先日、イングランド北部の湖水地方(Lake District)に行ってきました。湖水地方はイギリス有数の観光地で、『ピーター・ラビット』でお馴染みのビアトリクス・ポターが愛した場所として非常に有名でしょう。2017年には世界文化遺産にも登録されました。
都合上、今回は湖水地方の玄関口であるウィンダミア(Windermere)、そしてそこからバスで少しばかりいったボウネス(Bowness)あたりしか散策できませんでしたが、ウィンダミア湖をクルージングしながら見る景色は雄大で、非常に気持ちのよいものでした。
ところで、ボウネスやウィンダミアあたりで少々驚いたのは、中国人の観光客が非常に多かったことです。ウィンダミア湖のクルーズ船のなかも、半分以上が中国からの観光客でしたし、ホテルの朝食会場も7割くらいが中国人のかたでした。
土産物屋の店員さんに少し話を聞いてみたのですが、ここ10年くらい前から、またとりわけ世界遺産に登録された数年前から、中国やインドなどからの観光客が爆発的に増えたということです。
ウィンダミアやボウネスでは、日本語のサインを結構頻繁に見かけました。この地に多く訪れていた日本人観光客のためのものだったらしいのですが、それも今や昔の話のようで、日本人の観光客はまばら。現在は、アジア系の大半は中国人だということです。
余暇におけるお金の使い方というのは、国の経済状況を如実に反映するのかなと思います。つくづく日本は貧しくなってしまったんだなと少しブルーな気持ちになりました。
にもかかわらず、消費税を上げるわけですから、「失われた30年」どころか、40年、50年、はたまたもしかしたらずっと「失われた」ままになってしまうかもしれません・・・。
ともあれ、湖水地方を訪れて、「インバウンド」にばかり目を向けてしまうことの問題点について改めて考えさせられました。
湖水地方にかぎらず、観光客の多いところはどこも同じような問題を抱えているのだと思いますが、ウィンダミアやボウネスはかなり狭い街なので、観光客でひしめき合っています。道幅も狭いので、大型バスが何台も来ると、日中は交通渋滞がそれなりに発生します。またゴミの問題や、マナーの問題なども発生しているようでした。
そうなると、湖水地方がどうなのか実際のところはわかりかねるのですが、その土地にもともと住んでいる人にとって、自分たちの「地元」が非常に住みづらい土地になってしまうのではないかなと思ってしまいます。もちろん観光産業で成り立っている街なので、来てくれないと自分たちの生活が危ぶまれるわけですが、それでも限度があるだろうと思うのではないかと感じるのです(もちろん、私自身が観光で行ったわけですから、あまり偉そうなことは言えませんが・・・)。
私が滞在しているエディンバラはそういう問題を抱えています。旧市街が世界遺産であり、世界有数の観光地であるエディンバラですが、近年、市民の生活上の様々な問題が浮上しています。その1つの要因は、8月にエディンバラで行われるフェスティバルにあるようです。
8月の1か月間、エディンバラは街中がお祭り騒ぎとなるのですが、その期間の混雑のありようは想像以上でした。中心部の歩道はそんなに広くないところも多くあるので、非常に歩きづらく、車やバスも普段より多い(しかも大渋滞)ので、とても生活しづらいです。
さらに、この間にくる観光客目当てに、民泊のような形で家を貸す「フェスティバル・レット」(festival let)というのが行われていて、通常の2倍とか3倍の値段で家を貸すようなのです。
そうするとどういう問題が起こるかというと、たとえば家主からすると、その間に家を貸したほうがより儲けられるので、今いる居住者に出て行ってもらって、新たにその期間、フェスティバル価格で家を貸すということが行われるようです。
むろん、フェスティバルが終わればそこは空き家になるのですが、エディンバラは慢性的に住宅が不足しているようで、早晩新たな入居者が現れるようです。ただ、需要と供給が見合っていないので、近年は不動産価格が高騰しているようで、それに輪をかけて「フェスティバル・レット」の問題もあり、これまでエディンバラの市街に住んでいた人々が、家賃の高騰の影響から、郊外に引っ越さざるをえない、というような事態も生じているようです。
また、ゴミの増加も問題となっているようです。ゴミの回収および処理は公的なサービスなわけで、それは税金で賄われているわけです。しかし、観光客が増えると、その処理費用も必然的に増えるわけで、その分を誰が負担するのか、ということが問題になります。住民からすれば、なぜ自分たちが出したゴミでもないのに、その処理費用を負担せねばならないのだ、というわけです。
政府もインバウンド需要をめぐって、様々な施策を行っているようですが、観光客が増えると、上のような諸問題が次々に生じることから、そのような政府の姿勢に批判的な住民もかなり多くなってきているようです。つまり、旅行者のような短期的な滞在者ではなく、昔からそこに住んでいる人々や、これからそこで長期的に生活を営もうとする人々をもっと大事にすべきだということです。
我が国の政府も、東京オリンピックや大阪万博におけるインバウンド需要をあてこんで様々な施策を打っています。たとえば、「民泊」を可能にするような規制緩和です。
正直いって私は、こうした規制緩和はどうなのかなと思っています。
実は、私がエディンバラに来て最初に住んだ家(フラット)の向かい(というか隣)がいわゆる「民泊」でした。
最初は、数日のうちにいろんな人が来るので、どんな大家族が住んでいるのかと思っていましたが、そうではなく、単なる宿泊客で、数日のうちに入れ替わっているだけでした。なかには若者が大勢に泊まることもあり、深夜までパーティをし、自分たちの部屋と間違って私の部屋の呼び鈴を夜中の3時ごろにガンガン鳴らされた時はちょっと閉口しました(こちらの呼び鈴は、突然鳴ると本当にびっくりします)。
こういうトラブルがあちこちで増えることが予想されますし、日本人はあまりノマド的な感覚は持ち合わせていないような気が個人的にはするので、こうした事態にうまく対処できないのではないかなと思ってしまいます。
経済のパイが全体的に縮小しているなかで、「持っている者からできるかぎり取ってやろう」というのは、経済合理性の観点からすれば正しいのかもしれません。日本人が相対的に貧しくなり、その需要は見込めないので、中国やアラブ諸国やインドなどの金持ちを新たに呼び込もう、というのは金儲けの発想としてはわからなくはありません。
しかし、政治がそれを主導してやっていくべきなのかというと、それはちょっと違うような気がします。
確かに世界から観光客が来ることで我が国が潤うということはあるでしょうが、それは経済状況や外交の状況にも大いに左右される不安定な需要でしかありません。また、なによりも、旅行者というのはごく短期的な滞在者でしかないわけで、彼らはお金は落とすかもしれませんが、何の責任も負いません。
勘違いしてほしくはないのですが、別に私は観光客の方々に「来るな」などと言いたいわけではありません。また、利潤追求の観点から民間企業などがインバウンド需要に焦点を合わせるのも、無理もないことだと思います。
ただ、政治までもがそこに力点を置くのは、その方向性として間違っているのではないかと思うのです。
政治は経済とは違うわけで、国内の需要は冷え込んでいるのだとすれば、「別の持っている者からどうやって取ってやろうか」ではなくて、「この国の持たざる者をどうすれば持てるようにできるか」ということを政治は真剣に考えてもらいたいと思います。
またまた少々長くなってしまいました。今回はこのあたりで。
Chi mi a-rithist thu!
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コメント
我が国初のラグビーワールドカップが行われていますが、ココにも腐敗まみれの国際政治が現れていますよね。その核心こそ英国であり、何故ウェールズやらスコットランドが出場しているかを、きちんと考えれば世界史の核である欧州のデタラメな歴史がある訳です。これもらもキッチリ我が国の国民に公表するべきで、大半の国民が納得出来る社会が我々が目指すべき社会です。なので与野党とも愚劣や卑劣な態度には、容赦なく指摘しなければなりません。ホント調子のいい野党も与党にあるカルト集団も決して許さんからの。