本日、4月16日発売の最新刊、
『表現者クライテリオン2025年5月号 [特集]石破茂という恥辱ー日本的”小児病”の研究』から特集座談会をお送りします。
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つまり、石破氏には、その人格形成において、己の筋を通すための何かしらの葛藤を引き受けたというドラマが一切ないのです。最終的には、これも父親の薦めで、慶應閥が出世しやすい三井銀行に入るのですが、その銀行も「入ったその日にやめようと思」ったのに、店内試験で高成績を収めると、仕事が楽しくなったと書いている。
藤井▼なんやそれ(笑)。
浜崎▼凄いですよね。延々と自分の「心変わり」を語りながら、自分が原因だとは全く思っていないんです。つまり、自分にとって居心地が悪いとすぐに「心変わり」をするのだけど、居心地がよくなった瞬間、「楽しい」と感じ始める。これが石破氏の習性なんです。
その上で石破氏の政治家としての履歴を見ると、完全にこれと同じことが言えます。
まず、父親の死をきっかけに政治の世界に入るのですが、そこで立ち上げたのが、世襲議員問題や政治とカネの問題を議論する若手の政策研究会「ユートピア政治研究会」でした。当時、武村正義や鳩山由紀夫も入っていたような改革派の研究会なんですが、そこでメディアから注目され
た石破氏は、その後、「政治改革を推進する若手議員の会」の会長に就任し、当時、佐川急便事件と選挙制度改革で揺れていた宮澤喜一政権に対する不信任案に賛成することになります。にもかかわらず、その後に石破氏は、「自民党内で政治改革をやってきた」という理由で自民党に残るんですが、案の定、自民党の中で居心地が悪くなって「我慢ならん」と離党してしまう。で、今度こそ筋を通すのかと思いきや、新進党内での権力争いに嫌気が差して、また自民党に復党する。もう何がしたいのか全くわからない。
で、復党した自民党の中で、またもや四面楚歌になるわけですが、そこで決心したのが「もう一回安全保障の勉強をやり直」すことだった。つまり、ここでも反省の眼は、「流れ」に乗った「自己」のほうには向かわずに、安全保障の「お勉強」のほうに向かうわけです。
でも、このタイプには既視感があって、これは、あの大江健三郎が描いた「後退青年」そのものなんですよ(『絶望の果ての戦後論──文学から読み解く日本精神のゆくえ』啓文社)。学歴はあるものの、それゆえに「流れ」に乗って漂流しているだけの中身カラッポの人間。しかも石破氏の自意識は、その自分の変節について、「私の中には、どうもへそを曲げて大勢に逆らいたくなるDNAがあるようです」と自己総括するほどに鈍感なんです(笑)。
川端▼全然、逆らってないじゃないですか(笑)。
浜崎▼そうなんですよ! 「石破茂」という人間は、まさしくカラッポであるがゆえに、自分の変節を変節として受け止めることができず、なんとかそれをヒロイックな「反逆」として整合化しようとするんですが、実際に存在するのは居心地が悪い「流れ」ならヘソを曲げ、居心地がよい「流れ」なら、それを楽しいと感じる、ただそれだけの感情なんです。
しかし、これこそ「甘やかされたお坊ちゃん」(オルテガ)でしょう。「お坊ちゃん」は、自分だけで完結しているから、自分が「言っていること」(自分の頭の中)と、自分が「やってしまっていること」(他者からの眼)との関係を自覚することができない。だから、見ていて「気持ちが悪い」んです。いつも自分の中だけで、「僕、僕、僕…」と言っている人間、でも、これは戦後日本人の姿そのものでしょう。平和憲法が「言っていること」に自己陶酔しながら、実際に「やっていること」(自衛隊と日米安保)を無視し続けてきたのが戦後日本なんだから。その結果が「石破茂」だとしても納得はできます。
藤井▼僕らの払っているコストが彼の生存に影響していないのなら関係ないですが、我々が払っているコストで彼が生きているにもかかわらず、彼は「俺は一人で生きている」と思いながら周りをくそみそに言っているわけですよね。オルテガが言うところの「甘やかされた子供(坊ちゃん)」そのものであり、最も進化したグロテスクな大衆人の姿そのものですね……。
柴山▼そういう人は世の中にたくさんいるけれど、総理大臣になってしまったのが大きな問題です。
昨年九月の自民党総裁選に関して言うと、高市早苗は靖国に参拝すると言っているし、タカ派っぽいから危ない、というのが自民党議員の判断だったわけです。石破は安全牌だった。韓国ともアメリカとも喧嘩しないし、今の日本はこういう弱さを「リベラル」の名前でごまかす風潮にある。既得権を持っている人からすると、戦後体制の土台を絶対に傷つけるおそれがないところがちょうどいいわけで、そういう理由で選ばれてしまったのだと思います。
藤井▼Fortran というプログラミング言語でシミュレーションを作るとしたら、こいつは三行ぐらいのコードで書けるような奴ということですよね(笑)。要するに「言われた通りにやる」、「居心地が悪ければ逃げるがよければ留まる」という行動しかしない奴ということです。具体的に言うと、
IF 何か言われる THEN 従う
ELSE IF 居心地がよい THEN 留まる
ELSE 逃げる ENDIF
ってだけの超絶にシンプルなプログラム。強い奴にしてみれば、言う通りいくらでも動かせますから実に使い勝手がいいですよね。何にしても人間は「大人」になるにつれてどんどん長大なプログラムで動くようになっていくんですが、石破は三行のルールでしか動かない「子供」ということですね。それが総理だなんて、今の日本はマジ凄い状況です(苦笑)。川端さんはいかがでしょう。
川端▼石破氏は本物の保守政治家かもしれません。ITの分野では、そういうシンプルなコード(プログラム)のことを、メンテナンスしやすいという意味で「保守性が高い」と言うので(笑)。
それはともかく、この特集にしようと決めた時の編集会議でも話題になりましたが、僕はリーダーに関する「ルッキズム」は案外大事だなと思うんです。もちろん今の世の中、外見で人を判断すると反発を受けますが、やはり政治的なリーダーはかっこいい人物であってほしいという気持
ちがある。まぁ顔はハンサムでなくてもいいので外見だけの問題でもないですけど、弱さや醜さを感じさせない立ち居振る舞いは求められる。たとえば小泉純一郎、石原慎太郎、橋下徹といった人たちは、善人かどうかや政策に賛成するかはともかく、民衆の先頭に立つ人物の雰囲気は持っていた。石破さんがそういうリーダー像とは百八十度反対のタイプだということを、きちんと言葉にしたほうがいいのではないかと。
とにかく石破さんには快活さがなく、どんよりとした負のオーラが漂っている。福沢諭吉は『学問のすゝめ』の中で、「顔色容貌の活発愉快なるは人の徳義の一箇条にして、人間交際において最も大切なるものなり」と書いています。つまり、見た感じが活発で愉快であることは、人前に出ていく上で最低限備えておくべき道徳の一種だということです。陰気な人の存在を否定するわけではないですが、そういう人は指導者には向いていない。
作家の山田風太郎が晩年に書いた『あと千回の晩飯』というエッセイに、「私は、山海の珍味を牛飲馬食するような人物でなければ大事を託することはできない、と信じている」という一文があります。要するに、ついていくなら豪胆で男らしい奴に限るということでしょう。最近はマッチョイズムの受けが悪く、中性的なものが好まれやすいですが、政治みたいな戦いの現場で、しかもトランプとかプーチンのようなゴロツキを相手にしなければならない世の中では、「男らしさ」を持ったリーダーを国民が待望してしかるべきだと思う。それとは正反対の人が祭り上げられているのを見ると、石破さんが悪いというより、日本国民の感性がものすごく間違っている気がします。
もう一つ思い出すのは、イギリスのサッチャー首相が鄧小平に香港の租借期間の延長か何かを交渉しに行った時のエピソードです。その会談で撮られた有名な写真があって、サッチャーはエレガントなスーツを着て笑顔で座っているのですが、鄧小平は軍閥の首領みたいな風体でめちゃくちゃ怖いんです。横柄な態度でタバコを吸い、足元の痰壺に痰を吐きながら、「あなたが香港を返還したくないというなら、あらゆる手段で取り返すしかありませんな」と、要は戦争するぞと脅したわけです。それでさすがの「鉄の女」サッチャーも怖気づいて、帰らざるを得なくなった。もちろん、鄧小平ほど粗暴な人物を日本の首相にしたいとは思わないですけど、ああいうエネルギーをどこかにたたえていないと、この荒々しい世界でやっていけるか心もとない。
僕は別に石破さん個人の人格攻撃をしたいのではなく、日本国民の「人物を見る目」が致命的に歪んでいるのではないかという点について、読者の皆さんに考えてもらいたい。
藤井▼川端さんはいみじくも石破茂の人格攻撃をしたいわけではないと言いましたが、石破という人間が小市民として市井に生きている場合のルッキズムを言っているのではなく、一国のリーダーとしての人格と容姿を言っているわけですよね。そうであれば彼が政治家であり総理である以上、彼は人格攻撃は甘んじて受けるべきだと思います。なぜならば、その「人格」によって国家の命運が分かれるからです。
川端▼すいません、「人格攻撃する気はない」と言ったのは、ちょっと綺麗事に逃げようとしてました(笑)。
藤井▼一国のリーダーは、、、続きは本誌にて…
<編集部よりお知らせ>
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