それは彼が新天地でバタバタしていた四月上旬のことであった。二か月に一度、彼が発売を楽しみにしている雑誌の目次がインターネット上で公開された。彼はじっくりとそれに目を通し、ため息をついた。
「なんと錚々たる執筆陣! しかも『寄稿』は単なる寄稿ではなく、『特別寄稿』ではないか!」
その目次の中に、無名の執筆者はほぼいなかった。しかし、巻末の投書欄なら、アマチュアの意見がいくつか載る筈。そう思い、彼は発売日を心待ちにした。
発売日はやってきた。彼の職業は四月が一年で最も忙しい。彼は……いや、彼等は、その日も当然の如く勤務時間を超過していた。やっと釈放された彼は、暗闇の中、深夜まで開いている書店へと車を走らせた。
到着した彼は、すぐさま月刊誌コーナーへ行って、例の雑誌を発見した。彼は後ろからページをめくり、投書欄を探した。
あった。そして、驚愕した。掲載されていたのは、わずか二名のアマチュアの意見であった。
彼は、その雑誌を買わなかった。
彼がその雑誌と出会った頃、最も魅力的だと思ったのは、無名のアマチュアの意見を多数掲載している点だった。著名な評論家ばかりでなく、一庶民の率直な考えを、新聞や他の雑誌の投書欄より長文で掲載していたことから、彼は胸を大いに躍らせ、膨らませたのであった。
それも今は昔。その雑誌はぐんぐん成長し、アマチュアの意見をいくつも載せている余裕はなくなってしまったのかもしれない。
……彼はまだまだ思考しようとしていた。しかし泡盛が彼の脳に浸み透ってきた。
翌朝、彼は自分が昨夜何かを思考したことは記憶していたが、詳しいことは忘れていた。
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