本日は10月16日発売、『表現者クライテリオン2024年11月号 [特集]反欧米論「アジアの新世紀に向けて」』より、巻頭コラム「鳥兜」の一部をお送りいたします。
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本誌の前身である『表現者』顧問・西部邁先生とも浅からぬ縁があった文芸評論家の福田和也氏が、九月二十日、六十三歳の若さでこの世を去った。西部先生との附き合い─一時は雑誌の編集委員でもあった─と、その別れの事情については、他の場所で書かれることもあろう。
が、小欄が改めて想い出しておきたいのは、平成という時代と共にあった福田和也という存在と、その意味である。ここ十年ほどは、病気のせいもあってか、表舞台に立つことはほとんどなかったが、九〇年代からゼロ年代にかけては、まさしく「若き保守のエース」として、メディアでその名前を見ない日はないというほどの活躍ぶりだった。文壇と論壇の両方に足をかけ、左の『批評空間』から右の『諸君!』まで、さらには週刊誌、サブカル誌、新聞、テレビにまでその活動を広げ、文字通り「放蕩としてのファシズム」(『奇妙な廃墟』)を思わせる姿で、あらゆる文体を駆使しながら、あらゆるメディア、あらゆる領域に登場したのだった─そう言えば、福田氏には、『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』なんていう本もあったと記憶する─。
しかしそれなら、福田氏がメディアに媚びていたのかと言うと、そうではない。
「敵」に対する福田和也氏の舌鋒は鋭く、たとえば、八〇年代批評を作り上げた蓮實重彦、柄谷行人、浅田彰の三人に対する批判(『甘美な人生』及び『グロテスクな日本語』参照)は、今時の単なる「反サヨク」による揚げ足取りのレベルを遥かに越えて、彼らにおける「自己欺瞞」を論理的に剔抉するといった本格的な批評文だったし、その鋭さは、自分の師匠筋である江藤淳に向けられることさえあったのである(『江藤淳という人』参照)。それは、まさに、小林秀雄、保田與重郎、福田恆存などにも通じる「文士」の姿であり、さらには、太宰治、坂口安吾、中上健次にまで通じる「無頼」の生きざまであった。
なかでも忘れ難いのは、『奇妙な廃墟』と『地ひらく』、そして同じく保守文芸業界の無頼=坪内祐三氏(二〇二〇年に六十一歳で没)と組んで出した雑誌『en-taxi』だろう。ナチズムにコミットしたフランスの反近代主義者=対独協力作家の系譜を論じた『奇妙な廃墟』は、世界でも類を見ない唯一無二の傑作評論であり、「石原莞爾と昭和の夢」を副題に持つ『地ひらく』は、軍事史から近代日本の姿を透かし見つつ、昭和戦前史の本質を抉る快著だった。そして『en-taxi』は、落語(立川談春)から俳句(角川春樹)、写真(中平卓馬)から東映ヤクザ映画(中島貞夫)までの遊びを教えてくれた「文化の歩き方」だった。
が、これだけ幅広い活動を見せながらも、福田氏を導いた「問い」は案外にシンプルなものではなかったかと小欄は考えている。それは、平成と共に開かれた「冷戦後の世界」で、つまりアメリカの庇護を失い「戦前」の条件が回帰しつつある近代世界のなかで、「日本が自己をどう了解するのか、いかなる存在として世界にみずからを示すのか、というアイデンティティにかかわる『問い』」(『遥かなる日本ルネサンス』)ではなかったかと。言い換えれば、この単純な問いこそが「パンク右翼」とも、「ポストモダン保守」とも呼ばれる衒学性を纏いながら、福田氏の言葉を様々に分岐させ、繁茂させていったものではなかったかということである。
なるほど、福田和也氏の「自由」は、デフレもSNS(炎上)もない時代のものだと言うことは可能だろう。が、未だ福田氏の「問い」に誰も正面から答えてはいない以上、氏の言葉は生き続けている。「福田和也とその時代」、それはまだ終わっていないのである。
福田和也氏のご冥福を心からお祈りしたい。
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