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ダンビサ・モヨ 著 若林茂樹 訳 『いまこそ経済成長を取り戻せ 崩壊の瀬戸際で経済学に何ができるか』(白水社/2019年8月刊)についての書評です。
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冷戦終結直後、フランシス・フクヤマは「歴史 の終わり」の中で、民主主義と自由主義経済が世界を席巻するだろうと予言した。
だが、それから四半世紀以上たった今、中国をはじめとする権威主義国家が急速な経済成長を実現している一方、先進諸国の経済は低迷し、自由と民主主 義の正当性が揺らぎつつある。
新興国は今や、「個人の自由」や「開かれた市場」にさほど魅力を感じておらず、民主的な選挙により権威主義的な指導者が選ばれることも珍しくない。
なぜこのような事態が生じているのか。著者は、自由民主主義国家の指導者層が短期的な成果や利益ばかりを追求していることが最大の問題であるとし、長期的かつ国民全体の利益拡大に資するような政策を実行するための政治制度改革案を提示している。
具体的には、富裕層の意見が過度に反映されることを防ぐための政治献金の上限設定、優秀な人材を長期間政治の世界に引き付けるための公職の報酬引き上げ及び任期の長期化、政治参加の促進と有権者の質の向上を両立するための投票の義務化及び有権者資格を得るための試験や単位取得制度の導入などである。
貧困の削減や社会の安定のためには経済成長が不可欠であることや、インフラ投資・教育投資の重要性を強調している点など、各論としては賛同できる内容も多くある。
だが、グローバル化の推進や財政均衡の重視といった主流派経済学の常識を前提として議論が組み立てられていることには違和感を覚える。
例えば、著者は保護主義を短期志向型の悪しき政策の最たるものとして批判し、現行のグローバル化が一部の人々のみを利する不完全なものであるためにその動きが活発になっていると指摘するが、完全な形のグローバル化であれば問題は起きないと言いたいのだろうか。
グローバル化を推進する以上、何らかの形で敗者が生まれるため、保護を求める国民の声をかき消すことは困難であり、その声を無視することは民主主義の軽視を意味する。
今求められているのはグローバル化を徹底することではなく、民主主義と両立可能なレベルに維持する努力ではないのか。
また、経済成長を阻む要因の一つとして公的債務水準の上昇が挙げられているが、自国通貨建て債務で変動相場制を採用している国家であれば、債務水準自体は問題とはならないはずである。
しかも、著者自身が再三指摘しているように、インフラ整備をはじめとする投資系の支出であれば経済成長にも貢献し、長期的には債務比率を押し下げる効果も期待できる。
民主政治をより長期的な視点に立ったものへと刷新することはもちろん重要である。
その意味で、本書で提示されている改革案は具体的かつラディカルであり、より良い民主主義のあり方を考える上で示唆に富んでいる。
しかし、政策の土台となる経済学の思考の枠組みを転換しない限り、自由民主主義国家の停滞を打破することはできないように思われる。
(『表現者クライテリオン』2020年1月号より)
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