【藤原昌樹】反戦平和活動家たちに寄り添う沖縄県知事 ―苦言を呈されて大騒ぎする沖縄のマスメディア―

藤原昌樹

藤原昌樹

妨害活動による訓練内容変更は遺憾である-中谷元防衛大臣会見

 

 中谷元防衛相が9月19日午前の閣議後の記者会見で、沖縄における自衛隊の活動に対する過度な抗議・妨害行為が続いていることについて「妨害行為によって訓練内容の変更を余儀なくされたことは大変遺憾」との認識を示し、「抗議活動の自由はありますが、良識をもってやっていただきたい」と「行き過ぎた抗議活動」を批判したことについて波紋が広がっています(注1)

 

 中谷防衛相が会見で言及した「抗議活動による訓練内容の一部変更」とは、9月11日から25日まで行われた日米共同実動訓練「レゾリュート・ドラゴン25(RD)」(注2)の一環として宮古島で行われる予定であった物資輸送の訓練が反戦平和活動家たちによる妨害によって中止に追い込まれてしまったことを指しています(注3)

 

 また、会見では今年の「沖縄全島エイサーまつり」に陸上自衛隊第15旅団のエイサー隊が出演することに市民団体(を称する活動家の集まり)などが取りやめを要請していたこと、8月上旬に宮古島市での陸自の徒歩防衛訓練に対し、市民(を名乗る活動家)が抗議活動をしていたことにも言及しており、その上で、防衛省と自衛隊は「沖縄県民の方々を含めて国民の命と平和な暮らしを守るべく、日頃から訓練など様々な活動をしており、現場の隊員一人一人がそれぞれの持ち場において、日々懸命に取り組んでおります」とし、「隊員が誇りと名誉をもって日々活動に当たってほしいと心から願って」おり、「国民の皆様に…防衛省・自衛隊の活動を御理解いただき、御協力をいただきたい」と述べていました。

 

 会見の質疑応答では、「米軍基地の返還が進まず、『南西シフト』でさらに負担感が増している現状があり、軍事的負担の軽減を実感できない県民感情などが抗議の背景にあるのではないか」と問われたことに対して「戦後最も厳しく、複雑な安全保障環境に直面している中で、自衛隊・防衛省が果たすべき役割は重要なものになっている」「運営においても業務においても非常に高度なものが要求される」「負担軽減のための努力を続けている」と答えており、「旧日本軍と自衛隊の連続性あるいは断絶性についてどのように認識しているのか」との問いには「現行憲法のもとで専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にはならないという基本理念を持ち、厳格な文民統制を確保している」「旧憲法下で存在した旧日本軍とは全く異なるのは言うまでもない」と回答しています。

 

 自衛隊の活動に対する抗議活動に関して「実力組織(である自衛隊)のトップである大臣が先頭に立って抗議活動に対して『遺憾だ』とおっしゃるのは、一般市民を萎縮させることにならないか」との指摘には、「(自衛隊の活動に理解を得るために大臣である)私自身が先頭に立って発言し、信頼を増すことが必要」であり、「反対意見を表現する事自体を否定するものではない」が、「(現在の抗議活動は)度を越しており、行き過ぎている」との認識を強調し、「良識を持ってやってもらいたい」と繰り返していました。

 

抗議活動による訓練内容変更を余儀なくされた「レゾリュート・ドラゴン25(RD)」

 

 陸上自衛隊によると、RDでは9月13日午前に宮古島の平良港で防衛省がチャーターした民間船舶「ナッチャンWorld」から車輌を降ろし、宮古島駐屯地まで物資を輸送する訓練を予定していましたが、抗議活動によって車両の移動が困難となり、訓練内容を変更せざるを得ない状況に陥りました(注3)。沖縄県警は「陸自からの110番通報で宮古島署員が駆けつけ、『車両通行の邪魔になる』などと抗議者に移動を促したが、『訓練は中止する』と連絡があったため強制排除などの規制は行わなかった」と説明しています。

 

 宮古島で抗議活動していたのは市民団体「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」(以下、「連絡会」)や「平和運動センター宮古島」などのメンバーであり、船から降ろされた車両の行く手をふさぎ、「宮古島を戦場に見立てる訓練はしないで」「戦争のための武器を島に持ち込むな」などと訴え、マスメディアに対して「人間の盾をした。それがなければ(陸自の車両は)上陸していたと思う」「自分たちが生活するこの島で軍事訓練は許さない」「宮古島の戦場化を止めたいという思いが訓練阻止につながった」と答えています。

 

 この「連絡会」とは、今年の宮古島トライアスロン大会で宮古島駐屯地の自衛隊員が迷彩服を着て支援活動を行うことに対して「組織ぐるみの懐柔策だ」と抗議し、「宮古島陸自トップが市民を恫喝した」と非難するネガティブキャンペーンが展開された騒動の当事者となり、さらには8月の「日米ジョイントコンサート」にも抗議していた団体です(注4)

 彼らは「市民団体」を自称していますが、決して良識ある「一般市民」の集まりなどではなく、「市民」を活動家の集団であることは明らかです。

 

 中谷元防衛相の会見で具体的な言及はありませんでしたが、石垣島ではRDに参加する米軍も活動家たちによる抗議・妨害活動に直面しました(注5)

 9月15日の昼過ぎ、石垣空港から石垣駐屯地へと向かっていた米軍の車列の前に横断幕を持った数人の活動家が立ちはだかり、米軍関係者が乗るマイクロバスに続き走行していたMADIS(短距離防空システム)を載せた民間トレーラーの走行を阻んだのです。

「活動家数人が進路妨害/横断幕持ち米軍車列前に」『八重山日報』2025年9月16日

 

 妨害した活動家の男性は「自衛隊の車両は止めていない。米軍の兵器を止めている」と主張し、「八重山を戦場にする搬入は許せない。波照間や多良間への展開は許せない」と日本語で話し、米軍の来島に抗議して「八重山署が来るまで頑張るぞ」と英語で叫び、仲間を鼓舞していました。抗議する活動家たちは自衛隊の警備担当者が立ち退きを求めたのに対して抵抗していましたが、空港事業者による説得で現場を離れ、その約3時間後にNMESIS(無人地対艦ミサイルシステム)を載せた車両が通過した際には妨害はなかったと報じられています。

 

苦言を呈されて大騒ぎする反戦平和活動家たち

 

 例のごとく、沖縄の反戦平和活動家たちは中谷防衛相の発言に反発し、非難する声をあげています(注6)

 

 反戦平和活動家たちのスポークスマンと化している『沖縄タイムス』『琉球新報』両紙は、RDをはじめとする自衛隊の活動や訓練について否定的に報ずるとともに、中谷防衛相の発言について「憲法で保障された権利を脅かすものであり、抗議の意思を持つ人々を萎縮させてしまう」「市民らの声を無視し、圧力で押さえつけようとするような自身の発言こそが『文民統制』の大原則を揺るがすものだと自覚する必要がある」「大臣としての資質が問われる」などと非難し、反戦平和活動家たちの一方的な主張や自衛隊に否定的な見解を有する識者の談話などを掲載しています。

 

 その一方で、『八重山日報』や『産経新聞』は、RDをはじめとする自衛隊の訓練について必要性を認める論稿を掲載し、RDや自衛隊の活動に対する抗議活動については、活動家たちによる過度な抗議・妨害活動、自衛隊への差別や排斥を止めることなく傍観している玉城デニー知事や政治家たちを非難しています(注7)

 

 琉球放送のニュース番組で、安全保障政策史が専門の佐道明広教授(大阪成蹊大学)が「(中谷防衛相が)沖縄の市民運動について批判的に話したというのは、沖縄と本土を切り離して、沖縄は特殊な人たちが行っている反対運動なんだということを印象づけるために発言をしているのではないかとも思えてしまう」と話していましたが、沖縄の一市民としての実感で言えば、「沖縄は特殊な人たちが反対運動を行っている」のは事実であり、印象操作でもなんでもありません(注8)

 

 良識ある沖縄県民の大多数は、非常識な抗議活動に共感も賛同もしておらず、むしろ嫌悪感を抱いて非難の目で見ているのであり、『琉球新報』『沖縄タイムス』と『八重山日報』『産経新聞』のどちらが沖縄県民の大多数の民意を代弁しているのかは明らかです

 

反戦平和活動家たちに寄り添う玉城デニー沖縄県知事

 

沖縄県の玉城デニー知事は同日夕方、中谷防衛相の会見について、記者団の取材に「憲法で認められている表現の自由の範囲内での抗議行動は認められている」との認識を示した上で「訓練の内容に影響を与えたのが遺憾だという(中谷防衛相の)考えからのコメントになっているのだと思う」「但し、抗議行動そのものをとらえて大臣が発言すると事が大きくなり、いろいろなハレーションを起こしてしまう」として疑問を呈しました(注9)

 

 自衛隊が不発弾処理や急患搬送など重要な任務を担っており、自衛隊を肯定的に捉える県民も増えているとした上で、「沖縄は過重な米軍基地負担の上に自衛隊が増強されてきている現状から考えると、市民や県民が自衛隊に抱く感情や感覚は、他県とは違う」「(日米共同訓練を実施する上で)地元の理解と協力を得るために十分な説明を尽くしたのかも含め、なぜ厳しい意見や抗議活動が起こるのか考えてほしい」と述べて、地元への影響を考慮した丁寧な説明が必要だの見解を示し、県民感情への配慮を求めています。

 

 沖縄における反戦平和活動家たちによる自衛隊への抗議活動を巡り、防衛省(中谷防衛大臣)と沖縄県(玉城デニー沖縄県知事)の見解が真っ向から異なる状況に陥っているのです。

 

 また、中谷防衛相も会見で言及していた「沖縄全島エイサーまつりへの自衛隊員の参加に対し、一部の政治家や団体が反対要請を行ったこと」に関しては「自衛隊が参加するという決定事項のみが伝えられて発表された。反感的な反響が出るのではないか」「何か誤解や食い違いがあるなら、主催者は十分に説明しておくべきだろうという印象を持っている」と強調し、「職業差別」とも受け止められる要請を行った政治家や活動家たちを窘めるのではなく、自衛隊に参加を要請した主催者側の対応に注文を付けています。

 

 「沖縄全島エイサーまつり」について、玉城知事は9月18日(中谷防衛大臣の発言の前日)の県議会代表質問において、新垣淑豊議員から「自衛隊の参加取りやめを求める行為が憲法の平等原則、県の『差別のない社会づくり条例』に抵触し、職業差別と受け止められる可能性」を指摘されて見解を問われていましたが、「県民にさまざまな意見があることを踏まえ、主催者が(参加を)判断したもの」と述べ、要請は「職業差別」であるとの認識を示さず、「県民は、かつて悲惨な沖縄戦を経験したこともあり、復帰後は米軍だけでなく、自衛隊に対しても厳しい見方が強い時期もあった」と述べる一方で、「自衛隊は防衛だけでなく、急患搬送などにも献身的に貢献しており、近年は自衛隊に肯定的な意見が増えている。さまざまな意見がある」と述べるにとどまり、この問題に対する見解を明らかにすることはありませんでした。

 

 昨年6月の名護市安和桟橋での死亡事故(注10)やワシントン駐在(注11)をめぐる騒動の際にも同じような思いを抱いたのですが、沖縄県政を統括する最高責任者の立場にいる玉城デニー知事が、良識ある沖縄県民の民意ではなく、非常識な抗議活動をする反戦平和運動家たちに寄り添う姿勢を見せているということが、沖縄県民の一人として残念でなりません。

 

 前回の記事で、沖縄の反戦平和運動家たちについて「田中美知太郎の『消防をなくすれば火事もなくなると考えるのは、単純な論理上の誤謬であって、普通の知性をそなえた人はこのような単純な誤りはしないはずである』という言葉になぞらえて考えれば、『軍隊をなくすれば戦争もなくなると考えるのは、単純な論理上の誤謬である』ということになり、このような単純な誤りをしている反戦平和活動家(=平和主義者)たちは、普通の知性をそなえていないということになる」と論じて批判しました(注12)

 

 田中美知太郎の言葉になぞらえて考えれば、良識ある沖縄県民の民意に寄り添うのではなく、「普通の知性をそなえていない」ために「単純な論理上の誤謬」を認識することができない反戦平和運動家たちに寄り添う玉城デニー知事もまた、(単に票の欲しさに色目を使っているのでなければ)「普通の知性をそなえていない」ということになってしまいます。

 

 沖縄県政の最高責任者である県知事が「普通の知性をそなえていない」ということは、「喜劇」と言わずして、何と言えばよいのでしょうか

 一刻も早く、この「笑えない喜劇」が幕を閉じることを望んでやみません。

 

 

 

(注1) 防衛省・自衛隊:防衛大臣記者会見|令和7年9月19日(金)09:48~10:12

(注2) 「レゾリュート・ドラゴン25(RD)」とは、離島の防衛を想定し、九州・沖縄を中心に北海道などを含めて8道県で実施される日米共同による大規模な実動訓練で、中国を牽制する狙いがあり、今回が5回目で2023年から3年連続での実施となります。

今回のRDには日本から陸海空の各自衛隊約1万4千人、米軍からは海兵隊・陸軍・海軍・空軍の訳5千人が参加し、過去最大の規模となったことに加えて、米海兵隊の無人地対艦ミサイルシステム「NMESIS(ネメシス)」と最新鋭の短距離防空システム「MADIS(マディス)」を初めて展開することになったことなどから、『沖縄タイムス』『琉球タイムス』両紙では「相手国(中国)を挑発することになり、かえって地域の緊張や戦争の危機を高める恐れがある」「沖縄のさらなる基地負担増の懸念が高まる」などというように訓練について否定的に論ずるキャンペーンが繰り広げられ、県内各地で反戦平和活動家たちが訓練の中止を求める抗議活動を展開していました。

また、沖縄県は沖縄防衛局に対して、「地元の理解が得られない訓練は実施せず、県民生活への影響を最小限にする」「緊急時以外の米軍機の民間空港使用を自粛する」ように口頭で要請し、「地元への丁寧な説明と十分な情報提供とは言い難く、大変遺憾だ」と苦言を呈し、NMESISとMADISについて「県内における基地負担の軽減が進まない中、新たな配備や展開が行われることは、基地負担の軽減に逆行する」と批判しています。

(注3) 陸自、反対派妨害で物資輸送訓練を断念 沖縄・宮古島、日米共同実働訓練の一環 – 産経ニュース

(注4) 【藤原昌樹】またもや「沖縄の自衛隊差別」を助長する在沖マスメディア ―なぜ、彼らは自衛隊を目の敵にするのか― | 表現者クライテリオン

(注5) 「活動家数人が進路妨害/横断幕持ち米軍車列前に」『八重山日報』2025年9月16日

(注6) 沖縄で自衛隊への「妨害行為が続いている」と中谷防衛相 市民団体の抗議巡り 訓練の一部変更は「遺憾」 | 沖縄タイムス+プラス

(注7) 【視点】県民守るため必要な訓練だ(八重山日報) – Yahoo!ニュース『八重山日報』2025年9月16日

(注8) 沖縄は特殊と印象付け分断か 市民の「抗議活動」を「妨害行為」と問題視した中谷防衛大臣の発言を考える | 沖縄のニュース|RBC 琉球放送 (2ページ)

(注9) 沖縄で相次ぐ自衛隊への妨害、中谷防衛相「大変遺憾」 玉城知事は反論「事が大きくなる」 – 産経ニュース

(注10) 【藤原昌樹】醜悪な姿を晒し続ける平和主義者たち ―安和桟橋におけるダンプカー死傷事故を巡って―(前半) | 表現者クライテリオン

(注11) 【藤原昌樹】「疑惑のデパート」と化した「ワシントン駐在」 -機能不全に陥ってしまった沖縄県庁- | 表現者クライテリオン

【藤原昌樹】「予算」を人質にとったのは誰なのか? ―県議会を舞台に繰り広げられる「ワシントン駐在」をめぐるドタバタ劇― | 表現者クライテリオン

(注12) 【藤原昌樹】反戦平和活動家たちよ、ウチナーンチュを馬鹿にするな! ―沖縄県民は非常識な抗議活動を受け入れている訳ではない― | 表現者クライテリオン

(藤原昌樹)


 

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