私たちは今、「森林」と「財政規律」のいずれを守るかが問われています。

神下正弘

 

森林環境税という新しい税金が設置され、森林環境の保全を図っていこうという動きが出てきているのは良い事だと思いますが、都会に生活する人にとっては、人も住んでいない山に税金を使うより、もっと予算の必要な事があるのでは?と感じている人も多いかもしれません。しかし、近年頻発している豪雨災害の要因として山が荒れてしまっている現状があると言われていますし、東京一極集中を是正する意味でも、地方への投資は重要だと思っています。

しかし、私自身、30年近く林道整備の仕事にも関わらせてもらっていますが、このままのやり方を続けていても持続可能な循環とはならない事を危惧しています。

昭和39年の木材の輸入自由化以降、木材の採算性が悪くなり多くの民有地が手をかけられなくなって50年になろうとしています。枝打ちも、間伐もされないまま放置された木々は、立ち枯れ、倒木して無残な姿となっています。木々の手入れをするために通られていた山道は、人が歩かなくなり、手入れをされないため崩れて、また雑木が茂って何処が道だったのかも解らなくなりつつあります。

そして、もっと深刻だと感じているのは、バブル期以降に整備された林道すらも、整備から20年近くなると通行できない位に荒れてしまっている事です。

幅員5mで整備された道路も、何年かすると両側には草木が茂り始めます。(整備された時には、一般道と同じようにピッカピカの道路です。)その道路を年に2回程度草刈りをしておけば道路は維持されますが、それを放置しておくと雑木は大きくなり、元々剥き出しだった道路脇の法面部分の大木は、大雨や積雪で倒木となります。また、草木が原因では無くても法面からは雨等により一定量の崩落が路肩に積もっていきます。そんな崩れもその時々で片付けていれば道路は程々維持できますが、更にそのまま放置が続くと、道路側溝に詰まり、路面を雨水が流れるようになります。(両脇から枝が伸びて、車両の幅ギリギリまで草木が茂って、幅員2mといった感じになり、最近流行りのハイルーフの車だとコツコツ枝も当たります。)普通の雨であればそれでも大きな被害にはなりませんが、梅雨や台風、雪解け水等が集中すると、道路上が川となり行き場を失くした水が道路脇を削っていき、大規模な崩落となっていきます。(つづらおりの山道だと、1カ所崩れたら後は順番に手が付けられなくなる状況を想像してみて下さい。)

林道は元々道路を管理者や道路を使う人が、定期的にメンテナンスすることを前提とした整備がされてきました。一般の道路整備よりも安く作られている感じです。しかし、その管理者に予算が無く、使う人も10年に一度しか使わないとなるとメンテナンスも疎かになります。使う時に整備をしてまた山に戻す作業道という考え方で開設されている道もありますが、それではその都度コストがかかり過ぎますから程々近くまでは、ちゃんと通れる道がやはり必要となります。

大型車両で直接乗り入れて材木の積み込みができる、路肩の清掃や除草が専用の車両で効率的にできる、100年に一度レベルのゲリラ豪雨にあっても溢れない側溝が整備されている、等の条件をクリアするには、今作っている強度の道ではダメです。きちんと孫の時代まで安心して通れる道を整備していくには、残念ながら今の森林環境税だけでは焼石に水といった状況です。
せめて、林道の維持管理をボランティア頼みにするのでは無く、山間部に住む人々の所得につながる使い方ができれば、もしかしたら将来性を感じてそれぞれの地域に残る若者も出てくるかもしれませんが、今のままでは人口流出も止まりません。

国土の7割近くが森林である日本だからこそ、そして国産資源の乏しい国だからこそ、きちんと森林を整備して資源としても活用していける様に、森林環境税をさらに超えた財源を確保しつつ、これまでとは違った耐久性のある林道を整備していく必要があります。私達日本国民は今、子々孫々まで引き継がれ得る森林を守るか、それとも目先の(しかも、長期的な財政基盤を悪化させ得る)財政規律を守るかが、問われているのです。