【鳥兜】「戦後レジーム」と「保守本流」 岸田文雄アメリカ演説を考える

啓文社(編集用)

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本日は6月14日発売、『表現者クライテリオン2024年7月号 [特集]自民党は保守政党なのか?』より、巻頭コラム「鳥兜」をお送りいたします。

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【鳥兜】「戦後レジーム」と「保守本流」 岸田文雄アメリカ演説を考える

「戦後レジームからの脱却」とは、第二十一代、第二十五代自由民主党総裁=安倍晋三の言葉だが、その「戦後レジーム」を作ったのは、ほかならぬ自由民主党自身であり、とりわけ安倍の祖父である岸信介と、その後継の池田勇人だった。

 確かに、岸自身の目指したところは、憲法改正による日本の自主独立だった。が、その片務性(対米不信を招きかねない旧安保条約の内乱条項や対日防衛の不記載)を是正しようとしてなされた一九六〇年の安保改正は、岸の意図とは裏腹に、〈米国依存による戦後復興〉の路線を固定化させ、後継池田内閣による高度経済成長を導くのである。そして、このときレールが引かれた日米基軸路線が──つまり、〈九条─安保〉体制だけは問わずに済ませておこうとする暗黙の了解が──、自民党の「保守本流」を形作っていくのだ。

 しかし、そう考えれば、その「保守本流」(宏池会)を継ぐ岸田首相の米国連邦議会上下両院合同会議演説(今年四月)における、あまりの卑屈さにも納得がいく。岸田首相は言う、「『自由と民主主義』という名の宇宙船で、日本は米国の仲間の船員であることを誇りに思います」、「米国は独りではありません」、「日本はこれからもウクライナと共にあります」、「日本はかつて米国の地域パートナーでしたが、今やグローバルなパートナーとなったのです。日米関係がこれほど緊密で、ビジョンとアプローチがこれほど一致したことはかつてありません」と。

 そもそも憲法改正もできず、自衛軍を作る気概もなく、したがって安保条約はおろか、日米地位協定にさえ一指だに触れられない従属国家日本が、ウクライナと共にあったり、米国とグローバルパートナーであったりできるはずがなかろうというツッコミは、この際、措いておく。が、それにしてもこのスピーチにおいておぞましいのは、岸田首相の頭から“戦前の記憶”の一切が蒸発している点である。岸田首相は「米国は、経済力、外交力、軍事力、技術力を通じて、戦後の国際秩序を形づくりました(…そして、そのために米国は)尊い犠牲を払ってきました」と、対米リップサービスに必死だが、しかし、それなら、その「戦後の国際秩序」は、一体誰が敗けたことによってもたらされたものなのか。さらに言えば、米国の犠牲が「尊い」のであれば、日本の犠牲は一体何だったと言うのか。

 なるほど、ここまで卑屈なリップサービスは、「今日のウクライナは、明日の台湾である」という危機意識の表れだと言うこともできる。が、それなら逆に、分裂気味のアメリカにここまで追随してしまうことの危険を、そして、直接の利害関係を持たないばかりでなく、敗色濃厚となった“遠い国=ウクライナ”にここまで肩入れしてしまうことの危険を、そして、北方領土問題を抱えているロシアを敵に回してしまうことの危険をなぜ誰も指摘しようとしないのか。

 しかし、この他国に対する距離感覚の麻痺こそが、〈九条─安保〉体制という「ごっこの世界」のなかで国家意識を溶解させてきたことの結果なのかもしれない。かつて、方法としての「親米」を語ったこともある江藤淳は、しかし、冷戦が終わってもなお対米依存をやめようとしない戦後日本人に向かって次のように書いていた、「経済は悪いが、国民はみんな小金持になり、全部寄せると千兆円以上の資産がある。だが、精神はゼロ以下になった。これが国なのか、という根本問題に直面している」(「今想え、西郷南洲『立国の気概』」一九九八年)と。しかし、それなら今は、江藤淳の驥尾に付して次のように言うべきなのかもしれない。すなわち、「精神はゼロを遥かに下回り、ついに日本は完全な傀儡国家となった」と。

(『表現者クライテリオン2024年7月号)巻頭コラム「鳥兜」より)

 


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