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【特集座談会】「インフラ論」なくして政治は語れず / 脇雅史 × 西田昌司 × 藤井聡(2)

藤井 聡

藤井 聡 (表現者クライテリオン編集長・京都大学大学院教授)

<(1)はこちらからお読み頂けます。>

 

過去の教訓を踏まえない財務省

 

脇▼財務省も馬鹿じゃないから、日本を良くしたいという思いは当然あるし、法律が悪ければ変えることだってできます。ただ、彼らは過去のことを見直さない。例えばバブル期の最大の原因は何だったかというと、株主に対する損失補塡です。もともと補塡しますと通達していたのに、正月休みを挟んだらそれを取り消して知らんぷりしたんです。通達を急に取り消したわけだから、皆売りに走りますよ。だから一気に転げ落ちたわけです。

 西田さんは「小泉改革の評価をきちんとしろ」といつも言っているけれど、過去に起こったことをきちんとレビューしないことが一番の問題です。将来のシミュレーションだけでなく、過去に起こったことを分析して反省しないといけません。バブル崩壊にしても、どの時点でどういう政策をとっていたらうまくいったのかという過去のシミュレーションをすることによって未来が見えるわけです。

藤井▼そうですね。我々の土木学会では、今おっしゃったような計算をいつもやっています。例えば東名や名神高速があることでこれだけの経済効果があり、なかったら日本はここまで発展しなかったということが推計できますし、消費税の税率を変えなかったらこうだっただろうというシミュレーションも簡単にできる。我々が行った計算では、消費税率を三%から五%に上げたせいで、十年前の時点で累計で数千兆円のGDPを毀損しているという実態が明らかになった。そこからもう十年経っているので、余裕で一京円以上損しているはずです。僕らはそうやって計算することに慣れていますが、他の人は経済学も含めてそんな計算をほとんどしないんですよ。本当に問題です。

 

正しいことよりも「出世」を優先する官僚

 

西田▼藤井先生は理系だから因果関係を理屈で考えることができますが、財務省の連中は法学部出身だからそういう発想がないのでしょう。でも一番の問題は、彼らも本当のところでは、我々の言っていることが半分以上は分かっているだろうということです。

脇▼最近になって分かってきただろうね。

西田▼私と話が合う人も結構います。ところが、彼らには自分たちの立場があって、私と同じようなことを言っていたら出世の道から外れちゃうんですよ。これは政治家にも共通しているのだけれど、正しいことが分かっていたとしても、その正しいことをやるためには権力を持たなきゃいけないから、そのために当選回数を増やして大臣になり、総理大臣になるんだということが目的になってしまうことがよくあります。そうしているうちに、本当にやらないといけないことが分からなくなるという本末転倒の話になってしまうわけです。

 しかも、官僚は定年までの時間が限られていますよね。その中で、地域の一番の神童と言われ、東大法学部を出た人間が出世争いをしているわけです。彼らにとってはトップに立つ、位が上がるというのが一番の意味になっているんです。このあたりは官僚経験者の脇先生にお聞きしたいです。

脇▼一般論として言えば、役人の出世欲はものすごく強いね。局長以上になると「一般職」から「指定職」へとランクが上がるのですが、国交省、建設省にいた人たちは、せめて一般職から指定職に上がりたいという欲望をものすごく強く持っていました。「課長」や「部長」、「局長」という職名にものすごい憧れがあるんです。私はどうせ上には上がれないだろうと思っていましたが、そうではない人が多かったですね。

藤井▼脇先生の時代までは、少なくとも建設省においては国家公共を思う「熱量」と「出世」が重なっていたと思うのですが、いかがでしょうか。

脇▼世のため人のためと思って役所に入っているわけだから、それを一生懸命やればいいだろうと思っていました。

西田▼僕はやはり、教育勅語を教えなくなったことが問題だと思います。国家国民のために仕事をしろということは寺子屋でも教えられてきたんですよ。ところが、今は役人に限らず出世が第一の目的になっていて、金融とかニュービジネスで力もお金も手に入れている人がたくさんいますよね。「何のために生きているのか」という一番大事なことが抜けているんです。

 

国家も政治家も「品格」を持つべし

 

脇▼小泉政権以来、経済合理性が最も上に置かれるようになったからね。同じ短い人生なら、お金を稼げばそれでいいという金儲け至上主義になっているわけです。行政目的までも経済効果で推し量ればいいという判断になっています。

藤井▼国交省もB/C(費用便益比)を過剰に使用するようになっていますよね。

脇▼ある種の堕落ですね。私は経済合理性の他にもう一つ柱となる目標を立てるべきだと思っていて、それは品格です。「品格」とは「品」と「風格」があるということです。「武士は食わねど高楊枝」ではないですが、要するに「あの人はなかなか立派じゃないか」と思われるような部分を自分に求めるということです。経済合理性を求めるのは悪いとは言いませんが、そこで常に葛藤しながら生きていかないと。今は国家にも政治家にも品格がない。だから世の中を生きていく上でも、インフラの整備にあたっても品格を重んじないといけません。

藤井▼日本国家において品格が失われていくにつれて、インフラ論が我が国から蒸発していき、インフラ整備ができずに国家が凋落してきているということですね。国家の品格の喪失が国家衰退のプロセスのど真ん中にあるからこそ、インフラ論が不在になっているのでしょうね。

西田▼東京裁判史観に縛られている限り、品格なんて絶対出てこないんですよ。連合国に逆らった日本が悪いという歴史観が東京裁判史観ですよね。だから、品格も含めた武士道精神みたいなことを言うと、「そんな物騒なこと言ってどうするんだ」という話になってしまうんですよ。

藤井▼今のお話全体をまとめますと、まず敗戦によって戦後レジームが出来上がり、敵国として国際社会で後ろ指を指されるようになり、かつ、その後の新憲法によって日本国家が解体されてきたという状況があります。その解体のプロセスの最たるものとしてインフラの不在があると思うのですが、これをいかに再生していくか考える時に、保守思想の観点からこの戦後の構造を理解し、語っていくことが必要だと思います。

 一方で、実践論として「隗より始めよ」で考えると、能登半島の復旧・復興をしっかりやったり、そこで明らかになった過疎化を防ぐために高速道路の整備計画をしっかりと考えていったり、そのために予算の裏付けが必要であるならば、財務省とさまざまな折衝を図ったりすることが大切です。さらに、西田先生が一貫して主張されている全国の新幹線網の整備などを通して地方を豊かにし、最終的には国土を強靭化してデフレを脱却し、その過程で衣食足りて礼節を知るようになったら、その礼節を使って品格を再構築し、それを通して戦後レジームからの脱却を一歩ずつ図っていくというプロセスがあるのではないかと思います。

 

地域が主体的に声を上げる必要性

 

西田▼能登に住んでいる人も東京に住んでいる人も同じ日本人で、同じ家族だと思う気持ちがあれば、東京だけ豊かで他の地域は貧しくていいという人はいないはずですよね。だからこそ、昔は国土総合開発計画をやっていたわけです。ところが、今は自己責任論や無責任な利己主義が蔓延していて、東京の人間が地方に住む人のことを考えなくなりましたよね。

脇▼ただ、「自己責任」という言葉は強すぎるかもしれないけれど、今回の震災でも、能登半島をはじめ地域に生まれた人たちが「俺たちこうしたい。こんな時期だからこそ皆で力を合わせてこうしよう」ということを地元でまとめることも大事です。東日本大震災でもそうでしたが、商工会議所でも農業関係でも、いろいろな人を呼んで地域をどうするか一生懸命考えないといけません。もちろん支援はお願いするのだけれど、根っことなる考え方が地域にないのにどうして地域が発展しますか。

 江戸時代から、それぞれの地域は誰かに言われたわけでもなく、より良い地域にしようということで発展してきたのだと思います。地域のことを自分たちで考えて自分たちで努力してやった結果、うまくいったところはうまくいくし、駄目なところは駄目というのはしょうがないんです。今日本が抱えている少子化も高齢化も過疎化も大変な問題ですが、だからこそそれぞれの地域が立ち上がらなかったら駄目ですよ。切り捨てるわけではないけれど、そういう部分がないといけないと思います。

(本誌に続く..)

 

◯座談会参加者紹介

脇 雅史(わき・まさし)

45年東京都生まれ。67年、東京大学工学部土木工学科卒業。同年、建設省に入省。道路局国道第二課課長、河川局河川計画課長、近畿地方建設局長などを経て、97年退官。98年、参議院議員比例区当選、以後、3期連続当選。参議院自由民主党幹事長、国会対策委員会委員長、政治倫理審査会会長などを歴任。16年、議員引退。現在、脇雅史政策研究会代表。

 

西田昌司(にしだ・しょうじ)

58年京都市生まれ。滋賀大学卒業。87年、税理士事務所を開設。90年、京都府議会議員当選。07年、参議院議員選挙に出馬し当選、現在、3期目。参議院自民党国会対策副委員長、参議院予算委員会理事、財政金融委員会筆頭理事、自民党副幹事長など要職を歴任。現在、自民党政務調査会会長代理、自民党財政政策検討本部本部長、参議院財政金融委員会理事、参議院憲法審査会幹事などを務める。著書に『総理への直言』『保守誕生 日本を陥没から救え』(西部邁、佐伯啓思との共著)『財務省からアベノミクスを救う』など。

 

藤井 聡(ふじい・さとし)

68年奈良県生まれ。京都大学卒業。同大学助教授、東京工業大学教授などを経て、京都大学大学院教授。京都大学レジリエンス実践ユニット長、2012年から2018年までの安倍内閣・内閣官房参与を務める。専門は公共政策論。文部科学大臣表彰など受賞多数。著書に『大衆社会の処方箋』『〈凡庸〉という悪魔』『プラグマティズムの作法』『維新・改革の正体』『強靭化の思想』『プライマリーバランス亡国論』など多数。共著に『デモクラシーの毒』『ブラック・デモクラシー』『国土学』など。「表現者塾」出身。「表現者クライテリオン」編集長。

 


〈編集部より〉

本記事は2月16日発売、最新号『表現者クライテリオン2024年3月号』の特集に掲載されています。

特集タイトルは、

日本を救うインフラ論

今、真に必要な思想

です。

巻頭言と目次を公開しました。

インフラを実践的かつ思想的に論じた特集となっています。なぜ知識人はインフラを論じないのか、なぜ日本人はインフラに関心がないのか、ご関心を持たれましたら是非ご購入予約の方をお願いいたします。

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