皆様、こんにちは。
『表現者クライテリオン』編集部です。
今回は、『表現者クライテリオン』2023年1月号に掲載された書評をお届けします。
鈴木祐丞 著
『〈実存哲学〉の系譜 キェルケゴールをつなぐ者たち』
講談社/2022年10月刊
本書は、初めてデンマーク語原典から『死に至る病』の新訳を手掛けた著者が描く、キェルケゴールを端緒とする実存哲学の履歴である。ただし、それは教科書的に哲学史を追跡する試みなどではなく、私たちの生き方に関わるという意味において読まれなければならない。
無機質な哲学理論のなかに組み込まれてしまった、キェルケゴールの生き生きとした実像を明らかにすること。ひとことで言えば、本書の目的はこれに尽きる。
まず、キェルケゴールその人の実存哲学の内実を考える際に注目されるのは、『死に至る病』の次の一文である。「自己とは関係であるが、関係がそれ自身に関係する関係である」。
要するにここで「自己」は、ある二つのもの(可能性/必然性)の間の〈総合=関係〉だと捉えられており、対立する両者の葛藤を引き受ける姿を指して、それは精神的な「単独者」と呼ばれる。
そして、人間をそうした「関係」として措定した存在こそ〈他者=神〉なのであれば、「死に至る病」(絶望・罪)から快癒する唯一の術は、「自己」に固執せず、むしろ「他者」にその身を開く「信仰」をおいてほかにない──キェルケゴールの思想の中核には、このような「信仰」への飛躍をめぐる「キリスト教的考察」が色濃く見出されるのだ。
だが、著者によれば、二十世紀以降の実存思想家たちは、彼の目指す〈人間教化〉という主題に十分な関心を払わなかったという。
キリスト者の理想像を提示して、しかしその理想通りには決して生きられない人々にみずからの罪を自覚させながら、同時にその自覚から始まる贖罪(信仰)への扉を開くこと。
それを使命にするキェルケゴールは理論家ではなく、読者をより善き生に導く医者である限りで、その行いは人間に無知の自覚を齎すソクラテスの哲学にも比せられるものだった。
では、キェルケゴールの真意はついに誰からも理解されなかったのか。ただ一人を除いては、と著者は言うだろう。初期において「永遠の相のもとに」──俯瞰的な視点から──世界を眺めていたその男、ウィトゲンシュタインは、長い沈黙から再び思索を開始するその時、キェルケゴールを自分の導きとしていた。
現実の不完全な自分を見つめる勇気を、彼自身ずっと持てなかったためだ。自身に巣くう虛栄心という名の罪を認める姿勢をもって、ウィトゲンシュタインは新たな哲学を始めることができた。
つまり、「ザラザラとした大地に戻」るためにはその生き方自体を変える必要があったのであり、〈他者=神〉への道をキェルケゴールが示したことで、『哲学探究』は書かれたのである。この事実から著者は、ウィトゲンシュタインを実存哲学の系譜に位置づける。
「誠実さ」、これこそ実存哲学の根底にある態度だと著者は言う。それは虛栄心を捨てて、あるがままの自分でこの現実を生きることにほかならない。晩年のウィトゲンシュタインはこう書いていた、「思想の代金は何によって支払われるのか。私の考えでは、勇気によって」と。
==============
鈴木祐丞 著
『〈実存哲学〉の系譜 キェルケゴールをつなぐ者たち』
講談社/2022年10月刊 の購入はこちらから
本誌では『「反転」の年 2022-2023 戦争、テロ、恐慌の始まり』をテーマに2022年を振り返りつつ、2023年には何をすべきなのかが特集されています。
【特集座談会】
二〇二二年を振り返る 戦争・テロ・恐慌の時代への大転換/仲正昌樹×吉田 徹×藤井 聡×柴山圭太
【特集対談】
米中露覇権闘争と混迷する世界/伊藤 貫×藤井 聡
購入はこちらから!
『表現者クライテリオン』2023年1月号 『「反転」の年 2022-2023――戦争、テロ、恐慌の時代の始まり』
定期購読をして頂くと約10%の割引となり、送料無料でご自宅までお届けします。
是非この機会にお申込みください!
申込む━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【表現者クライテリオン公式YouTubeチャンネル 新着動画のお知らせ】
〇【特別鼎談 後編】増税勢力が狙う次の裏工作「財源確保法」「防衛増税」の欺瞞を徹底議論(藤井聡×城内実×中村裕之)
https://youtu.be/Lh98Lgb3IjI
〇[SDGsにダマされる日本人]なぜ欧米のスローガンに洗脳されるのか?(藤井聡・浜崎洋介)
https://youtu.be/SmblG9sK4as
〇人生は運で決まりますか?(Q&Aコーナーby藤井聡&浜崎洋介)
https://youtu.be/8C1cOn2swKg
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【お知らせ】
〇第四期後期表現者塾
後期表現者塾受講生募集開始!! 一回500円!体験入塾制度もあります。詳細は↓↓↓
〇【クライテリオン叢書第二弾!】仁平千香子著『故郷を忘れた日本人へ』好評発売中!
◇全国書店またはオンラインショップにてご購入ください。
ご購入はこちらから→Amazonに移動します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Twitter公式アカウントはこちらです。フォローお願いします。
https://twitter.com/h_criterion
『月刊表現者』好評配信中です
https://the-criterion.jp/gh-program/
ご感想&質問&お問合せ(『表現者クライテリオン』編集部)
info@the-criterion.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
執筆者 :
CATEGORY :
NEW
2024.11.21
NEW
2024.11.19
NEW
2024.11.18
NEW
2024.11.18
NEW
2024.11.15
2024.11.14
2024.11.14
2024.11.18
2024.11.15
2024.11.18
2023.12.20
2024.11.21
2024.08.11
2018.09.06
2018.07.18
2024.04.16