【藤原昌樹】なぜ、頑なに中国に抗議することを拒むのか? -国益を損なう玉城デニー知事のダブルスタンダード-

藤原昌樹

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 これは、沖縄県の玉城デニー知事が自らのオフィシャル・ウェブサイトのトップ・ページに掲げているスローガンです。具体的に何を意味しているのかがよく分からない空虚な言葉の羅列ではありますが、それでも知事が実際に、このスローガンで掲げた目標(?)を実現するために尽力している姿を見せてくれているのであれば、沖縄県民の一人として心強く喜ばしく思えたのかもしれません(注1)

 しかし残念ながら、近年になって激しさを増している中国政府による「認知戦」や緊張が高まる尖閣問題に対する玉城デニー知事の振る舞いを見ていると、沖縄(県民)ではなく中国政府の意向に重きを置いているかのような言動が目立っており、沖縄県民として心強く感ずるどころか、「果たして彼には沖縄県知事たる資格が備わっているのだろうか」との疑念を拭うことができずにいます。

 

「琉球王国は中国の属国であった」-激しさを増す中国政府による「認知戦」

 

 前回の記事で、中国政府には、日本が台湾有事に介入することへの対抗策として「沖縄の領有権問題を持ち出すことで沖縄を日本から分断して攪乱する」との戦略があり、琉球諸島の日本帰属に疑義を呈し、沖縄県民を「先住民」と看做すプロパガンダは、その戦略の一環に位置づけられているということ、そして、そのプロパガンダは今に始まったことではなく、長年にわたって継続的に行われてきたものであると同時に、近年になって急速にその激しさを増していることについて論じました(注2)

 『環球時報』の記事に続けて、12月2日付の中国国営英字紙チャイナ・デイリーは、「琉球王国が歴史的に中国の属国だったことや日本による琉球侵略を示す『重要な証拠』が遼寧省の博物館で公開された」との記事を掲載しました。公開されたのは中国の明王朝が1629年に琉球王国に下した勅書の複製であり、記事では「勅書は琉球王国の王位継承時期に出されるもので、新しい王に属国としての義務を守るように促す内容だ」と説明し、「中国と琉球王国の朝貢関係が浮き彫りになった」と強調しています(注3)

 中国政府によるプロパガンダは、少なくとも国内向けにはそれなりに効果を発揮している様子で、高市総理の台湾有事に関する発言が中国政府の反発を招いて以降、中国のSNSや動画サイトなどで日本に関する偽・誤情報が急増しています。ジャーナリストの古田大輔氏によると、特に沖縄を巡っては「琉球は日本の一部ではない」「琉球は独立を望んでいる」と沖縄県民が発信しているように見せかける動画が拡散しているとのことで、琉球独立を煽り、日本と沖縄を分断しようとする「認知戦」は激しさを増しています (注4)

 沖縄県の日本への帰属を疑問視する中国メディアの報道に対して、木原稔官房長官は12月1日の記者会見で「コメントする必要はない。沖縄は、我が国の領土であることに何の疑いもない」と語っています(注5)

 中国政府が主張する内容が、私たち沖縄県民(及び日本人)の常識(コモンセンス)や感覚から余りにもかけ離れていることから、「中国の非常識な主張が通用する訳がない」「馬鹿げた話は無視しておけばよい」と高を括ってしまいがちですが、沖縄の歴史や現状など実態を知らない海外の人々が信じてしまう可能性を完全に否定することはできません。

 台湾や尖閣諸島を含む沖縄周辺地域の軍事的覇権の確立を目論み、着実にその歩みを進めている中国に対抗するためには、中国政府によるプロパガンダのターゲットにされている沖縄県民自身が逐一それに反論し、国際社会に向けて発信するように努めていかなければならないのです(注2)

 

頑なに中国政府に抗議することを拒む玉城デニー知事

 

 このような状況に対し、沖縄県の首長たる玉城デニー知事は、「沖縄の基地問題」を巡って積極的に日本政府や米国を非難して抗議することを厭わないのとは対照的に、中国に対しては及び腰の発言を続けています。

 高市総理の発言に中国側が反発し、クルーズ船の寄港キャンセルなど沖縄の観光業に影響が出ていることについて「一義的には国の責任だ。国がどう対応するか、もっと緊張感と緊迫感をもってやっていただかないといけない」「誤解を与えるメッセージにならないよう、丁寧に中国側とチャンネルをつないでほしい」などというように、あたかも日本側に非があるような発言を繰り返す一方で、中国が沖縄に近接する東アジア海域で大規模な海上軍事行動(訓練)を展開して日本と台湾を威圧し、沖縄本島南東の公海上空で中国軍機が自衛隊機にレーダー照射をしたことについては「大変遺憾だ」と述べるにとどめています(注6)

 玉城デニー知事は、現在開催されている沖縄県議会定例会(2025年11月26日~12月22日)での質疑においても、中国政府が「琉球諸島(沖縄)の日本帰属」に疑義を呈し、「沖縄県民は先住民族である」などといったプロパガンダを展開していることや、尖閣諸島海域で中国海警局の艦船による領海侵入が繰り返され、日本漁船が操業妨害を受けていることについて、「中国政府に対して抗議も非難もしない」との姿勢を貫いています(注7)

 中国メディアで沖縄が日本であることを疑問視する宣伝が活発化していることについては、「沖縄県は日本国の地方自治体の一つであることについては日中双方とも共通認識があり、その上での現在の外交状況であると考えている」との見解を示す一方で、「県として抗議すべきではないか」との問いに対して「中国メディアによる論評はいくつか承知しているが、その意図は不明で、個人や企業の立場で表明されたものと認識している」と述べて、中国政府の立場とは切り離す(=中国政府に対する抗議はしない)との考えを示しています。

 また、前回の記事でも取り上げた中国政府の代表が国連で沖縄県民を「先住民」とみなす発言をしたことについては、「沖縄県として県民が先住民族かどうかの議論はしておらず、その点について発言するつもりはない」「沖縄に関する歴史認識や個人のアイデンティティについては県民一人ひとりにさまざまな考えがあり、それぞれが尊重されることが重要だ」と述べ、「県民の尊厳の観点から不適切だと明言できないのはなぜか」との問いに対しても同様の答弁を繰り返し、「沖縄県民は先住民族である」とする中国政府によるプロパガンダについて自らの見解を明らかにせず、沖縄県知事として中国政府代表の発言について否定することも抗議することも拒絶しました。

 さらには、尖閣諸島周辺海域で中国艦船が領海侵入を繰り返している問題については「一義的には海上保安庁にしっかり対応していただきたい」と述べ、「侵略行為だという危機感はないのか」「領海侵入は容認できないと明確に知事の言葉で発信できないのか」「自分の言葉で抗議しないのか」と問い詰められ、「領土・領海を巡る問題は国と国の外交の場で扱われるべきだ。日中両政府が対話により信頼関係を築くことを願っている」と答弁しており、沖縄県知事として自らの言葉で中国政府に抗議することを頑なに拒んでいます。

 

我が国の防衛力強化に否定的な玉城デニー知事

 

 これは今に始まった話ではありませんが、玉城デニー知事は我が国の防衛力強化について否定的な見解を示し、「国民(県民)の生命・財産」を守ることではなく中国政府の意向を優先するかのような発言を幾度となく繰り返しています。つい最近の事例として与那国町へのミサイル配備計画を巡る発言が挙げられます(注8)

 玉城デニー知事は11月30日の木原稔官房長官との会談後に報道陣の質問に答えて、台湾有事に関する高市総理の国会答弁と11月に与那国町を訪問した小泉進次郎防衛相がミサイル配備に関して「地域の緊張を高めるという指摘は当たらない」と述べたことについて「首相発言後の一連の流れが高市政権の方向性なのかと相手に与える心証が変わってくる」「物事を性急に進めるという思いから、そのような言葉が出てくる」「地元の状況を理解されておられないのではないか」と苦言を呈しています。

 与那国町への「ミサイル配備計画」は、台湾や尖閣などを含む沖縄周辺地域の軍事的覇権の確立を目論む中国に対抗するための防衛力強化(=「南西シフト」)の一環として進められているものであり、同計画について、中国外務省の報道官が「極めて危険。緊張を意図的に作り出している」と厳しく批判する姿勢を示していることからも、中国に対する極めて有効な「抑止力」になり得るものと考えられます。

 与那国町への「ミサイル配備計画」に関する玉城デニー知事の発言は、我が国の防衛力強化、すなわち「国民(県民)の生命・財産」を守ることを否定し、中国政府に忖度する発言であると看做されても致し方がありません。

 

ダブルスタンダードのご都合主義-国益を損なう玉城デニー知事の言動

 

 玉城デニー知事は10月24日の定例会見で、尖閣諸島周辺海域に常駐する中国艦船が地元漁船の漁を脅かし、漁民に不安が広がっている問題についての所感を問われ、「どこで漁をするかは、私たちがあっちでやれ、こっちでやれという訳にはいかない」と前置きした上で「安心安全な領域で漁を営まれることを選択された方がよろしいのではないか」というように、日本固有の領土・領海である尖閣諸島周辺海域への出漁を自粛するように促しているとも受け取られかねない発言をしています。記者から尖閣問題について問われて「領土・領海など国の主権にかかわる問題は、一義的には政府間で解決すべきものだ」と強調し、中国側に抗議しない考えを示しました(注9)

 前述した県議会の質疑でも、この定例会見のやり取りが取り上げられており、玉城デニー知事は、会見時の発言について「中国の海警船による威圧行為が現に繰り返されていることを踏まえ、その危険性を考慮して、漁業者の安全安心の確保に触れたものだ。漁業者が領海内で行う操業が妨げられることがあってはならない」と答弁していますが、「争いがある海域という誤解を発信してしまっている」として発言の撤回を求められ、「県が安全確保を理由に、領海の正当性を曖昧にするほど危険なことはない」「中国の認知戦工作に完璧に利用される。なぜ中国が国連の場でこういう発言(沖縄県民を「先住民」とみなす発言)をしたのか、知事は魂胆を理解しないといけない」と厳しく批判されています(注7)

 玉城デニー知事は、尖閣諸島周辺海域で中国側が力による一方的な現状変更の試みを先鋭化させていることには抗議しない一方、県内で相次ぐ在沖縄米兵による性的暴行事件では米政府側に何度も抗議しています(注10)。10月24日の定例会見で記者から「米国と中国に対する姿勢に差があるのではないか」と指摘された際には「日米同盟関係の平等性、公平性に基づいて発言している」と強調し、国土面積の0.6%の沖縄県に全国の70.3%の在日米軍専用施設・区域が占有しているとして「その重すぎる負担によって(米兵による)事件・事故が続発しているのではないかという不安が、県民からは一向に払拭される方向性が見えない」などと述べ、「同盟関係の安定的な推移を国民、県民に求めるのであれば、同時にそのための責任をしっかり果たすべきだ」との認識を示しています(注9)

 『産経新聞』の大竹直樹那覇支局長は、「地元漁師に尖閣周辺の出漁自粛を求めるとは何事か 国益を損なう玉城デニー知事の言動/沖縄考(59)」と題するコラムで、実際に県民が被害に遭っているのは同じであるにもかかわらず、米軍基地問題では米政府側に抗議を繰り返している一方で、尖閣問題では中国政府に「遺憾砲」すら放つことなく、抗議しようとしない玉城デニー知事の姿勢について「ダブルスタンダード(二重基準)のご都合主義との批判は免れまい」と指摘し、尖閣問題に関して中国側に誤ったメッセージを与えることになりかねない玉城知事自身の言動が国益を損なう恐れもあると厳しく論難しています(注11)

 

沖縄県知事たり得る資格とは何か

 

 玉城デニー知事の一連の発言は、次のように整理されます。

    • 存立危機事態発言→高市政権を非難
    • 自衛隊による防衛力強化(南西シフト)→高市政権を非難
    • 沖縄の基地問題及び在沖米兵による事件・事故→県民の不安を理由に非難
    • 中国の軍事的威圧、尖閣諸島周辺海域など領海侵犯→県民への明らかな影響が出ているにもかかわらず、政府間で解決すべき問題であるとして非難せず
    • 中国によるプロパガンダ→中国政府ではなく、個人や企業の立場で表明されたものと認識しているとして非難せず

 玉城デニー知事の一連の発言が、沖縄と日本を分断しようとする中国の魂胆に気づいていないことによるものなのか、あるいは何らかの理由があって中国の意向に沿うことを意図しているのかということについては判然としませんが、結果的に沖縄や日本に害を及ぼし、中国を利する発言ばかりとなっています。

 いずれにせよ、玉城デニー知事が発する言葉が「国民(県民)の生命・財産」を危険に晒し、国益を損なうことに繋がる可能性があることは明らかであり、それが改まらない限り、沖縄県の知事に相応しくないと断ぜざるを得ません。

 県民の代表たる沖縄県知事は、沖縄には「独立問題」や「先住民問題」など存在しないこと、「沖縄の人々は日本人である」ということを県内外に向けて宣明すべきであり、沖縄を日本から分断しようとするプロパガンダに対して断固として抵抗するという強い決意と態度を明らかにすることができない人物には「沖縄県知事たり得る資格が備わっていない」ということは明らかです。

 また、それと同時に『琉球新報』『沖縄タイムス』をはじめとする沖縄のマスメディアは、「琉球(沖縄)は独立すべきである」「沖縄県民は先住民である」などといった言説が極々少数の活動家や思想家たちが唱える極めて例外的な主張であり、決して沖縄県民の「民意」を代表している訳ではないということを国内外に積極的に発信していく責務を負っていると言えるのではないでしょうか。

 自らに与えられた社会的責務を自覚し、その責務を果たす意志がなければ、彼らに「社会の木鐸」や「社会の公器」を名乗る資格がないということになるのだと思慮します。

 中国から発せられる日本と沖縄を分断しようとするプロパガンダに対する反論は、沖縄から発信することによってこそ説得力が増すのであり、現在、中国が仕掛けている「認知戦」に対する最も効果的な対抗策であることは間違いありません。

 沖縄県の首長たる知事には、中国政府が仕掛けてくるプロパガンダを毅然とした態度で跳ね付けることによって、私たち県民に対して自らに「沖縄県知事たり得る資格」が備わっているということをはっきりと示していただきたく思います。

 

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(注1) 沖縄県知事 玉城デニー OFFICIAL WEBSITE

(注2) 【藤原昌樹】沖縄を危険に晒す知事は退任すべし ─中国の「分断工作」につけ込まれる玉城デニー知事の「人柄の良さ」- | 表現者クライテリオン

(注3) 中日間の対立が続く中、中国官営メディア「日本の琉球は中国の属国だった」報道 | Joongang Ilbo | 中央日報2025年12月2日

(注4) 高市発言後に急増した日中めぐる偽情報 動画を改ざんして「琉球独立」煽る認知戦

(注5) 木原氏「コメントする必要ない」 沖縄帰属巡る中国報道|47NEWS(よんななニュース)『共同通信』2025年12月1日

(注6) 玉城知事、沖縄防衛局長らに状況説明求める 中国軍機レーダー照射問題受け | 沖縄タイムス+プラス2025年12月8日

(注7) 「沖縄は日本、両国とも承知」 中国メディア宣伝で玉城知事 – 八重山日報 -Yaeyama Nippo-八重山日報 -Yaeyama Nippo-2025年12月3日

(注8) 与那国ミサイル配備に苦言 知事「相手への心証変わる」 – 八重山日報 -Yaeyama Nippo-八重山日報 -Yaeyama Nippo-2025年12月2日

(注9) 沖縄・玉城デニー知事、尖閣で操業の日本漁船に「安全・安心な領域での漁を選択して」 – 産経ニュース 2025年10月24日

  • 「安心安全な領域選択を」/尖閣出漁、漁民の不安に知事『八重山日報』2025年10月25日

(注10) 沖縄・玉城知事「断じて許されない」 わいせつ容疑で米海軍兵士の書類送検受け – 産経ニュース2025年11月19日

(注11) 地元漁師に尖閣周辺の出漁自粛を求めるとは何事か 国益を損なう玉城デニー知事の言動 沖縄考(59) 那覇支局長・大竹直樹 – 産経ニュース2025年11月12日

 

参考資料

(藤原昌樹)


 

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