗議活動」の危険すぎる実態(全文) | デイリー新潮 (dailyshincho.jp)
ついに死亡事故が起きた辺野古反対運動 牛歩戦術を誘発した玉城デニー知事の責任は(全文) | デイリー新潮 (dailyshincho.jp)

(注2) 辺野古ダンプ運転手が証言「無理な誘導多かった」現場では辺野古移設反対の抗議運動 | 沖縄のニュース|RBC 琉球放送 (1ページ) (tbs.co.jp)

(注3)「警察も手が出せない」…牛歩による〝妨害〟はなぜ取り締まれないのか 辺野古ダンプ事故 – 産経ニュース (sankei.com)

(注4) 沖縄・玉城知事、〝牛歩〟による抗議は「指導の法的根拠なし」 辺野古ダンプ事故巡り – 産経ニュース (sankei.com)

(注5)デニー知事「土砂搬出作業の中止を」 防衛局へ「原因究明と安全対策」要求 名護市安和のダンプ事故 沖縄 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)
辺野古の警備員死亡事故「極めて遺憾」 玉城デニー知事、安全確保まで土砂搬入の中止要請へ | 沖縄タイムス+プラス (okinawatimes.co.jp)
辺野古移設工事警備員のダンプ轢死事故で玉城知事「極めて遺憾」哀悼の意示す  | 沖縄のニュース|RBC 琉球放送 (1ページ) (tbs.co.jp)

(注6) 事故現場、再三のガードレール設置要請も沖縄県認めず 玉城知事も把握 辺野古ダンプ事故 – 産経ニュース (sankei.com)
<主張>辺野古ダンプ事故 危険な抗議活動をやめよ 社説 – 産経ニュース (sankei.com)
事業者負担で安和事故現場に柵設置の要望、県は承認せず 沖縄県議会代表質問 庁内ハラスメントの相談20件 – 琉球新報デジタル (ryukyushimpo.jp)

 


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