(お知らせ)
京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座・主催
【浜崎洋介】 連続講座「2024年度・レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」
こんにちは、文芸批評家の浜崎洋介です。
この度は、京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座主催の連続講座、「レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」(2024年8月~2025年3月まで、基本的に月一回ずつ行う公開講義)開催のお知らせのため、メールを書いています。
私が所属している「レジリエンス経営科学研究寄附講座」は、昨年まで京都大学の藤井聡先生井がユニット長を務めていた「レジリエンス実践ユニット」を引き継ぎつつ、これまで積み重ねられてきた文理融合的・学際的なレジリエンス研究を更に深化させ、またその認識を広げていくために2023年10月から設置された研究室です。そして、この度、告知を差し上げている連続講座も、昨年好評を頂いた「京都大学レジリエンス・フェスティバル2023」(https://www.youtube.com/watch?v=gji3ivVPb9o&t=10691s)を引き継ぎ、それを月一回の講義に編成し直して、改めて企画したものです。
ところで、研究室の名前にある「レジリエンス(強靭性)」ですが、よくいただく質問のひとつに、「それは単なる〈強さ〉と何が違うのですか?」というものがあります。
なるほど、言われてみれば確かにそうで、漢字だけを見れば「強靭性」も「強さ」も大した違いはないように見えます。が、わざわざ私たちが「レジリエンス(強靭性)」と言っているのには、それなりの理由があります。
ポイントは、「しなやかさ」です。
たとえば、英和辞典などを引いてもらえばすぐに分かることですが、Resilienceの原義は「回復力、立ち直る力、復活力、はね返り、とび返り、弾力性」です。それは、つまり単なる「強さ」や「堅固さ」を意味する言葉ではなく、むしろ困難や危機を引き受けながら、それをなお「しなやかに乗り越え回復する力(精神的回復力)」のことを指している言葉です。そこが、単なる「堅牢性」(Robustness=ロバストネス)と、「強靭性」(Resilience=レジリエンス)とを分ける点だと言っていいでしょう。
たとえば、「堅牢性」と「強靭性」の違いを説明するためによく引かれるのが、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ(1621—1695年)の有名な寓話詩「樫と葦」の話です。
寓話のなかで、樫の木は自信満々に己の「堅牢さ」(Robustness=ロバストネス)を誇ります。自分は、頑丈で力強く、嵐にも抵抗することができるのだと。その一方で、樫の木から同情される葦は、たしかにちょっとした風にも曲がってしまい、一見、弱そうに見えます。が、葦は言うのです、「心配には及びません。…私は曲がりますが、折れはしません」と。そして、ある時、地平線の向こうから今までに経験したこともない嵐がやってきたとき、堅牢だった樫の木がポキッと折れてしまうのとは反対に、風(自然)に任せて柔軟に曲がる葦の方は、嵐が過ぎ去れば元の姿に戻っていたのでした。
ある程度の風には耐えられるが、あまりに激しい暴風には耐え切れず、しかも、一度折れてしまえば二度と元には戻らない「堅牢性Robustness」。それに対して、ちょっとした風にも揺らぐが、しかし、嵐が過ぎ去ってしまえばすぐに元の姿に戻っている「強靭性Resilience」。フォンテーヌと同時代を生きたパスカルの言葉に、「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかし、それは考える葦である」というのがありますが、まさにパスカルの箴言も、フォンテーヌの寓話と同じように、一見、弱そうに見える人間の、その〈真の強さ〉を私たちに示し諭してくれているように思われます。
にもかかわらず、これまで現代人は、自然における異常なもの、例外的なもの、偶然的なものの全てを排して、「ああすれば、こうなる」のシステムを構築しようとしてきました。そして、システムを堅牢にすればするほど、そのシステムによって逆に身動きができなくなっていっただけでなく、そのシステム依存の習い性によって、自らの「回復力」や「弾力性」——つまり「生きる力」——をも失ってきたのでした。しかし、そうなれば、大小様々な危機に際して——受験の失敗、事業の失敗、仕事の失敗(失業)などの個人レベルの危機から、地震・風水害等の自然災害、パンデミック(コロナ危機)、地政学的紛争リスク(ロシア—ウクライナ戦争、台湾危機)、世界同時不況(デフレとスタグフレーション)などの国家や社会における危機に際して——、私たちが、それに適切に対応することは難しいと言わなければなりません。
では、私たちの「強靭性Resilience」を高めるためには何が必要なのか?
それを総合的に考える場、それが、まさにこの「レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」の連続講座だと考えていただければと思います。そのため本講座は、文化、思想、哲学、歴史、経済、公共政策、経営、風土、交通・産業政策を専門とする先生方をお招きしながら、様々な視点から「レジリエンス」を議論していきたいと考えています。
いや、そもそもレジリエンス研究とは、一つの視点によって切り取られたシステムの脆弱性を乗り越えようとする研究であり、そうである限りで、まさに、時と処と立場で様々に変化する「自然」に適応する柔軟性や、学際的で多様な視点を必要とする研究だと言っていいでしょう。
そして、そうである以上、その成果に関しては、「レジリエンス」に関心がある方全てに等しく公開すると共に、この連続講座を纏まりのあるものにすべく、初回講義を担当している私自身が、全ての講義の司会役も担当させていただくことを考えております。
以下は、「申し込み方法」を含めた詳細となります。参加は無料。ご興味のある方は、是非、ご参加ください。
この度、京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座では、「レジリエンス―人間と社会の強靭性を考える」と題した連続講座を開催いたします。本講座では、人文社会科学および社会工学における探求を通して、多角的な視点から人と共同体のレジリエンス力を高めるヒントを探ります。地震・風水害等の自然災害やパンデミック、地政学的紛争リスク、世界同時不況等、あらゆるリスクに直面してなお、人を動かし、一定の共同性・凝集性を維持し、事業継続を可能とするものとは何か。本講座を通して、レジリエンスへの理解を深め、自己と社会を理性的にとらえる力をはぐくみます。
浜崎洋介(京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座准教授、文芸批評家)
「現代の超克―戦後社会の脆弱性を乗り越えるために」
「グローバル化時代の複合危機」
白水靖郎(京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員教授、中央復建コンサルタンツ株式会社代表取締役社長)
「公民連携の功罪」
岩尾俊兵(慶應義塾大学商学部准教授)
「カネの論理とヒトの論理:資本主義の再構築」
山口敬太(京都大学大学院地球環境学堂 准教授)
「現代社会における共同性を考える」
辻田真佐憲(京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座客員准教授、著述家)
「AI時代の情報戦をどう考えるか」
山田忠史(京都大学経営管理大学院教授)
「持続可能なビジネスとIT—わが国の物流を題材として」(仮)
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【会 場】京都大学 吉田キャンパス(〒606-8501 京都市左京区吉田本町)
総合研究2号館 1階 講義室1
※会場は変更となる場合がございます。その場合はお知らせいたします。
【定 員】100名
【対 象】一般、大学院生、大学生
【参加費】無料(事前申込制)
【申込方法】こちらの申込フォーム( https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSePx-dmpb_L_WVaaIQbVXKamL6kv0OuaYWMwyEIZJi4DRtDww/viewform )よりお申し込みください。各回とも定員に達し次第、申込を締切とさせていただきます。
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京都大学経営管理大学院レジリエンス経営科学研究寄附講座
E-mail: info.resiliencestudies@gmail.com
https://resilience-keieikagaku.com/
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