【特集鼎談】歴史的「大転換」を好機にするために(前編)/辻田真佐憲×藤井聡×浜崎洋介

啓文社(編集用)

啓文社(編集用)

最新刊、『表現者クライテリオン2025年3月号 [特集]トランプは”危機”か”好機”か?』、2月15日発売!!

本日は特集鼎談の冒頭をお送りします。

「サポーターズ」に入会して、最新刊をお得に入手!

本書の購入はこちらから!


アメリカを覆う「愛国」と「不安」

藤井▼今回は近現代史研究者で京都大学客員准教授の辻田真佐憲さんにお越しいただき、浜崎さんと僕の三人で「トランプは“危機”か“好機”か?」というテーマで特集座談会をお届けいたします。
 日米のオールドメディアは「トランプの勝利は大変な危機である」と言い続けていますが、一方でトランプが勝利したということは、アメリカ国民の過半数が「自分たちの暮らしや国を守るためにはトランプが必要だ」と判断したということを意味しています。日本国内でも、トランプが言うところの「ディープステート」、つまり既得権を持ったグローバリストや圧力団体を弱体化し、民主主義や保護主義や保守主義を回復し、さらに安全保障上の安定を導く上でトランプの勝利は好機になり得るのではないかという見方もあります。
 僕は「トランプは危機である」という見方もあり得るだろうと思う一方で、好機という側面も強いのではないかと思います。この危機と好機をしっかりと認識すること、そして日本がなすべきことを整理しておくことが、これからの日米外交や世界の流れに対峙する上で極めて重要だろうと思い、今回の特集を組むことにしました。
 辻田さんはアメリカに二週間ほど滞在して情報を集めてこられたそうですので、ぜひ最新の雰囲気も交えてお話をお聞きできればと思います。
辻田▼私は昨年、大統領選挙が行われていた時期にアメリカに行きました。滞在したのは民主党が強いワシントンやニューヨーク、ボストンなどの東海岸で、アメリカという国が「国家」をどう捉えているのかを考えてきました。
 いくつか感じたことはあるのですが、アメリカはやはりすごく愛国的な国です。日本と違い、ナショナリズムや愛国は基本的に良いことだと捉えられています。どこに行っても星条旗だらけですし、国威を発揚する施設がエンターテイメントと結びついていました。例えば、星条旗という国旗がどのようにしてできたのかを伝える優れた映像作品があり、それを観に来たアメリカ人が感動のあまり思わず立ち上がって胸に手を当てるという具合です。
 ただ、その裏には「不安」もあるように思いました。アメリカはもともと極めて人工的な革命国家で、しかもネイティブアメリカンを殺戮することで領土を拡張したわけです。だから、自らが依って立つナショナリズムや理念を常に問い直して強く肯定しないと、自分たちが否定されてバラバラになってしまうような不安を抱えている。そこが日本とは全然違うなと感じました。
藤井▼トランプの勝利はそうしたアメリカの愛国主義や不安と濃密に結びついているように思いますが、そのあたりはどうでしょうか。
辻田▼ニューヨークにあるトランプ・タワーも見に行ってきたのですが、一階から五階ぐらいまでがアトリウムになっており、レストランや土産物屋が入っていて観光客も普通に出入りできます。その地下にはトランプグッズ店があり、帽子やシャツ、文房具など百数種類のトランプグッズが売っていました。
 では、その店の主人はマッチョで白人の典型的なトランプ支持者なのかというと全然そんなことはなく、インド系の移民でした。もちろんトランプのことは嫌いではないのでしょうが、どちらかというとトランプ現象に乗っかったほうが稼げると判断し、もともとの新聞販売店をお土産物屋に模様替えするような、利に聡い人物でした。トランプ現象というとイデオロギー先行だと思われがちですが、経済の要素がすごく大きい。これは既に多くの指摘がある通りで、バイデン政権下では物価が急上昇し、経済状況が悪化していました。そのため、「何とかしてほしい」という思いから民主党支持者だった人々の中にも共和党に投票した層が一定数存在し、結果として今回の圧勝につながったのです。このトランプグッズ店の主人も、そうした経済重視の流れを象徴する存在のように感じられました。
 トランプ政権が間近になった今、アメリカの大企業もLGBTや多様性といった方針を転換し始めています。信念があればトランプ政権になろうが続けるはずですが、結局はその場の空気や、どうすれば儲かるかというところで動いていたからトランプ政権になるとすぐに転換するわけです。
 要するに、これまで主張されてきた理念の弱さが明らかになったと言えるでしょう。そういうものは経済的にある程度豊かだからこそ成り立っていたのであり、経済が不調になると別の理念に取って代わられるという現実を再確認させられました。これも、トランプ現象の一つの帰結と言えるのではないでしょうか。

ポスト冷戦イデオロギーの終焉と戦後の総決算

藤井▼おっしゃる通りですね。日本も同様に積極財政派の台頭がありましたが、現状、経済政策が国民にとって最大の関心事になるのはもっともだと思います。浜崎さんは、トランプ勝利をどう見られますか?
浜崎▼「トランプ現象」はイデオロギーによって引き起こされたものではないというのは重要ですね。保守は、イデオロギーではなくある種の生活感覚に根差していますが、「トランプ現象」の背後にも、実はイデオロギーではない生活があるのではないかという指摘は、私もそう思います。
 その上で、改めて歴史の流れをさらっておくと、トランプの再登場は、ポスト冷戦期イデオロギーの完全な終焉を意味していると考えていいでしょう。では、ポスト冷戦期イデオロギーとは何かといえば、それこそ冷戦後の一九九二年にフランシス・フクヤマが語った、「リベラルデモクラシーの勝利」という物語です。経済の言葉で言い換えれば、要するに「自由市場の勝利」ということにもなりますが、その後にアメリカは実際に、軍事・外交面と、経済・市場面の二つの面で、このリベラルデモクラシー=市場原理主義のイデオロギーをグローバルに拡大していきました。しかし今回、トランプの再選によって、これまでのグローバリズムの「限界」が明らかになり、その流れに明確にストップがかかったわけです。
 ちなみに、その「限界」が明らかになっていった経緯は、こうです。
 まず、軍事・外交面でいえば、アメリカによる湾岸戦争、ボスニア紛争やコソボ紛争への介入、そして九・一一と、それをきっかけとしたアフガン侵攻、さらにイラク戦争などがありましたが、その増大し続ける軍事費(二〇〇一~一一年)に焦ったアメリカは、結果として、世界の警察官を辞めざるを得なくなった。そして、今回のロシア・ウクライナ戦争の一因に、NATOの東方拡大があったことを考えれば、やはり軍事的・外交面での「グローバリズム」の限界は明らかでしょう。それがトランプ再選で決定的になったと。
 また、経済・市場的な面でいえば、二〇〇八年にリーマンショックが起き、それを皮切りに、ギリシャ危機と、それに端を発する形でのヨーロッパでの極右・極左勢力の台頭が見られました。そして、その延長線上で、二〇一六年のブレグジットと第一次トランプ政権の誕生があり、さらに今回、そのダメ押しとして「保護貿易」を唱えるトランプが再選されることになったわけです。これで、経済的な「グローバリズム」の限界も明らかになりました。
 そして、この「大転換」を促したものは、主に二つの現象です。
 一つは、…後編に続く


<編集部よりお知らせ>

表現者塾第七期塾生募集中(2/28まで早期申込割引実施中!)

表現者塾は『表現者クライテリオン』の編集委員や執筆者、各分野の研究者などを講師に迎え、物事を考え、行動する際の「クライテリオン=(規準)」をより一層深く探求する塾(セミナー)です。

◯毎月第2土曜日 17時から約2時間の講義
◯場所:新宿駅から徒歩圏内
◯期間:2025年4月〜2026年3月
◯毎回先生方を囲んでの懇親会あり
◯ライブ配信、アーカイブ視聴あり

講師(敬称略)
藤井聡、川端祐一郎、納富信留、鈴木宣弘、片山杜秀、施光恒、與那覇潤、辻田真佐憲、浜崎洋介、磯野真穂ジェイソン・モーガン、富岡幸一郎、柴山桂太

詳細はこちらから

 

最新刊、『表現者クライテリオン2025年3月号 [特集]トランプは”危機”か”好機”か?』、好評発売中!

よりお得な年間購読(クライテリオン・サポーターズ)のお申し込みはこちらから!サポーターズに入ると毎号発売日までにお届けし、お得な特典も付いてきます!。

サポーターズPremiumにお入りいただくと毎週、「今週の雑談」をお届け。
居酒屋で隣の席に居合わせたかのように、ゆったりとした雰囲気ながら、本質的で高度な会話をお聞きいただけます。

 

執筆者 : 

TAG : 

CATEGORY : 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

メールマガジンに登録する(無料)