【特集鼎談】歴史的「大転換」を好機にするために(後編)/辻田真佐憲×藤井聡×浜崎洋介

辻田真佐憲

辻田真佐憲

最新刊、『表現者クライテリオン2025年3月号 [特集]トランプは”危機”か”好機”か?』、2月15日発売!!

本日は特集鼎談をお送りします。昨日公開の前編からの続きです。前編はこちらから。

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浜崎▼(前編からの続き…)また、経済・市場的な面でいえば、二〇〇八年にリーマンショックが起き、それを皮切りに、ギリシャ危機と、それに端を発する形でのヨーロッパでの極右・極左勢力の台頭が見られました。そして、その延長線上で、二〇一六年のブレグジットと第一次トランプ政権の誕生があり、さらに今回、そのダメ押しとして「保護貿易」を唱えるトランプが再選されることになったわけです。これで、経済的な「グローバリズム」の限界も明らかになりました。

 そして、この「大転換」を促したものは、主に二つの現象です。

 一つは、生産拠点の移動に伴う新興国の台頭と、その結果としての「米中覇権戦争」。そして、もう一つが、製造業空洞化に伴う先進国の中間層の没落と、それによる格差の拡大です。これらの問題に対応するために、経済ナショナリズムの概念が現れ、それに伴って「リベラルデモクラシー」の理想主義外交が後退し、逆に、同盟国重視の外交、つまり、より現実的なバランス・オブ・パワーの古典的外交が戻ってくることにもなると。

 そして、ここからが日本の問題になりますが、「古典的外交」と言えば聞こえはいいものの、それは要するに、「同盟国の負担増」を意味しますから、それに正面から応えることができるのか否か、それが、これから先の日本の危機と好機を分ける分岐点にもなるでしょう。

 ということは、最終的に問われるのは、やはり、この国のナショナリズムだということです。ナショナリズムを前提にした時代がやってきたとき、それに我々は適切に対応できるのか否か。例えば、「同盟国の負担増」というのは、第一義的には、軍事力の負担増を意味しますが、そこで問われるのは、もちろん「自衛隊」の問題であり、そうである以上、憲法改正を含めた根本的な議論が必要になるわけです。が、その思想的な議論ができているのかというと、全く、足元がおぼつかない。〈九条─安保〉体制の矛盾が改めて浮き彫りになる中で、これまで思考停止してきた戦後日本人に、それに適切に対応できるだけの適応力があるのかどうか。その点、トランプは、現代の「黒船」だと言うこともできますが、これへの対応において、まさに日本人の自立への意志が問われているのだと思います。

 

アメリカ的「保守」のあり方とその危うさ

 

藤井▼まさにそう思います。アメリカはイギリスから分離してできた国で、イギリスの中に保守主義の流れと自由主義の流れがあり、近代化していく中で両者がバランスをとりながらイギリスという国が成立してきたわけです。それが世界全体の自由主義や資本主義を作っていったという大きな流れがある中で、アメリカは特にリベラリズムを強調する格好で出来上がったのだと思います。

 アメリカの場合、口ではリベラリズムと言いながら、日曜日は皆で教会に行くなんてことを繰り返し、保守的な身体性を保持し続けることで何とか均衡を保っていたところ、リベラリズムの毒がどんどん回ってしまい教会も解体され、まさにアメリカが崩壊しそうになってきた二十世紀後半から、保守への回帰が起こってきたわけです。ただし、二十世紀後半のレーガンの政治的保守化の試みは新自由主義と結託することで成功することができなかった一方、トランプ政権は本格的な保守の流れの形成を導く可能性があり、それが今期待されているのだろうと思います。

 この保守的な「トランプ革命」を成し遂げた最大の原動力はアメリカ国民であり、アメリカ国民の生活感覚が「トランプ革命」を求めたのでしょう。アメリカの保守には、イギリスや日本のように王室や皇室の伝統はなく、マクドナルドやコカ・コーラやバドワイザー、そしてWWFのプロレスのような生活感覚を軸としているのでしょうが、そういう保守が今成立し始めているのだと思います。

 日本の保守の基礎には天皇や新古今和歌集、万葉集などの古典がありますし、イギリスの保守の基礎には慣習法としての憲法の伝統もありますが、これを維持するのはしんどいですよね。でも、アメリカの保守はイーグルスの「テイク・イット・イージー」みたいなものですから(笑)、決して上品なものとは言えないものの、どうしようもないこの「現代」における保守革命としては、少なくとも生活感覚にしっかり根差したものであるということからして、比較的「筋の良い」ものなのではないかという気がします。辻田さんの報告も受けてより一層そのことを実感しました。

辻田▼保守にはある種の基盤が必要ですが、私はアメリカの場合それが維持できているのか甚だ疑問に感じます。南部などにはまだ伝統的な価値観が残っているのかもしれませんが、東海岸にいるいわゆる「意識の高い」層は、景気が好調なときには順調に見えるものの、不況になると綺麗事を言っていられなくなる傾向があります。そのとき、基盤がない分、ネットメディアなどに影響をもろに受けて、悪い意味でのポピュリズムに引きずられるリスクもあるのではないでしょうか。

藤井▼まぁそれはそうですよね。保守の装置として天皇や万葉集は強いけれど、コカ・コーラだけだとそれがしっかり成功するというのも考えにくい。

辻田▼歴史も浅いですし、最初に言ったように、アメリカは侵略から始まった国なので不安が常にあり、それゆえ両極端に振れてしまうところがあります。トランプにしても、単にナショナリズムを再興するとか保守を見直すというだけならいいのですが、拡張主義的な方向に行こうとしているところに危うさを感じます。実際にカナダを併合するとかグリーンランドを売れと言っていますよね。同じ調子で、東アジアにおいては金正恩と再び手を握ろうとしたときに、日本に対して必ずしも良い影響を及ぼさない可能性もあります。戦後の総決算という観点からいえば、「アメリカにくっついていれば大丈夫だ」という幻想から目が覚めるという意味ではいいことですが、今の日本の国力でどれだけできるのかが問題です。国防にしても、アメリカと一体化した形で安全保障を組んでいるので今すぐ自立するのは難しい。このままだと、日本は自立できないままトランプからの圧力に屈してしまうという最悪の展開もあるわけで、日本にとってトランプはやはり危機の要素が大きいでしょう。

藤井▼確かに岸田や石破、あるいは次期首相と言われる林は要求をすべて呑んでしまう可能性があるわけで、USスチールの買収問題でも明らかなように、こちらの要求が反故にされることにもなりかねないですよね。大人同士で対峙するのであれば問題はないですが、こちらが子供のままだったら搾取されて奴隷になって終わるイメージがあります。つまり、ちゃんとした大人になれるかどうかで危機になるか好機になるかが分かれるということですね。

辻田▼EUではイタリアのメローニ首相がここへきて急速に注目されていますよね。なぜトランプはメローニと仲が良いかというと、同じ価値観を共有し、毅然とした存在に見えるからです。そう考えると、安倍晋三はうまく演じたところがあります。トランプは属人的にものを判断するところがあるので、トランプの性格を把握した上でうまく演じられる人間が必要でしょうね。

 

石破茂という政治家の評価

 

藤井▼そういう意味では石破は最悪ですね(笑)。

辻田▼彼はそういう芸ができなさそうですからね(笑)。ただ、…続きは本誌にて


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