2026年は、沖縄県内41市町村のうち16市町村で首長選、29市町村議会で議員選挙が実施される4年に1度の統一地方選挙の年であることに加えて、9月には県知事選挙が行われます。さらに国政では高市早苗総理が高い支持率を背景に衆議院の解散総選挙に踏み切るかどうかに注目が集まっており、2026年は沖縄にとって、まさに「選挙の年」となるのです(注1)
県内政局の天王山とも言われる県知事選挙に向けて、保守系の首長や経済団体の代表者らでつくる候補者選考委員会による選考では自薦・他薦で5人の候補者の名前が挙がる一方で、リベラル系の「オール沖縄」勢力の政党会派会議は玉城デニー知事に立候補を要請することを決定したと報じられており、政権与党である自民党が擁立する候補者と普天間飛行場の辺野古移設に反対する「オール沖縄」勢力が推す玉城デニー知事の事実上の一騎打ちの構図になることが予想されています(注2)。
昨年12月25日に報道各社の合同インタビューに応じた玉城デニー知事は、県知事選について「全県的な選挙においては、米軍普天間飛行場の辺野古移設など米軍基地を多く抱えるがゆえの課題が争点になる」との見通しを述べ、自らの3期目の出馬については「オール沖縄」勢力の選考を「静観する」として明言することを避けましたが、「やりたいことはまだまだいっぱいある。それこそ鉄道が実現するまでは辞められない」として出馬への意欲を示しました(注3)。
玉城デニー知事が言及した沖縄に鉄道を敷設する計画は、最高時速100キロ以上で走行可能な専用軌道を整備する総事業費6千億円を超える戦後最大のプロジェクトであり、既に2018年の段階で、有識者らで構成する検討委員会が、那覇市から浦添市や宜野湾市、北谷町、沖縄市、うるま市、恩納村を経由して名護市までを結ぶコースを推奨ルートとして選定しています。しかし、事業効果の目安となる「B/C」(費用便益比)は1を大きく下回っており、採算性の課題から現時点において計画は具体化していません(注4)。
戦前の沖縄本島では軌間(レールの幅)762ミリの軽便鉄道が走っていました(JR在来線の多くは1,067ミリ、新幹線は1,435ミリ)が、沖縄戦で焼失してしまいました。
戦後は「沖縄都市モノレール」(愛称・ゆいレール)開業(2003年)まで鉄軌道が敷設されることはなく、車社会が進んだことで交通渋滞が慢性化し、その結果、沖縄県全体で巨額な経済的損失が生じています。私自身を含めて、鉄軌道が整備されることに期待を寄せている沖縄県民は少なくありません。
玉城デニー知事は、これまで機会あるごとに「国に対して沖縄本島を縦断する鉄道の必要性を訴える」「費用便益比とは別に、鉄軌道導入に伴う社会経済的な効果を定量的に整理、把握する必要がある」「収益性の高い地域での先行整備も含め、政府に対して早期導入を粘り強く求めていく」などと語り、「鉄軌道整備計画」に取り組む意欲を示してきました。
しかしながら、私には玉城デニー知事が「鉄軌道整備計画」を選挙のためのアピールに利用しているだけであるようにしか思えず、その実現に向けて本気で取り組もうとしていると受けとめることはできません。
ほんの一例ですが、沖縄県が2023年12月に開催した「鉄軌道導入に向けた講演会」で来場者に配布されたのは2018年に作成された資料であったと報じられており、2026年1月の時点において沖縄県の公式サイトに掲載されている「鉄軌道整備事業」の最新情報は2020年に開催された「鉄軌道導入に向けた機運醸成に係るシンポジウム」に関するものであることを確認することができます。
私には、沖縄県の「鉄軌道整備事業」に関する情報が長い期間にわたって更新されない状態で放置されているという事実が、2018年10月に玉城デニー知事が就任してから現在に至るまで計画がほとんど進展しておらず、玉城デニー県政が「鉄軌道整備事業」に積極的に取り組んできた訳ではなかったことを物語っているように思えてならないのです。
現在、沖縄県はLRT(次世代型路面電車)導入やモノレール延伸を含む新たな軌道系交通システムの構築を検討しており、長年の課題である交通渋滞解消や自家用車依存からの脱却、地域経済の活性化などに繋げることを目指しています。県が策定する「次世代交通ビジョンおきなわ(仮称)」では、路線図案や概略図を2025年度内にまとめるとしていますが、現時点で予算の目処が立っている訳ではありません(注5)。
また、2040年の開業を目指して進められている那覇市のLRT整備計画では、その整備ルートに箱根登山鉄道の80‰(パーミル、1キロで80メートル上る勾配)を上回る、日本鉄道史上には例がない最大100‰の急勾配区間(那覇市真和志地区の寄宮十字路から識名トンネルに至る区間)が存在しています。那覇市は「今後、技術的な課題を検討する」としていますが、鉄道ジャーナリストからは「営業運転は率直に言って非常に厳しい」と指摘されており、計画の実現可能性が疑問視されています(注6)。
2018年にスタートした玉城デニー県政を振り返ってみると、「米軍基地反対」と「辺野古移設阻止」にしか興味がなく、沖縄経済の振興と県民福祉の向上、県民の生命と財産を守るための防災対策などには、まるで関心がないように見受けられます。
玉城デニー知事の最たる主張である「辺野古移設阻止」が「もはや実現不可能な課題となっている」にもかかわらず、彼ら自身もそのことを理解した上で―理解していない可能性も否定できませんが、それはそれで問題です―「反対のための反対」をしているのであり、日米両政府と戦っているとのポーズを見せるためだけに、その時間と労力の大部分をつぎ込んできたと言って過言ではありません。その結果として、「こどもの貧困対策」「北部・離島地域の振興」「災害に強いまちづくりなど防災対策」「強い沖縄経済を作るための産業振興」などをはじめとする沖縄の経済発展と県民の福祉向上のための政策が疎かになってしまっていたと断ぜざるを得ないのです。
いままさに玉城デニー知事が改めて選挙戦でアピールするために「鉄軌道整備事業」を利用しようとしているようですが、2期8年間の玉城デニー県政において疎かになってしまい、全く進捗してこなかった政策の典型的な例の1つであると言えるのです。
昨年の拙稿で、2度にわたって玉城デニー知事の「中国に異を唱えようとしない姿勢」と「米国には厳しく、中国に対する及び腰」のダブルスタンダードのご都合主義が沖縄を危険に晒し、我が国の国益を損なっていることを取り上げ、厳しく論難しました(注7)。
昨年11月以降に中国系メディアで沖縄の歴史や帰属に言及した記事が急増しており、メディアやSNSの分析技術を提供する米国のメルトウォーターのツールで調べると「琉球」「独立」といった言葉を使った記事が前年同月比で約20倍になっており、台湾有事をめぐる高市早苗総理の国会答弁を受け、中国による沖縄分断工作はますます勢いを増しています (注8)。
サイバー空間の安全保障に詳しい中曽根平和研究所の大沢淳氏は「中国の宣伝戦は自国の世論を固めた後、対外的に強い姿勢を打ち出す」と説明し、中国側の多言語発信を想定して「日本も情報空間や国際会議などで、多言語を用いてしっかりと反論すべきだ」と強調しています。
中国が我が国に仕掛けている「認知戦(=複合法律戦)」「ナラティブ・キャンペーンnarrative campaign」に対しては、私たち沖縄県民自身が「沖縄県民は日本人である」「沖縄は歴史的にも、法的にも、文化的にも、遺伝子的にも日本である」という事実を国際社会に向けて発信することが最大の防御であり、その具体的な方法の1つが、市町村議会など住民に最も近い場所から、中国や一部のNGОによる日本の主権を揺るがす工作を拒絶して「NO」の意思を表明することです(注9)。
そして実際に、沖縄県内の市町村議会で、中国に対する「抗議決議」と玉城デニー知事に対して中国の発言を明確に否定して「沖縄県民が日本人である」と宣明することを求める「意見書」を可決する動きが拡がりつつあります(注10)。
本稿執筆時点において、既に「抗議決議」と「意見書」を可決しているのは石垣市、豊見城市、糸満市の3市のみなのですが、中国による「認知戦(=複合法律戦)」「ナラティブ・キャンペーンnarrative campaign」に対抗するには、沖縄県の全ての市町村議会と沖縄県議会が中国に対する「抗議決議」を可決し、「沖縄は日本である」「沖縄県民は日本人である」ということを宣明すべきであり、沖縄県の首長である玉城デニー知事が先頭に立って中国によるプロパガンダに抗議し、「沖縄は日本であり、沖縄県民は日本人である」という事実、沖縄には「独立問題」や「先住民問題」など存在しないことを中国と国際社会に向けて明確に断言すべきであると思慮いたします。
残念ながら、玉城デニー知事は沖縄県知事として自らの言葉で中国政府に抗議することを頑なに拒み続けています(注11)。
また、『沖縄タイムス』『琉球新報』両紙も中国の言動に関する記事を掲載してはいるものの、何ら論評を加えることはなく、中国の主張に同調して高市総理の国会答弁を批判する論調で溢れかえっており、あたかも中国政府の機関紙であるが如くです。沖縄の主要メディアには「中国の言動が問題である」との意識が欠如していると断ぜざるを得ません(注12)。
こうした沖縄の主要メディアの姿勢に大きな要因があるものと思われますが、中国が仕掛ける「認知戦」に対して、その標的となっている当の沖縄県民の大多数が「無関心」、「無反応」であるというのが現実です。
昨年の拙稿で論じたように、恐らく、「沖縄が琉球国として独立する」「沖縄県民は先住民族である」などといった中国政府や沖縄にいる活動家たちの主張が「常識(コモンセンス)」や自分達の感覚から余りにもかけ離れていることから、沖縄県民のほとんどが「彼らの非常識な主張が通用する訳がない」と高を括り、「このような馬鹿げた話には付き合っていられないから無視しておけばよい」と放置してきたというのが実態に近いのだと思われます(注8)。沖縄県民が「無関心」であるということ自体が、沖縄県民の中に沖縄の帰属をめぐる問題が存在していないことを示しているとも言えるのです。
しかしながら、たとえ荒唐無稽な内容であったのだとしても、沖縄の実態を知らない海外の人々が声の大きな人たちの主張を信じてしまっても何ら不思議なことではありません。
沖縄県民が「大変馬鹿馬鹿しいことだ」と思う気持ちはよく分かるのですが、いまは県民からしっかりと彼らの主張にNОを示す時だとご理解いただきたいところです。
「台湾有事」が現実味を帯びてきている現在、我が国は物理的にも国境の島々をはじめとする南西諸島での自衛隊配備を強化(=南西シフト)し、抑止力を高める必要があります。
それと同時に、沖縄侵奪を狙う中国が仕掛ける「言論戦」「宣伝戦」「心理戦」にも十分な備えを固めなくてはならず、中国の「認知戦」から沖縄を守る戦いは長期戦になるものと構えておかなければなりません(注12)。
我が国の防衛力強化に否定的な見解を示し、「米国には厳しく、中国に対する及び腰」のスタンスを頑なに守り、「国民(県民)の生命・財産」を守ることではなく中国政府の意向を優先するかのような発言を幾度となく繰り返す玉城デニー知事には「沖縄県知事たり得る資格が備わっていない」ということは明らかです。
いま世界は米国一強の時代が終わって「多極システム」の時代となり、一寸先が闇の国際秩序の再編期に突入しました。橋本由美氏はいまの「多極システム」は新たに大国となった中国が覇権への意思を示していることで「安定した多極システム」であるということはできず、「不安定な多極システム」に移行したことで最も戦争が起こる確率が高い構造になっていると指摘しています(注13)。私たちはまさに時代の岐路に立っているのであり、残念ながら、沖縄は日本の中でも特にこうした時に危機に晒される地域なのです。
この度の沖縄県知事選において、私たち沖縄県民は、中国政府や反戦平和活動家たちの代弁者となる人物ではなく、沖縄の代表として、沖縄の経済発展と県民の福祉向上に資するために本気で取り組むと同時に、中国が仕掛ける「認知戦」から沖縄を守る気概と覚悟をもった人物を選ばなければならないのです。
(注1) 2026年の沖縄は「選挙イヤー」 天王山の知事選や那覇市長選 予想される顔ぶれは? | 沖縄タイムス+プラス2026年1月1日
(注2) 沖縄県知事選に向けた保守系の首長や経済団体の代表者らでつくる選考委員会による保守系候補者選考において、古謝玄太氏(那覇市副市長)、中川京貴氏(沖縄県議会議長)、赤嶺昇氏(元県議会議長)、中山義隆氏(石垣市長)、松本哲治氏(浦添市長)の5氏が書面審査を経て選出されており、1月11日に選考委員との面談を経て委員の投票で最終的に候補者を決定することが予定されています。
(注3) 「鉄道実現まで辞められない」 沖縄・玉城デニー知事、3選出馬に意欲 – 産経ニュース2025年12月25日
(注4) 沖縄本島縦断鉄道、計画は軌道に乗るのか 「経済波及効果の分析に着手」と玉城知事 – 産経ニュース2025年1月1日
(注5) 沖縄県、新交通システム構築を検討 LRT導入やモノレール延伸 「戦後100年」に向け構想 年度内に策定 | 沖縄タイムス+プラス2026年1月6日
(注6) 沖縄初のLRTに日本一の急勾配、最大100パーミル「厳しい」ルート変えず克服できるか – 産経ニュース2025年1月4日
(注7) 【藤原昌樹】沖縄を危険に晒す知事は退任すべし ─中国の「分断工作」につけ込まれる玉城デニー知事の「人柄の良さ」- | 表現者クライテリオン|表現者クライテリオン
(注8) 中国系メディアの沖縄言及の記事20倍に 日本帰属を疑問視 高市首相答弁後、宣伝戦か – 産経ニュース2025年12月27日
(注9) 中国が沖縄独立を推進──海外メディアが注目する「narrative campaign」とは?(山口桐子) – エキスパート – Yahoo!ニュース2025年12月29日
(注10) 石垣市議会「中国国連代表部による国連総会第3委員会での発言に関し沖縄県知事に対し明確な否定と説明を求める意見書」2025年12月15日
(注11) 沖縄の帰属「認知戦」仕掛ける中国 市議会で抗う動き広がるも…玉城知事は静観の構え – 産経ニュース2025年12月25日
(注12) 仲新城誠「沖縄は日本ですよ!」『WILL』2026年2月号 2026年2月号 – 雑誌 | WAC ワック
(注13) 【橋本由美】『カッサンドラの日記』53 バックパッシング——多極時代の日本の危機 | 表現者クライテリオン|表現者クライテリオン
(藤原昌樹)
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