今回は『表現者クライテリオン』2021年7月号の掲載されている特別対談を特別に一部公開いたします。
公開するのは、前回に引き続き、「孫子のための「財政論」 中央銀行の政治学」特集掲載、
浅田統一郎先生と本誌編集長の藤井聡の対談です。
〇前回から読む
興味がありましたら、ぜひ『表現者クライテリオン』2021年7月号を手に取ってみてください。
以下内容です。
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浅田統一郎(以下浅田)▼
実際、MMT論者として有名なランダル・レイの『現代貨幣理論』やケルトンの『財政赤字の神話』っていう本を二冊読みましたけど、変なことは何も言っていない。
で、逆に思ったのが、そんなの別にMMTなんて看板掲げなくてもいいんじゃないかということ。
むしろ、いわゆる国の借金で財政破綻するなんて言っている人たちに対しては、MMTなんていうキーワードを使うとますます反発するんじゃないかって思うんですけど。
藤井聡(以下藤井)▼
そうですね。またMMTの中で特に面白いなと思ったのが、国定貨幣論のところです。
税金を取るということが貨幣の価値を生んでいるという、その社会学的、政治学的分析がなるほどと唸ったところがあるんですが、
これについては、他のケインズ経済学者は必ずしも明確には論じてないので、確かにこの「貨幣論」を絡めながら経済学を論ずるっていうところは、MMTならではなんじゃないかって思いましたね。
浅田▼そうですね。ただあれは僕は必ずしも全員が賛成するような話じゃないと思いますよ。
そもそも、税金取らなくなったらみんなマネー使わなくなるっていう話については反論はいくらでもありえますが、その話と、変動相場制の下で独自通貨を発行できる国の財政破綻はありえないっていう話は、特に直接関係ない話です。
別に前者が正しくなくたって、後者は現実的に正しいとしか言いようがない。で、僕は、後者の方が現実の問題を考えるには重要だと思うんです。
藤井▼なるほど。私も全く一緒の印象ですね。
浅田▼つまり、貨幣をどうしてみんなが持とうとするのかというのはある種神学ですから。
例えば主流派の貨幣理論は堂々巡りで同義反復といえば同義反復なんだけど、広く受け入れられてるのでこの紙切れを持っていけば誰でも受け取ってくれるから、それをみんなが知ってるから受け取るんだって話になってますが、それはそれで説得力がある。
じゃあどうして信用されてるんだっていうといろいろあって、政府が保証してるからだっていう話があって、その中の一つに税金は貨幣で納めよって言われるから、だから貨幣を持つんだっていう話もある。
だから、どうしてみんな貨幣を持つんだっていうのは確かに議論としては面白いんだけど、すでに貨幣が流通してる現状の貨幣経済においてはその理由を、理屈で説明するってことはある意味じゃどうでもいいということなんですよ。
(中略)
藤井▼(中略)MMTって言っても言わなくてもよいけれど、財務省の公式見解ですら政府は破綻しないと言っているとか、今までのオーソドックスなケインズ経済学からも言われているように、
インフレ率を適正水準にするためには金融政策だけじゃなくて財政政策をしなきゃだめだとか、デフレ脱却に消費減税は効果的だっていうふうに話をして回ったんですね。
それと並行して、「MMT」と呼ばれるものの理屈を世間に広めることは必要だと思ったので、海外の著名MMT学者であるケルトン教授とかミッチェル教授とかに来日していただいて、浜田宏一教授をはじめとしたいろんな経済学者や、与野党の政治家の方々ともいろいろとミーティングしてもらったわけです。
とにかくデフレ脱却さえすりゃぁ、日本のあらゆる問題が様々な形で改善していくことは明白なので、もう何でもいいので
MMTっていうキーワードも単なる「道具」の一個として(もちろん、使用説明書は学者としてしっかり読みながらですが)
使っていったわけですが、その中で、「天動説から地動説だ!」なんて転換論には一切触れなかったんですね。
まぁ、そう言えばそう言えるんでしょうけど、皆が合意できて財政が拡大できてデフレさえ脱却できればいいわけで、脱却できた後に皆がそれに気づけばいいだけなんですから。
だから、MMTが提示する「貨幣論」っていうのは、机上の空論が好きな学者の解釈論、神学論争であって、パンやお米をどれだけ買うのかっていう議論の時には必ずしも議論しなくてもいいんじゃないかな、というふうには僕は思います。
もちろん、説得対象に一定の見識と知識があればいくらでも神学論争や哲学論をふっかけていってもいいですし、むしろそうすべき時もあるとは思うんですが、馬の耳にどれだけ念仏唱えてもしょうがない時には念仏を言うのは単なる馬鹿だと思うんですよね。
ただし、MMTかどうかっていうのはどうでもいいんですが、財政政策を行う時に何よりも大切なのは、
「中央銀行が存在している」
ということをしっかりと経済政策の時に考慮することが大事だというメッセージは、これは絶対に忘れちゃいけないと思うんです。
で、それを言う時に、MMTっていうキーワードがかえって邪魔になる局面があるなら言う必要なんて何もないと思うんです。
浅田▼アベノミクスの良いところは、おっしゃるように日銀の金融政策が経済政策の要になるっていうことを明確化したところにあると思うんです。
過去の日本の政権でそんなことを言った政権は他になかったので、それは安倍前総理の功績だと思うんですよね。つまり、過去の歴史の中で日銀の金融政策をこうするんだなんていう話が選挙の争点だったことはあの時しかないんですよ。
つまり日銀は政治の外で「安全地帯」にいられたわけですよ、それまでの政治では。
つまり日銀の政策が方向転換すれば国民の生活がもっと良くなるとか、逆にもっと悪くなるとか、それほど重要なものだって誰も気がつかなかったわけですよ。
それに気づかせてくれたのは大きな功績だと思います。
藤井▼だとすると、次の一歩っていうのはやっぱり日銀の後ろ盾の下、政府の「財政政策」がなければ結局経済は良くならない、
だから、「財政赤字が悪だ」と認識する「財政規律」っていうのは、根本的に間違った認識なんだ、
っていう話を、選挙の争点にして、国民世論の常識にしていかないといけないところなんですよね。そこに安倍内閣が一歩踏み切れなかったところがある。
浅田▼まさしくそうです。安倍内閣は財務省のしがらみから抜けられなかったんです。
だから増税二回もやっちゃった。ただ増税は二度、見送ったのはありましたが、これは実は本当は増税しちゃいけないと気づいていた証拠なんだと思うんです。
藤井▼そうですそうです。安倍さん個人は完全にそう思ってたと思います。っていうか実際にそう思ってましたね、経済政策の参与として申し上げるなら。
浅田▼だけど結局は二回も増税をしちゃったっていうのは、実はこれ二回とも民主党政権の時に法律で決めちゃってたわけで、しょうがなかった側面があったと思います。
だから、二回抵抗したけど結局は最終的には抵抗しきれなかったっていう限界があったと思うんですね。
ただ、今はもうコロナで経済がボロボロになってるわけですから、ここで菅総理にはまた元の五%にまで消費税を戻すということをやってもらいたいんですけど……、どうもやる気なさそうですね(苦笑)。
藤井▼だから「次」の総理総裁にはぜひそういうことをやってもらいたいんですよね。
特にかつてアベノミクスが金融政策を公約の軸に据えたように、今度は「財政規律の撤廃・緩和」および「消費税の凍結・減税」を公約の軸にしてもらいたい。
浅田▼財政規律と言ってはいけない。
財政規律というのはね、緊縮派が使う言葉で、要するに赤字をむやみに増やさない、政府財政を黒字化しなきゃいけないっていうのが財政規律主義だから。
藤井▼あるいは、「均衡財政主義」とか「緊縮主義」とか、そういうものをやめないと日本に未来はない。
この転換を図るような政権ができれば、日本経済の「手綱」が解き放たれて成長できるんですよ。…(続く)
(『表現者クライテリオン』2021年7月号より)
続きは『表現者クライテリオン』2021年7月号にて
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