ヴィルヘルム・G・ヤコプス 著 『フィヒテ入門講義』 筑摩書房/2021年4月刊 の書評です。
書評者:篠崎奏平
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この書評は『表現者クライテリオン』2021年7月号に掲載されています。
『表現者クライテリオン』では、毎号、様々な特集や連載を掲載しています。
ご興味ありましたら、ぜひ本誌を手に取ってみてください。
以下内容です。
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フィヒテ哲学の主題を端的に言うならば、人間の認識を可能にする条件は何であるか、ということになろう。
多くの哲学者によっても共有されるこの主題は、しかし厄介なものだ。何故なら人間の認識は、世界の全体を部分・概念へと切り取ることによって成立するが、この切り取りを背後から可能にする条件を概念化してみても、その際の概念化を可能とする条件は更に背後へと逃れてしまうからである。
よってこの問いを解決する方法は認識・思考によってではあり得ない。そこでフィヒテが説く認識の条件、第一命題が「自己意識」である。
なるほど認識の条件を問う時、認識しゆく主体が「私」であることを人は「直観」し措定する。この時、措定される客体と措定する主体は同一なのであり、一なるものとして私の存在を確信する行為が自己意識なのである。
デカルトは「我思う、故に我あり」とした上で思惟する実体の存在を命題として定立したが、フィヒテの自己意識は、コギトよりも更に洗練されている。
思惟を他ならぬ「我」であると確信する過程には明らかに飛躍が存在するのであり、自己意識とはこの飛躍の名称だからである。
直観は認識とは異なる。認識は主体が概念を表象する措定行為であるのに対し、直観とは人間を超出したところから来たる衝迫を受容することだからである。
フィヒテ哲学には人間を超えたものの視点があり、前期においてはその超越存在が「理性」である。人間は、理性から贈られる衝迫を受け取り、現実世界において活動する。
しかしながら超越性を理性として説くこの哲学は危うさを内包してもいた。どれだけ整合性のとれた学説であったとしても、それが真理であるという保証がないからである。
よって後期フィヒテは、当然真理の探究へと歩まざるを得なくなる。後期フィヒテにおいて超越性とは真理であり、その座は理性から「存在(Sein)」それ自体へと代わることとなる。
存在とは無論、特定の事物・表象を指し示すわけではなく、凡ての存在者が存在することを可能とする全体の呼び名である。存在を別の言い方で「神」とも呼ぶ後期フィヒテの哲学は汎神論的な性格をも有するに至るのだ。
フィヒテにとって人間(現存在=Dasein)とは、存在から贈られる衝迫=愛を直観し、行為・活動する主体の名称に他ならない。
本書における主題というわけではないが、興味深いのは悪の概念についてであろう。
フィヒテにとって、存在からの衝迫は人間に対し常に善を志向させるのであり、その愛を直観した上で悪なる行為を働くことは現存在の性格からして不可能なのである。
よって、フィヒテ哲学において定立される悪とは、存在からの愛を直観しようとする理性的行為の怠りに過ぎないことになる。
地理的にも時代的にも遠く隔たった日本においても、フィヒテの哲学は重要な意義を持つだろう。少なくとも、様々な社会的問題を抱えながらにして、なお存在からの衝迫へと耳を傾けようとせず、理性の正しい効用について無知な悪人がのさばり続ける限りは。
(『表現者クライテリオン』2021年7月号より)
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