【鳥兜】トランプの再来で、「ごっこの世界」は終わるのか?

啓文社(編集用)

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今回は、巻頭コラム「鳥兜」をお送りします。

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 二〇二五年一月二十日、ドナルド・トランプが第四十七代アメリカ大統領に就任した。
 就任演説で「米国の完全なる復活と常識の革命が始まる」「米国の黄金時代が始まる」と宣言したトランプは、初日から、WHO(世界保健機関)からの脱退、地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」からの再離脱、多様性政策の撤廃、さらには、「国家非常事態宣言」によるメキシコ南部国境への米軍派遣(不法移民対策)や、「国家エネルギー非常事態宣言」による国内での石油・天然ガスの増産指示など、四〇本以上の大統領令や大統領覚書に署名した。まさに、これまで推し進められてきたグローバリズムからの、そして、その断末魔である民主党バイデン政権からの「大転換」である。
 トランプ大統領の言葉は「米国を第一に考える。最優先事項は誇り高く、繁栄し、自由な国をつくることだ」と華々しいが、その言葉を冷静に読み取れば、おそらく以下のような解釈が妥当だろう。つまり〈米国はもう、世界秩序を形成するほど豊かで余裕のある贈与主体ではない。よって、これからは自国のことだけにかかずらうことになる。もちろん、これからも中国、ロシア、イランなどに対する備えは必要だし、自国の軍備も整えていく。が、勘違いしないで欲しい。それは地域の安全保障などを担うためではなく、飽くまで米国一国の安全を守るためである。いや、もしかすると、これまで贈与してきてやった分、同盟国にはその「お返し」を求めるかもしれない。覚悟しておくように〉と。
 しかし、考えてみればこの言葉こそ、戦後の保守派が求めてきたものではなかったか。
 かつて文芸評論家の江藤淳は、日本が「自己同一性」を求めるなら、米国の「後退」は必須だが、しかし、冷戦下での「生存の維持」(安全保障)を考える限り、米国の「現存」を求めざるを得ないという苦しい条件のなかに戦後日本の宿命を読み取っていた。そして言うのである、「『米国』が現実をへだてるクッションとして現存しているために、戦争も歴史も、およそ他者との葛藤のなかで味わわれるべき真の経験は不在であり、逆にいえば平和の充実も歴史に対立すべき個人も不在である」(「『ごっこ』の世界が終ったとき」一九七〇年)と。
 が、今や米国の方から、その「クッション」であることを放棄したいと言い出しているのだ。とすれば、今こそ日本は、江藤淳が言うように、「交戦権」回復と共に「米国にとって強制されたパートナー」ではなく「一個の自由なパートナー」となるべく努力しつつ、日米同盟から「占領の継続という色彩を一切払拭して、〔それを〕自由な主権国家間の同盟に変質」させるべきではないのか(「一九四六年憲法―その拘束」一九八〇年)。
 ただ、この期に及んで我が国の首相は、首相指名選挙中に居眠りをし、挨拶に来た外国首脳に座ったまま挨拶をし、各国首脳が居並ぶ記念撮影で一人だけ腕組みをし、習近平主席と握手をする際には、まるで臣下のようにその手を両手で包み込み、さらには、おにぎりさえまともに食べられないほどに危機感のない人間なのである。アメリカに対して、日本が「一個の自由なパートナー」となることなど夢のまた夢だと言うべきだろうか。
 ということは、まず私たちの目の前にある課題は、「交戦権の回復」や「日米同盟の変革」を目指すより手前で、なんと〈ごっこの世界=戦後日本人の政治意識〉の変革なのかもしれないのだ。戦後八十年に及ぶ「国家否定」の呪縛は、深い。


<編集部よりお知らせ1>

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