【会田弘継】トランプ勝利は予言されていたー「闇の政府」を生んだ温床は何か

啓文社(編集用)

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政治的疎外が生みだした
異議申し立ての一つのかたち、
それが「闇の政府」存在論である。

民主党と主流派メディアの“完敗” 

 まさに「赤い津波」だった。赤は共和党を示す色だ。戦後二番目という高い投票率のアメリカ大統領選挙は共和党候補トランプの勝利であっけなく終わった。史上まれな僅差の大接戦で、特に勝敗を決する激戦七州はどちらに転ぶかわからない。それが十一月五日の投開票日直前までの世論調査機関と主流派(リベラル)メディアの予測だった。人工知能(AI)などを駆使していたという。だが、ふたを開けてみれば、全米での獲得票数は数百万票とかなりの差が付いた。痛み分けぐらいのはずだった激戦七州はすべてトランプが制した。同時に行われた連邦議会選挙でも、上下両院とも共和党が制することになった。あれこれ併せて考えるとトランプの圧勝だ。

 それだけでない。民主党の黒人女性初の大統領候補ハリスは、本来ならば同党の支持基盤であるヒスパニック(中南米系)や黒人、若者や女性から強力な支持を得るはずだった。だが、これらすべてで二〇一六年大統領選挙の時のバイデン(現大統領)よりハリスの得票率は低くなった。民主党だけでなく世論調査専門家や主流派メディアの完敗である。トランプ支持者は人種差別主義者であり、女性、性的少数者、さらには移民への差別意識に凝り固まった無知蒙昧な者たちだと言い続けてきた進歩派を自認するエリートたちの主張は、崩れ出している。

 今年の大統領選挙と、百三十年ぶりに返り咲きを実現し大統領再任となるトランプ自身の歴史的位置付けについては、単に奇矯な人物がアメリカ人の中に眠る差別意識を呼び覚ましたポピュリズム現象である、といった評価を軽々にしない方がいいだろう。伝統ある英誌『エコノミスト』は今回のトランプ再選直後の論評で、フランクリン・ローズベルト以来最も重大な意味を持つ大統領になると論じている。党派性むき出しのアメリカ主流派メディアとは違った冷静な評価だ。おそらく正しい。ニューディール体制のアメリカが中心になって第二次世界大戦後につくられた世界システムは終わる可能性がある。この点は他所で論じたので、ここでは敷衍しない。

トランプ現象はエリートたちの傲慢への痛打

 同様に軽々しい評価をすべきでないのは、「陰謀論」、いわゆる「ディープステート(DS)」の問題だ。今回の選挙結果のような予想外の事態になると、アメリカ主流派メディア(それに追随する日本の主流派メディア)は主にSNS上で拡散された陰謀論が、無知蒙昧な有権者を駆り立てトランプ支持に向かわせたという構図で説明しようとする。トランプ登場以降の陰謀論の典型はDS、すなわち「闇の政府」が存在するという考え方だ、という。グローバル金融資本などの幹部らが政府の一部、特にCIAやFBIなど情報機関と結託して、民主的手続きを経た政治を切り崩したり、裏から操作したりして、自らの利益と存続を図っている。そう考えるのがDS陰謀論だ。 主流派メディアの見方は、陰謀論を語る人々を明らかに見下げている。だが、そうした姿勢にこそ、民主党と同党を支える主流派メディアや知識人が、今回の選挙のようにアメリカの現実を見誤る原因がある。

 民主党が大卒以上の教育を受けた都市富裕層に支持される金持ちエリートの政党で、共和党が高卒以下の労働者階級から強い支持を得る政党であることは、今年の選挙の出口調査でますます明らかになってきた。この傾向はアメリカの産業構造が大きく変化(サービス産業化)した一九七〇年代、ニクソン政権時代に始まった。さらに民主党が八〇年代に金融・情報産業への依存を強める企業政党へと転換を図り、労働者を見捨てて決定的となった。この民主党の転換とともに、レーガン、ブッシュ父子の共和党政権時代よりも、むしろクリントン、オバマ民主党政権時代の方が、経済格差が激しく広がったのは、経済統計が歴然と示すところだ。ついには一%の超富裕層が、アメリカの個人資産の総計の四割近くを占め、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲーツ、ウォーレン・バフェットの大富豪三人の個人資産の合計が、アメリカの下位五〇%の個人資産の合計に匹敵するという、すさまじい格差が生じた。

 そのような封建制まがいの格差社会で「民主主義」がまともに機能すると考える方がどうかしている。極限的な格差社会を土台にカネによって動く政治に対し一般市民が抱く無力感、普通の市民の声は政治に反映されない、という怒りをはらんだ諦めこそが、「闇の政府」という陰謀論の温床である。「闇の政府」とは自分たちの声を反映せず、手も届かなくなった政治権力を象徴する言葉だ。そうした政治における一般市民の無力感や絶望を嘲笑って、見下しているのがエリートのDS陰謀論批判である。そのエリートたちの傲慢に痛打を与えたのが、DSとの戦いを掲げて現状打破を図ろうとするトランプ現象だ。それこそが、メディアが深く考察し、説明すべき構図であるはずだ。

 あえて言おう…続きは本誌にて


<編集部よりお知らせ1>

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