「反共」という共通目標を失った自民党が、
なお「保守」たりうるための思想的戦略を考える
政治資金パーティで集めた資金の還流問題をきっかけに、自民党で様々な不祥事が次々と発覚し、負の連鎖に陥り、政権を失う可能性が現実味を帯びてきた。ただ、自民党が自らの保守政党としてのアイデンティティを見失って右往左往する状態は、政治資金問題以前に、安倍元首相の暗殺から始まっていた、と思う。
安倍元首相暗殺というと、どうしても統一教会問題が絡んでくる。統一教会の元信者である私はこの問題について既にいろんな所で、マスコミや政府の対応の問題点を指摘してきたので、またかと思う人もいるかもしれないが、統一教会問題に対する自民党の対応のおかしさが、(私がまだ統一教会の信者だった三十年以上前と比べての)自民党の変質を象徴していた、と思われるので、そこから話を始めたい。「統一教会との関係」についてマスコミに聞かれた時の自民党の議員たちのリアクションのおかしさをめぐる問題だ。
自民党議員と「統一教会との関係」とマスコミで話題になったのは、どれもそれ自体として見れば大したことではない。統一教会の関連団体のイベントに参加したとか、世界日報の取材を受けたとか、政策協定を結んで選挙支援を受けたとかだ。“統一教会問題専門家”等は、それらを霊感商法・高額献金と関係付けようとしていたが、議員が統一教会と協力関係にあることに勇気づけられて入信したとか、献金したといった例は知られていない。
ごく普通に考えれば、統一教会の信者であれ、他のどこの団体に所属している人であれ、自分の選挙運動を応援してくれる人たち自身が違法行為に手を染めていないのであれば、政治家が言うべきは、「私はこの人たちと直接会って、信頼できる人と思ったから提携し、選挙の応援をお願いした。彼ら自身が何か罪を犯したのか。もし所属する団体との関連で、間接的に犯罪に加担した可能性があるというのであれば、調べる」、であろう。
支援してくれていた団体が思ったより世間の評判が悪かったとしても、とりあえずは慌てず、どうしてその団体の人たちを信用したのか説明すべきだろう。本人が逮捕されたというわけでもないのに、評判だけですぐに不信感を覚えるような相手に応援してもらうというのはおかしな話である。
しかし多くの議員は、「統一教会との関係は…」と聞かれると、「そういう団体だったとは知らなかった」「知っていたら、お付き合いしていなかった」などとしらじらしいことを言って、責任回避しようとした。盛山文科相に至っては、支援を受けたことを黙ったまま大臣に就任し、後で発覚して騒動になると、支援を受けたという記憶がない、意図的に黙っていたわけではないなどとしらを切ったうえ、(選挙を取り仕切っているという)自分の夫人を登場させ、統一教会に頼んだ覚えはない、と発言させている。
私は彼らが旧統一教会の教えに共鳴したとは思っていないし、教団の関連団体と政策協定を結ぶことの良し悪しを言っているわけでもない。支援を頼むに際して、相手がどういう人(たち)で、自分の掲げる政治目標と、その人たちのそれがどこで一致し、どこで違っているのか把握していないことが問題だ。
そうした一番肝心なことが曖昧なまま、統一教会との関係が取りざたされた議員たちは教団施設を訪問して、信者たちと仲良さそうにしている写真を撮ったり、教祖夫人をマザーと呼んでリップサービスするなど、なれ合っていたようだ。私が教団を辞めた頃はまだ子供か、生まれていなかったであろう二世信者たちの多くにとって、そういうなれ合いが普通になっていたようだ。
私が信者だった頃には、こういうなれ合った雰囲気ではなく、自民党等の保守政党・団体と、統一教会の関係はもっと緊張感があった。私は教団系の学生新聞や世界日報の記者として国会議員や都会議員、保守系の学者などに会ったことが何度かあるが、彼らから、「君は統一教会の信者さんなのか。なかなかいい教えだと思うよ」、といった好意的なリアクションをしてもらったことはまずない。「反共で戦ってくれているから協力してるが、俺が統一教会の教義に共鳴しているとか思って、気安くするんじゃないぞ」、と結構きつい口調で牽制されるのが普通だった。
「反共」という一点で繋がっているのであって、決して親しい関係でないことはお互い了解していた。勝共連合の会員になることと、統一教会の教義に共鳴することの間にはなかなか超えられない壁があることを、信者たちは分かっていた。
そうした議員や学者は、勝共連合などを介して統一教会と関係があるのではないかと糾弾されても、「私は共産主義と闘うために彼らと協力しているだけだ。私が何故、共産主義と闘っているか知っているだろう。私の思想が、統一教会と相容れないことなど知らないのか」、と言って押し切っていた。当時はシベリア抑留経験のある議員もいたし、多くの場合、何故反共なのか説明するまでもなかった。
統一教会系団体との関係に限らず、当時から自民党はいくつかの宗教・思想団体と協力関係にあった。自民党を支持する宗教団体同士は、教義の面では互いに相容れないし、実際に、反目し合っていることもあった──私も他の宗教団体の人と接した際、それを実感した。しかし、無神論・唯物論であるマルクス主義の日本社会への浸透をこれ以上許してはならない、という意味での「反共」意識では一致しており、自民党がそうした反共思想を持った諸勢力の間の対立を顕在化させず、何とかまとまるための傘のような役割を果たしていた。
自民党という政党自体がもともと、マルクス主義とかファシズム、宗教原理主義のような一つの先鋭化された理念の下で結集した政党ではなく、広い意味での反共、日本という国のまとまり、伝統的な生活様式を破壊する勢力に対抗して結成された政党だということができる。戦後、民主化は進めるが、社会主義にまで進んでいくことは拒否するという意味での「保守」の諸勢力が離合集散を繰り返して、五五年の保守合同で出来上がった政党である。立党宣言では、党の理念として、「第一に、ひたすら議会民主政治の大道を歩むにある。従ってわれらは、暴力と破壊、革命と独裁を政治手段とするすべての勢力又は思想をあくまで排撃する。第二に、個人の自由と人格の尊厳を社会秩序の基本的条件となす。故に、権力による専制と階級主義に反対する」、と謳っている。
かなり思想を異にする様々な潮流の政治家が一つの党に集まっているうえ、中選挙区であったため同じ党員の議員が選挙応援の都合で派閥が形成されているのは不自然だ、実際しょっちゅう政策の方向性がブレていて、一貫性がないといったことがずっと言われ続けてきた。自衛力を最小にして経済成長に力を入れ、その分日米安保を経済面で支えることに徹する吉田路線VS.自主憲法制定・自衛力を強化することを目指す岸路線、西欧的な生活様式を積極的に取り入れようとする派VS.日本の伝統文化を守って行こうとする派、都市中心の経済成長を志向する派VS.公共事業を通して地方のシェアを増やす派……。こうした路線対立に、経団連、商工会議所、各種業界団体、農協、医師会、歯科医師会、薬剤師連盟、遺族会、各宗教団体等……の異なった利害関係を持つ団体や官僚組織が、派閥や族議員のグループ、各議員の後援会と複合的に結び付いているので、どういう力学で政策が決まっていくか分かりにくかった。
一九九〇年代までは、それでも「反共」で何とかまとまっていられたが、ソ連・東欧ブロックが崩壊し、中国が市場経済化を始めたため、危機感が弱まり、自民党の内の路線の違いが際立つようになり、何らかの形で純化すべきという声が強まっていった。
(続きは本誌で…)
仲正昌樹(なかまさ・まさき)
63年広島県生まれ。東京大学総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。駒澤大学非常勤講師、金沢大学助教授などを経て、現在、金沢大学法学類教授(政治思想史)。主な著書に『集中講義! アメリカ現代思想』『今こそアーレントを読み直す』『精神論ぬきの保守主義』『ハイデガー哲学入門『存在と時間』を読む』『教養としてのゲーテ入門』『悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える』『哲学JAM[赤版] 現代社会をときほぐす』など多数。近著に『現代哲学の論点 人新世・シンギュラリティ・非人間の倫理』『ドゥルーズ+ガタリ〈千のプラトー〉入門講義』など。
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