【執行草舟】真の指導者に宿る 「誇り」とは何か-乃木希典を例に

啓文社(編集用)

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民族の誇りは歴史から生まれ、
時代を愛する指導者が受け継ぎ、
人々に伝播する。その実例を明治に見る

真の指導者は歴史を担う

 人類の歴史は、指導者たちの歴史だった。あらゆる指導者たちが、我々の文明をいろどって来たのだ。我々が歴史上に見る、いかなる悲劇も不幸も、その全てが指導者によって生み出されて来た。もちろん、全ての幸福もまた指導者たちの資質によってもたらされたのである。私は歴史の上に、人間の本当の生きがい、そして生命の躍動が実現されていた時代を読み解こうとして、不断の読書に明け暮れて来たと言っても過言ではない。
 それによって自分なりに摑んだ事柄があった。それが人間の魂に宿る「誇り」の問題なのだ。人間とは、誇りに生き誇りに死するとき、生命が最も輝くことを歴史は証明している。真の指導者とは、自らの誇りに基づき自らの生命と人生を捧げ尽くす者だったと言えよう。何よりも、多くの人々の心に時代が求める誇りを植え付けることが出来る人だった。各々の時代は、指導者の違いによって、多くの人々が生命を萎縮させられるか、また輝き躍動する人生を送れるかが決定されて来たのだ。
 さて、それではその誇りが、何から生み出されるのかということになる。それは人類の「真の歴史」を措いて他にはない。真の歴史とは、自分に対する垂直の歴史を指す。つまり自らの民族の歴史、そして自己の生まれた家系そのものの歴史と言えよう。歴史の中に秘められた悲しみや喜びの全てが、自己の中に誇りを生み出す。真の歴史が、自己の本当の命を立たしめるのである。
 真の歴史を担う人間は、文明と文化を生み出すために辛苦の涙を流して来た。また、それらの人々は涙から生まれる喜びをも獲得して来た。それを知るのだ。そこに人間生命に与えられた「誇り」が潜んでいる。それを摑み、それを自ら実行する人生を生きる者だけが、真の指導者に成れる素質を得ると言っていい。そのような指導者が立ったとき、多くの者はその人物を仰ぎ見ることが出来る。指導者は、本当に仰ぎ見られるか、見られないかによって、価値が決定されるのだ。
 それが本当かどうかに、全てがかかっている。本当なら、そこに自ずからなる「感化力」というものが働くことになる。この感化力と呼ばれるものが、指導者の生命に漲る「誇り」を、全ての人々に伝播していく力を与えてくれるのだ。指導者の中に漲る誇りは、伝播することによって真の人間の力を引き出すこととなる。その力こそが、一つの時代を築き、一つの事業を成し遂げ、一つの強靭な家族をこの世に生み出すことになる。

偉大なる明治と明治帝

 ここに、一つの誇りに満ちた「時代」の例を挙げたい。我々が知る「明治」がそれだ。明治は、王政復古の理想が生み出した産物である。日本人が自らの魂の故郷を求めた「純粋性」が、この民族に大いなる誇りを植え付けたのだ。それは初め「尊王攘夷」として吹き荒れ、後に「近代化」に向かう底力を日本民族にもたらしてくれた。多くの人々が、日本の魂に誇りを持ち、日本のために人生を捧げ尽くすことを当然と思った。魂の理想が、明治帝という一人の帝王の姿に凝縮し、その伝播の力によってほとんど国民の末端にまで、日本人の誇りが行き渡った時代が到来したと言えるのだ。
 明治を知ることこそが、日本人に真の誇りとは何かを思い出させてくれることとなる。明治は、先に触れたように、日本人の魂の理想が築き上げた時代だった。それを一人の帝王が、生きた姿で全国民に真の感化力として与え続けたのである。明治帝は、維新動乱の中で、祖先から来る国の命運に自己の命の全てを捧げ尽くす覚悟を確立していたのだ。理想を受け取ったその誇りが、全国に行き渡った。そして偉大なる明治が回転していく。

明治を象徴する乃木希典の「誇り」

 いまここに、帝の誇りを全て受け取った人物がいる。それが明治陸軍の乃木希典である。乃木は、明治を象徴する人物となった。乃木を語ることは、明治を語ることでもあるのだ。何よりも、明治という時代を吹き抜けていく日本民族の「誇り」を語ることになる。乃木は明治帝の誇りを受け、自らの誇りを創り上げた。そして乃木の誇りが、多くの日本人の心に日本人としての真の誇りを植え付ける働きをしたのだ。
 乃木と共に明治は興隆し、乃木の殉死と共に偉大なる明治は去ったのである。乃木は明治帝の恩を噛み締めながら生きた。若き日の西南戦争に、軍旗を失って死のうとしたとき、帝によってその命を救われた恩を抱き締めて生きたのだ。そして軍人としての乃木の偉大な生涯が始まった。帝を仰ぎ見る日々、つまり自らの命を国家に捧げ尽くす日々が始まった。乃木は日々の軍務の終わった後、家での食事のときも、また就寝のときでさえ、軍服を脱ぐことはなかった。
 それは一朝事あるときに、軍人としてすぐに戦うことが出来るようにとの配慮によるものだ。そして、すぐに明治帝の下に馳せ参ずるためである。そのような日常を乃木は送り続けた。それは乃木の中に、激しく立ち上がる誇りがあったからに他ならない。恩に生きる自己に誇りを持ったことだろう。軍人として忠義の道に邁進できる自己に誇りを持てたことだろう。その誇りによって生きる姿勢が、乃木の多くの部下たちに伝播していったのだ。乃木は、その歴史的な妻と息子たちを育て上げていった。明治帝の誇りが、乃木を生み出し、乃木の誇りが明治陸軍と家庭の中に浸透していった。誇りが、その全ての人間たちの人生に躍動を与えたのである。あの日露戦争のとき、乃木希典は陸軍大将として第三軍司令官を仰せ付かった。…(続きは本誌にて…)
 

 


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