【自民党総裁候補・高市早苗氏に聞く】 指導者の条件とは? ~安全保障と国家経営のあるべき姿~ (後編) 【特別公開】

啓文社(編集用)

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これからの日本を牽引する「指導者の条件」とは何か--
劣化、腐敗の度を増す日本の政界、財界の復活を期すための最重要論点として本誌9月号にて徹底的に論じたこの問いを、
次期首相候補の一人である高市早苗経済安全保障担当相に投げかけた。

後編では、奇しくも本特集と同じタイトルの『指導者の条件』を著した松下幸之助を塾主とする松下政経塾で薫陶を受けた高市氏に、「日本のリーダーたる条件」について率直にお話しいただいた。

(聞き手:藤井聡

[前編を読む]

 

「政治家は主権者の代表である」という矜持を持つべし

 

藤井 続いて前号の特集テーマであった「指導者の条件」についてお伺いしたいと思います。今まさに、自民党では党の指導者たる「総裁」を決定するための総裁選挙が予定されています。それは同時に日本国家のリーダーたる「総理」を決定するための選挙でもあるわけですが、高市さんもその有力候補者のお一人として名乗りを上げ、そして国民から大きな期待を受けておられる立場になっていらっしゃいます。ついては恐らくは多くの国民は高市さんご本人が「指導者の条件」として、とりわけ政治的リーダーのあるべき姿について,どのように考えておられるのかについては、大変大きな関心があるところではないかと思います。とりわけ高市さんといえば、松下政経塾にてまさに『指導者の条件』というタイトルの書籍を著した松下幸之助さんの薫陶を直接受けておられる方でもあります。ついてはそのあたりも含めて是非、高市さんがお考えになる、あるべき指導者の姿について、多面的にお話を伺いたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 

高市 私は受け売りでしかありませんが、松下幸之助塾主のところで学んだのでもちろん影響を受けています。第一に、政治家は「主権者の代表」です。「私は主権者の代表として働いている」という矜持を持つことが大事です。私はその矜持をもってたくさんの仕事をしてきたと思っているので、そこは譲れない線ですね。ですから、自分のことを「公僕」とは決して言いません。

 もう一つ、松下幸之助塾主がおっしゃっていたのは「国家経営理念」というものの大事さです。塾主は『実践経営哲学』という本の中でこう言っています。

「国家に“この国をどのような方向に進めていくか”という経営理念があれば、各界各層の国民も、それにもとづいて個人として、また組織、団体としての進み方を適切に定めやすく、そこから力強い活動も生まれてくれる。また他国との関係にしても、しっかりした方針のもとに主張すべきところは主張しつつ、適正な協調を生み出していきやすい。

 ところがそういう経営理念がないと、国民の活動もよりどころは見出せず、バラバラになりがちになり、また他国との関係も場当たり的になって、相手の動きによって右往左往するといった姿になってしまう。

 したがって、一国の安定発展のためには、国家経営の理念をもつということが何にもまして大切なわけである」

 こうやって国の形を作っていくんだという「国家経営理念」を明示して、国民の皆様がそれを共有し、一丸となって取り組んでいくことが大事です。そこで求められるのが国の総合力であり、塾主は自衛力、政治力、経済的な生産力や金融力、教育の程度、民度の高さ、学術、科学技術、文化の発達度合いなどを挙げられています。さらに、国民のあり方についてはこう語っておられます。

「一部の支配階級が政治を行っていた封建制や絶対主義の時代とは違い、現代の政治の最終責任は国民に有る」

「株主たる国民は、高い政治的見識と良識を伴った『主権者意識』を持つべきであり、自ら主権を放棄して投票を怠ったり、国民全体の代表である政治家に自分勝手な陳情をしたりすべきではない」

 

君子は豹変しても構わない

 

高市 それと、意外なことに松下幸之助塾主は「君子は豹変す」とおっしゃっています。松下正治さん(パナソニック二代目社長、松下幸之助の娘婿)の『経営の心』という本に書いてあるのですが、社内でいろいろ検討を重ねて、塾主も納得して決定した方針なのに、翌朝になって撤回されることが度々あったと。それに反発して松下正治さんが文句を言ったら、塾主は「君子は豹変するんや」と言ったそうです(笑)。でも、これには一理あります。塾主は皆と議論したり取締役会で考え抜いたりして結論を出したあとも、実行に移す直前まで「本当にこれでいいのか。もっと良い結論がないのか」と考え続けていて、当時は夜中に急に呼び出される方も多かったようです。だから、塾主の言う「君子は豹変す」というのは、熟慮・熟考の結果ということです。

 政治のリーダーでも、本来は一度発信したあとに「やっぱり間違っていた」と思ったら、早急に方針転換すべきなのですが、引っ込みがつかずにそのまま突き進んでしまう可能性が高いんですよね。

 

藤井 そうですね。今日本が疲弊している原因の大部分はそこにあるのではないかとすら思います。

 

高市 そこに私が頷くわけにはいかないのですが(笑)。ただ、一般論として、一度決断して公表したものであっても、途中で間違いに気がついた場合にはすぐに修正すべきです。間違ったことを一日でも長く続けてはいけないわけですから。会社の経営なら、一日、二日間違ったことを続けていたら会社自体が潰れる可能性もあるわけですよね。

そう考えると、すぐに国民の皆様に素直に謝罪して、「よくよく考えたらこの方針の方が国益にかなうと気がつきました。だからこのようにいたします」と方針転換できる勇気と胆力は絶対に必要だと思います。

 

藤井 筋さえ通っていれば、表面的なものがいくら変わっても説明すれば伝わるはずですよね。

 

高市 伝わると思いますし、説得する力が極めて重要です。

 

藤井 筋がない人間が表面上の言葉にこだわり続けていく中で失敗してしまうというのは、戦前から何度も繰り返されてきたのでしょうね。戦争にしても経営にしても、勝利したり成果を出したりするためにはそういう意味での「君子は豹変す」が絶対に必要です。それができるかどうかがリーダーの重要な条件であるというのはおっしゃる通りですね。

 

高市 私もそう思います。若い頃に考えていた政策と今の環境の中で考える政策は変わっていきますよね。そのときに「昔はこういうことを言っていたじゃないか」と言われても、「今の環境ではここをこう変える必要がある」と言い切る責任がありますし、トップが大変なのはそういうところだと思います。企業の経営者であれ、国家経営者であれ、地方公共団体の長であれ、一度出した方針を引っ込めて変更する勇気、説得して理解を求める力が必要だと思います。

 また、自分がトップを務める組織内で問題が起きたときには、地位の高い人ができるだけ早く謝罪をすることも大切です。「謝罪の効果は時間の長さに反比例し、地位の高さに比例する」というわけです。これは松下幸之助塾主とは関係ない言葉ですが、私自身が心がけてきたことです。他の役所の大臣をしていた頃ですが、所管している独立行政法人、特殊法人などで問題が起きたとき、その法人のトップに対してできるだけ早く記者発表してくださいと言っていました。皆さん「原因究明してから」とか「改善策をまとめてから」とおっしゃるのですが、まずは起きてしまったことについて早く公表すべきだと思います。

 

すべての責任はトップにある

 

藤井 リーダーのリーダーたる所以や資質はそういうときに試されますよね。松下幸之助さんも総理大臣に求められる資質の三番目に「責任感のあつい人であること」とおっしゃっていましたよね。

 

高市 松下幸之助塾主がおっしゃっていたのは「すべての責任はトップにある」ということです。何か間違いがあれば、国の政治であれば内閣総理大臣に責任があるし、企業経営であれば、すべての責任は企業のトップにある。つまり、誰かのせいにした時点でそこに発展はないということを教えてくださったのだと思います。

 企業でも、社内の会議で何かを決めて実行して失敗したとするでしょう。そこで「あのときあいつがあんなこと言わなければ良かったのに」と言っているようなトップでは駄目ですよね。だって、そこには反省がないわけですから。そうではなく、失敗したらその原因をよく分析して、トップの責任で改善していかなければなりません。そうすれば同じ失敗はしないけれど、誰かのせいにした時点で思考が停止すると思います。

 

藤井 本当にそうですね。前号の特集ではサブタイトルを「“徳”と“品格”の思想」としたのですが、まさに今の世の中では、リーダーの徳と品格、あるいは道徳性や倫理感が重要であるということがどんどん忘れられてしまっています。高市先生がおっしゃったように、松下幸之助さんの言葉を心に留めてトップが責任を取るとか、有権者の代表であると同時に有権者に対する愛を忘れないようにするとか、そういった心構えの重要性が最近は軽んじられているのではないかという問題意識からこの特集を組み、高市先生からお話を是非お聞きしたいと思った次第です。

 今日は経済安全保障にかかわる長期的な戦略についてお伺いしましたが、まさに福沢諭吉が言うところの「公徳」に溢れたお話をしていただいたものと存じます。そういう意味で、今日お話しされたことはすべて「徳」と「品格」についてのお話であると改めて感じました。

 

高市 私に徳や品格が備わっているかどうかはさておきまして、とりあえず私が気をつけていることの中で優先順位の高いものをお話しました。

 藤井先生も防災に経済、さらに徳と品格まで論じておられていて大変お忙しいですね。今後もぜひご活躍ください。

 

藤井 雑誌は文字通り「雑多な事柄を書き記したジャーナル」という意味ですから(笑)。高市先生にはぜひ、国家の経営をお願いしたいという気持ちをさらに強くしました。今日は本当にありがとうございました。

 


本記事は『表現者クライテリオン2024年11月号』(2024年10月16日発売)に掲載予定の記事を一部省略して構成したものです。
全文は是非本誌を手に取り、ご一読ください。

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(編集部)

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