特集座談会②「自民党はなぜ劣化したのか」/小沢一郎×堀茂樹×藤井聡×柴山桂太

啓文社(編集用)

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 本日は6月14日発売、『表現者クライテリオン2024年7月号 [特集]自民党は保守政党なのか?』より、特集座談会②「自民党はなぜ劣化したのか」から一部をお送りいたします。

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特集座談会②「自民党はなぜ劣化したのか」

小泉政権の誕生を転機として、

自民党は「国民政党」をやめた。

その背景に何があったのか。

///Webで読む///

 

小泉政権以降、決定的に変質した自民党

藤井 今回の『クライテリオン』では「自民党は『保守政党』なのか」という特集を組んでおります。この切り口で自民党の問題をあぶり出しつつ、小沢先生もよくご存知であったかつての自民党の歴史も踏まえながら、どのように自民党が変遷してきたのか、そしてあるべき与党の形や野党の形、あるいはあるべき「保守政党」とは何かといったことも見据えながら、いろいろとお話をお伺いしたいと思っています。

 本特集の「自民党は『保守政党』なのか」というタイトルには、「少なくとも今日の自民党はもはや保守政党とは呼べないのではないか」という思いが含まれているわけでありますが、このことについて、まずは小沢先生の率直なご意見をお話しいただければと思います。

小沢 政党政治に携わる者から言わせていただくと、政治の役割は富の再配分です。我々の政治的標語でいえば、「国民の生活が第一」という類の役割だと思っていますが、かつて僕らがいた時代の自民党は、意識してか無意識かは別として富の再配分に非常に力を入れていました。当時の政治状況、選挙状況と相まって、メディアからは「自民党は田舎出身の連中ばかりだから、田舎への予算配分を手厚くしている」と言われていたわけです。でも、自己目的のためかどうかは別にして、ある意味で富の再配分をきちんとやっていたからこそそう言われていたのだと思いますね。

 しかし、小泉政権あたりで転機が訪れました。これもまた無意識のうちでしょうけれども、富の再配分という視点がなくなって、それから新自由主義的な政策につながっていった。憲法に「健康で文化的な最低限度の生活」という言葉がありますが、誰もが最低限度の生活を営むことができるための政治とはかけ離れていったということです。それが政策的な考え方の主流を占めるようになってしまい、今でも続いているような感じがします。

 僕は時々、仁徳天皇の「民のかまど」の逸話(町の様子を眺めていた仁徳天皇が、民家から炊事のための煙が上がっていないのを見て、三年間税金を免除した)を挙げるのですが、それからかけ離れてきてしまっています。つまり、本来の政治の役割についての哲学、あるいは政治の責任についての考え方が変貌してしまったということです。ですから、僕は自民党の体質は変わったと思いますし、もはやかつての自民党ではないと思います。

 最近、自民党は地方での選挙に弱くなってきています。地方は最も人口減少と所得の減少に悩んでいますが、そのことと本来の自民党の支持基盤が崩壊しつつあるいうことが現象として一致しているように思います。そして、これがトータルとしての日本の人口減少という事態に結びついているとしたら、それはまさに大いなる政治の責任だと僕は思います。

 そういう意味でも、有権者・国民には本来の政治をしっかりと見極めて、それを行動として表してもらいたいし、我々はそれをきちんと理解し、その気持ちを汲み取って政治に携わらないといけません。

藤井 なるほど。おっしゃる通り、自民党はちょうど小泉政権のあたりから顕著に変質してきたかと思いますが、富の再配分を十分に考えず、地方も顧みないという新自由主義的な考え方へ変質する萌芽は、先生が自民党におられた頃からあったのでしょうか。

小沢 僕がいたのは宮澤喜一政権の頃までだったけれども、そういう考え方が政治の主流を占めることはなかった気がしますね。七〇年代末から八〇年代頃にサッチャー政権やレーガン政権が誕生しましたが、それが日本の政治にまで影響を及ぼしてきたのはその後ですよね。

柴山 本格化したのは、九〇年代からですね。

藤井 「中曽根政権が新自由主義的な政策の皮切りになった」という言われ方がしばしばされると思いますが、その点はいかがでしょうか。

小沢 中曽根さん本人に新自由主義的な感覚があったとは僕は思いませんね。ご本人の強い意志で国鉄改革などをやりましたけれども、それが新自由主義的な発想から出たものとは思いません。

藤井 なるほど。そういう意味では、やはり小泉政権の誕生というのが決定的な変質の契機になったということですね。

小沢 決定的な転機だったと思いますね。

 

一極集中と格差の拡大が伝統・文化を破壊する

柴山 先生がおっしゃったように、戦後の自民党は、放っておくとどうしても都市に人やお金が集まるから、富の再配分によって地方と都市のバランスを取ろうとしていた、そこに自民党の存在意義があったのだと思います。「保守とは文化や伝統を守るものである」と定義すると、都市よりも地方の方が残っていますし、都市でも下町のようなところに残っているので、そういう地域を支えることで国家の旧い部分と新しい部分のバランスを取ることをやってきたのだろうと思います。例えば、全国総合開発計画や、「均衡ある国土の発展」という考え方、大平内閣の田園都市構想など、国土政策が典型です。けれども、いつの間にか人口とGDPの三〇%から三五%が東京圏に集まる、アンバランスな国家になってしまいました。これも、自民党の政策の責任が大きいとお考えでしょうか。

小沢 僕はそうだと思います。自民党の主だった人が、一極集中するのが良いことだという感覚になってしまったわけです。人口問題に関しても、自民党の部会などでは「日本は五、六千万人程度の国家でいい」と公然と言っていますからね。本当に信じられないことです。

 大きな問題は、いわゆる金銭的な貧富の差が広がっていることだけでなく、それが結果として日本の伝統的な社会、伝統的な文化を破壊してしまったことだと思います。田舎でも、何十年、何百年と続いた芸能やお祭り、手工業的なものが成り立たなくなってきており、どんどんやめてしまっているわけです。このことは選挙をするとよく分かります。東京でも地元の人はお祭りとかを今でも細々とやっていますが、お祭りをいくら回ったって選挙に通らなくなっているわけです。今やよそ者がほとんどですからね。

 地方から東京へ来た人たちは、伝統的な文化とか考え方を忘れてしまうんです。田舎自体も変貌してきているから、ますますそういうふうになるんじゃないかと思いますね。端的な例でいえば、消防団は地方にはまだありますが、都会にはないですよね。そういう長年続いてきた良き文化を守っていくことが、ある意味で言葉を変えれば「保守」ということであるし、政治のあり方ではないかという気はします。

 

政府主導の「新自由主義的改革」に国民が流された

藤井 先生がおっしゃったように、伝統文化を過不足なく大切にしながら政治を行う「保守」というものが政治の一つのあるべき姿ですが、それが小泉政権の頃からずいぶん変わってきて、それ以降の内閣はすべて新自由主義的であり、分配を重視せず、口では「地方創生」と言いながら事実上地方を重視せず、「東京一極集中を是正する」と言いながら東京圏には毎年十数万人ずつ人口が流入していく状況が放置され続けています。そしてさまざまな「改革」を進め、伝統的なものを保護していくための仕組みもどんどん溶解してきたわけです。

 それと同時に、国民の側も良き伝統を守ることに意識が向かなくなっていきましたね。

小沢 それも一つは政治が主導したからでしょうね。日本人はお上の言うことに素直に従う性格を持っていますからね。新自由主義的な改革を進めるのがいいという考え方が世間に広がったことが一番大きいと思いますね。

 それと同時に、今は仕事の形態も変わってきているでしょう。例えば、会社に行かなくても自宅で仕事ができるようになってきています。最近では、やはり皆が集まって仕事をしないといい意味での仲間意識や会社意識、社会意識が生まれないと反省し始めているようですが、そういう社会の変化がますますそのような考え方を助長してきたのではないかと思います。

 日本人は自己主張のない人が多いですよね。国自体にも自己主張がないし、国民そのものも、その時々の風潮に流されやすい。言葉を変えると「和を以て貴しとなす」というか、あんまり余計なことは言うな、波風を立てるなという類の国民性です。だから、どうしてもその時々の風潮に流される。特に政府が主導するとそうなってしまうんですよね。食生活に関しても、かつて厚生省が「米を食うと太る」と言ったことで急激に米を食わなくなりましたよね。ところが、今では「米は一番の健康食だ」と言われているぐらいです。そういう類のものがいっぱいあると思いますね。

 最近ではアメリカに言われて種子法を廃止し、遺伝子組み換え作物が大量に日本に入り込むようになっています。トウモロコシや大豆は大体そうですが、米までそうなってきている。なぜこれほどまでにアメリカの言う通りにしなきゃいけないかと僕は思います。水道の民営化だとかもどんどん進んできているので、これは非常に危機的な状況ですね。政治がしっかりしないと、ますますおかしくなってしまう。

 

アメリカの言いなりは極めて危険である

藤井 今のお話から想像しますに、やはり「対米従属的政治」を根幹に据えた自民党政治の帰結として、新自由主義的な考え方が自由民主党を席巻していったということでしょうか。

小沢 結果的にはそうでしょうね。おそらく、アメリカの主張を断りきれないというよりも唯々諾々として呑んでいます。アメリカの言うことを聞いて余計な金は使わず、自分たちの生活に回すのが一番いいと思っていることが背景にあるのだと思います。

 最近、防衛費が極端に上がりましたけれども、これもアメリカから言われたからです。基本的に軍事産業は非生産的なものですから、それには金を使うなというのが戦後の考え方だったはずです。それで民生に金を回し、それが成功して高度成長しましたが、アメリカがうまくいかなくなってくると「お前ら、俺たちの言う通りにやれ」となってくる。たぶん、今の日本政府の外交はほとんどアメリカに反論できないでしょうね。

柴山 本当に危ないことになってきたと思います。トランプが二期目をやることになれば、外交の大きな転換を迫られるかもしれません。というのは、トランプは明らかに同盟国に対して価値を見出さない政治家だからです。日本だけではなく、欧州や韓国ともゼロベースで同盟を見直すと言っています。しかも、どちらかというとロシア寄りですから、大統領になったらロシアと組むことになるかもしれません。

 ニクソンの電撃訪中もそうでしたが、アメリカは状況に応じて立場を一変させることがあります。日本はアメリカに流されてばかりだと、本当にどちらに進んでいいのか分からなくなるのではないかと危惧します。

小沢 日本はどうしていいか分からなくなり、あたふたしてしまうでしょうね。僕はトランプ氏と話したこともないからどんな人かよく知りませんが、彼が大統領になると不安定要素が非常に多くなると思います。アメリカ第一はいいけれども、「アメリカのためならあなた方はどうなってもいい」ということになってしまうと世界全体が混乱してしまいますから。

 それと、ロシア以上にやはり中国の問題もありますね。世界全体が非常に不確実なものになっていくのではないかと思います。イスラエルに関しても、アメリカはあれだけイスラエルに援助してきたのに止められなくなっています。そりゃあ、二千年経ってから「俺の土地だ」と言われてもアラブ人は困っちゃうわけで、だからあの争いは止まないと僕は思っています。

 そういう要素がある中で中国で動乱が起きたら、僕はロシアも引きずられると思いますね。アジア地域のロシアの領土なんてもともとなくて、エカテリーナがコサックを使って侵略するまでロシア人はいませんでしたから。だから、中央アジアから極東にかけての遊牧民地域は動乱になるでしょうね。それが一気に起きてしまったら止めようがありません。

柴山 しかも、アメリカも介入できない状況になっているでしょうね。

小沢 そうです。アメリカは「自分さえ攻撃されなければいい、勝手にやってくれ」という話になっているでしょう。だから、プーチンのウクライナ侵略も止められない。これはやはり、自由主義、民主主義の旗頭としてのアメリカの力が弱り、役割を見失ったことが大きいでしょうね。そうしておろおろしているアメリカにずっとへばりついている日本も、どうしようもない感じになりつつあるのではないでしょうか。

 本来であれば、アメリカから「こいつを敵にしちゃいかん。こいつは本当に大事な仲間だ」と思われるような日本にならないと駄目です。アメリカが滅茶苦茶になっている中で日本はただついて歩いているだけだと、本当にわけの分からないことになりますよ。

 

続きは本誌にて…

 

〈座談会参加者紹介〉

小沢一郎(おざわ・いちろう)
42年岩手県水沢市(現奥州市)出身。67年、慶應義塾大学経済学部卒業。69年12月、衆議院議員当選。以後18期連続当選を果たす。衆議院議院運営委員長、自治大臣・国家公安委員長、内閣官房副長官、自民党幹事長、新生党代表幹事、新進党党首、自由党党首、民主党代表、民主党幹事長、自由党共同代表などを歴任。趣味は囲碁と釣り。著書に『日本改造計画』。

堀 茂樹(ほり・しげき)
パリ第Ⅲ大学及びパリ第Ⅳ 大学D.E.A.課程修了。専門はフランスの思想と文学。翻訳家。近著に『戦争、軍隊、この国の行方 9条問題の本質を論じる』(共著、[国民投票/住民投票]情報室)、『今だから小沢一郎と政治の話をしよう』(祥伝社)がある。翻訳は、クリストフ『悪童日記』(早川書房)、エルノー『シンプルな情熱』(早川書房)、ヴォルテール『カンディード』(晶文社)、トッド『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(文藝春秋)ほか多数。現在、慶應義塾大学名誉教授、アンスティチュ・フランセ東京講師。


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