クライテリオン・サポーターズ(年間購読)最大6,000円OFF

「外産外消」ではなく「地産外消」の農産品輸出を

小島尚貴(47歳・自営業・福岡県)

 

 日本政府は、昨年12月に発表した「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」で、2030年の農産品輸出の目標金額を5兆円に設定しました。2021年に日本の農産品の輸出額が1兆円を突破したこともあり、九州で貿易業を営む私の周辺でも、輸出に意気込む業者が増えてきたように感じています。

 ところが、九州の農家や中小・零細企業の実情に触れると、政府の目標を訝る声も聞かれます。農水省の統計によれば、2021年1月~6月の輸出総額は「前年比1,385億円増加の5,773憶円」となっており、輸出がとても好調のように見えます。

 もちろん、実際に伸びている品目もあり、それらの輸出は促進されるべきですが、個々の品目を見て、その原材料や製造工程を現場ベースで観察してみると、生産者が喜べない理由が見えてきます。

 まず、味や食感の良さから海外で人気の日本のお菓子をはじめとする加工品、たとえばチョコレートやココア、炭酸飲料などは、ほぼ外国産の原材料で作られています。

 さらに、炭酸飲料のみならず漬物、醤油、ソース、調味料、缶詰製品、乳製品の甘味料として広く使用されている異性化糖は、トウモロコシを原材料として製造された輸入品で、風味、安全性、伝統にこだわる地方の農家やメーカーほど使用を避けたがる代表的な原料ですが、大規模に輸出される加工品にはこの異性化糖が大量に使用されています。

 そして、小麦を用いたパンや麺類の乳化剤、安定剤に使われる油脂には東南アジア産のパーム油が用いられており、これらの事実を知ると、上記の統計に記載された品目の約半数は、「国産の農産品」とは呼び難い性質を備えています。

 「外国産の原料を輸入、加工して海外に輸出する」という、わが国の製造業が得意としてきた加工貿易が農産品の分野にも応用され、直接間接に日本企業の収益につながっていることは当面よしとしても、地方の農家、中小・零細企業と一緒に地産品、国産品を輸出してきた私には、農水省はいかなる基準で上記の品目を「日本の農産品」に含めたのか、判然としません。

 拙著『コスパ病』で詳述したように、あらゆる分野で安価な輸入品の流入、すなわち「外産地消」によって売価が低く固定され、経営に苦しんできた地方では、一次産業の分野でも「地産地消」が立ち行かなくなり、近年は「地産外消」に希望を託す農家やメーカーもあります。

 しかし、希望を託した事業領域が価格競争力を備えた「外産外消」の名目的日本食に席巻されてしまっては、地方の農家、漁師、食品メーカーは輸出による経済効果に浴する機会を持てず、現在の窮状を脱することはますます難しくなるでしょう。

 わが国の中小・零細企業は、相手のニーズに合わせて細かなカスタマイズを施す才能にかけては世界一だと、私は確信しています。

 長距離、長時間の国際輸送のためには、賞味期限を延長するため、幾分、原材料に望まない妥協を甘受する必要もあるでしょうが、出荷量が増加して発送スケジュールが安定すれば、添加物を減らせる温度管理輸送もしやすくなり、地方の生産者、製造者への実質的な経済効果を伴う「地産外消」の道が開けます。

 私が輸出する欧米のバイヤーは、異性化糖やパーム油など、健康に問題があると指摘されている原材料を使わない本物の日本食材を求める傾向が年々強まっています。

 わが国の農産品輸出において求められることは、全国各地の生鮮、一次加工品が輸出製品の原材料としてきちんと使用され、各国のニーズに合わせた緻密な製造、加工が日本各地の産地、工場で行われることで、生産、栽培、製造、加工というプロセスにおいて地方にお金が落ちる循環の基盤を官民連携で作っていくことではないでしょうか。

 政府の輸出目標を見て、そんなことを感じました。