クライテリオン叢書

クライテリオン叢書創刊の辞

グローバリゼーションに伴う世界的な国家の溶解と各地の戦争とテロの拡大、国内では20年を超えるデフレとそれに伴う格差・貧困の拡大と、あらゆる伝統文化の蒸発、それらに伴う急激な国力低迷とそれを背景とする周辺領土問題の深刻化、そして追い打ちをかけるように我が国に襲いかかるパンデミックと巨大自然災害――どれ一つとってみても我が国は今、20世紀にはほとんど想像もできなかった深刻な数々の危機に直面している。

『クライテリオン叢書』はまさに、こうした数々の現実の深刻なる危機と対峙し、乗り越えんことを企図して刊行されるものである。

 危機無き時代には昨年行ってきたものを今日までそのまま行ったとしても大過はない。しかし危機の時代には、一人一人の国民、一つ一つの地域、そしてこの日本国家が如何に判断し、振る舞うべきかを考え成すべきを成さねば、瞬く間にその精神は溶解し滅び去る。
 かくして我々は今、それぞれの状況に相応しき判断と実践のための「クライテリオン」(規準)を考え、探し続ける実践的なる思想、ならびにそれを踏まえて展開される思想的なる実践を循環させ続けねばならぬ事態に至っている。
 本叢書は、今日的なあらゆる危機(cri-sis)を乗り越えるためのクライテリオン(cri-terion、規準)を探し求める実践的なる批判(cri-tique)を全面展開するという大方針の下創刊された保守思想雑誌『表現者クライテリオン』の思想的実践的運動の一環として、その思想をより幅広く、そしてより長期にわたって国民に共有せんことを企図したものである。もちろん、こうした社会的、実践的かつ思想的な批判活動によって何がどう変わるのかを推し測ることなど誰にもできない。しかし、我々が誇り高く生きんとする心がある限り、「逆境であればこそ希望の炎が立ち上がる」との逆理が誰の内にも立ち現れることだけは確かである。であるなら我々はその炎をいかにして重ね合わせ、灯し続けることができるかを思想的かつ実践的に考え続けねばなるまい。そして、時宜を得た時には一気呵成に大きな火炎を巻き起こし、それぞれの危機を乗り越える生の実践を全力で模索せねばなるまい。繰り返すが、もちろんその帰結がいかなるものとなるかは分からない。しかしだからこそ、その思想と実践を駆動する「希望の炎はより大きく立ち上がる」のである。
 こうした思想的実践運動実践的思想運動の試みが僅かなりとも奏功することを心から祈念したい。そしてそのためにも読者各位におかれては本叢書を末永くご支援頂き、ここに企図する運動にご参画賜らんことを平にお願い申し上げる次第である。

表現者クライテリオン編集長 藤井聡