【特集インタビュー】「ワシントン」の腐敗と いかに戦うか?(前編)/ジェイソン・モーガン×川端祐一郎

啓文社(編集用)

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今回は、特集座談会の一部をお送りいたします。

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グローバリズムから
パーソナリズムへ

アメリカ衰退の核心はどこにあるのか、
そして、欧米の選民思想に抗する
日本の思想的拠り所はどこにあるのか。

ワシントンへの幻滅

川端▼今回の特集では「反欧米」を謳っていますが、欧米人と喧嘩がしたいわけではなく、どちらかというと「アジアの新世紀」の方に重きがあって、「我々は欧米中心の世界からアジア中心の世界へ移り変わる時代を生きているのではないか」という議論がしたいと思っています。欧米の国々が軍事的にも経済的にも力を振るう時代が長く続いてきましたが、二十一世紀に入ってからは中国、インド、インドネシアなどアジアの存在感が明らかに大きくなっています。ところが、日本人の頭の中ではいまだ欧米中心主義、とりわけアメリカ中心主義の世界観が続いているように思えます。
 我々がモーガン先生にインタビューしようと思った理由の一つは、アメリカ側の事情についてお伺いしたいからです。例えば、「世界の警察としてヨーロッパも中東もアジアも支配するのだ」というアメリカ人の意欲は、どのように変化しているのでしょうか。長らく介入・駐留してきた地域から手を引くべきだと主張するトランプが人気を集めるということは、アメリカ国民の総意として「世界の警察」をやめたいと思っているのか、そうでもないのか。
モーガン▼世界を支配するかどうかというより、アメリカ国内でエリートに対する不信感や、労働者の不満が高まったというのが大きいと思います。私は十年ぐらい前までは、アメリカは善い国だと本気で思っていて、バークのような思想家を尊敬していました。つまり、フランス革命には反対でアメリカ独立革命には賛成という、典型的な「アメリカの保守」の考え方です。しかし、トランプ登場の前後で、少しずつアメリカの本質が見えてきました。
 特に、FBIの腐敗が見えたことは私にとって大きなショックでした。父と個人的に議論したことがあって、ヒラリー・クリントンのEメール問題(国務長官在任中に、国家機密を扱う公務で私用のEメールアドレスを使っていた問題)について、私は「FBIは中立的な立場から、法と正義に則ってヒラリーを起訴するはずだ」と考えたのですが、父は「FBIは民主党に取り込まれているので起訴はしないだろう」と言い、実際にそうなった。それをきっかけに、ワシントンに対する信頼が私の中で大きく崩れたんです。
 また、イラク戦争に参加した元軍人から、「何のためにイラクに派遣されたのか分からない。友人が殺され、私も人を殺した。あれは一体何のためだったのか?」というような話を直接聞く機会もあり、アメリカ政府のやっていることは国民のためになっているのか、疑うようになりました。ルイジアナやテネシーのような貧しい地域で育った若者が、アフガニスタンに派遣されて死ぬ。あるいは、身体や精神に大きな傷を負って帰国する。彼らは何のために命を懸けたのか。それは、「アメリカ」ではなく「ワシントン」のためです。私が言う「ワシントン」とは、国民の多数派の利益を顧みず、自分たちのカネ儲けと出世のことばかり考えている、サイコパス的な政治・行政エリートの集団のことです。二〇二一年までのアフガニスタン人と同じように、私たちアメリカ人も「ワシントン」に占領されていると言うべきかもしれません。そのことに対する不満が大きくなっているということです。
川端▼そういうエリートに対する不信感から、「外国の揉め事に介入する暇があったら、もっと国内の労働者のことを考えろ」という主張が力を持つようになったと。
モーガン▼そうです。私はトランプを支持していますが、彼は労働者や元軍人のような貧しい人々、いわゆる「忘れられた人々」の支持を受けています。もちろん彼にも打算的な面はあるのですが、従来のエリートよりは遥かにましなのです。例えば二年ほど前に、オハイオ州にあるイースト・パレスティーン(East Palestine)という名前の小さな村で脱線事故があり、有害な液体が漏洩して多くの人々が苦しみました。トランプはそのようなところへ足を運んで現地の人々の声を聞きます。物質援助も実費で行ったと言われています。でも、バイデンはそういうことを全くしません。バイデンやワシントンの連中は、同じ綴りの中東のパレスチナ(Palestine)の方が気になっているのです。中東のパレスチナにはいくらでも行って、いくらでも物質援助などを送るのですが、オハイオ州のパレスティーンには全く行かない。彼らにとって、貧しい白人の住む小さな村なんてどうでもいいのです。

ヨーロッパ人の恐ろしいアイデンティティ

川端▼アジアの台頭についてはどのようにお考えですか。
モーガン▼欧米とアジアの比較をする際にはそれぞれの文明のアイデンティティの本質を捉える必要があります。そこで私が気になっていることを三点申し上げたいと思います。
 第一に、ヨーロッパ人のアイデンティティの本質はキリスト教(カトリック)であるという主張をよく耳にするのですが、私の考えでは、ヨーロッパの本当のアイデンティティは「野蛮性」(paganism)にあります。カトリックの文化はあくまで、その野蛮性を抑制するために後から付け加えられたシステムです。かつてのゲルマン民族やローマ帝国というのは、日本人には想像もできないほど野蛮なもので、そちらに民族としての本質があるということです。
 第二に、アジアへのパワーシフトといえば中国のことが真っ先に浮かぶわけですが、私は今の中国は「アジア」ではないように感じます。中国共産党の政治体制はむしろ欧米の帝国主義に近いもので、あの残酷さは、周囲との協調や自然との調和を重んじるアジア的な文化とは異質なのではないでしょうか。
 第三に、日本についても、「アジア」に含めるべきなのかどうか、最近疑問に思うようになってきました。この間、日本人の友達とベトナム料理を食べに行ったら、その人は「とてもアジアっぽい料理だ」と言っていました。これは日本の料理とは異質だという意味で、日本もアジアの一部であるならそういう言い方はしないはずですよね(笑)。
川端▼確かに我々日本人は、例えばベトナムやインドネシアなどの「アジア人」を、自分たちと同じ仲間だと感じていない面はあります。
モーガン▼うまく言えないのですが、ベトナムやタイなどには文化的な違いはあっても「アジアとしての共通性」を肌で感じる一方で、日本は特別であるように思えます。たまたま中国が隣にあるので、漢字やお箸を使っているだけなのではないかと。
川端▼今お話しいただいた三つの指摘は、どれも面白い論点ですね。特に、ヨーロッパのアイデンティティの本質は異教(ペーガン)的な野蛮性であり、カトリック文化がそれを抑え込んできたという見方は興味深いです。そういえば最近の欧米では異教(キリスト教化以前の古代宗教)的なカルチャーを好む人が増えているらしいですね。例えばネオナチをはじめ移民排斥を唱える極右の人たちの表現のスタイルには、単なる政治思想を超えた呪術的な趣向があって、ゲルマン神話や北欧神話、スラブ神話などの時代に持っていた古い感性が噴き出しているとも言われる。真っ黒なユニフォーム、ナチスにも似たシンボル、儀式風のデモなどを見ると、文明人の生活の裏側に秘められた、原始的な闇のエネルギーのようなものを感じてちょっと怖いですね(笑)。
モーガン▼ヨーロッパ人が怖いという感覚は、アメリカにもあります。ヨーロッパとアメリカは同じではないのです。先ほどヨーロッパの極右政党の話が出ましたが、ヨーロッパ人にとって外国人は対等な人間ではありません。私たちアメリカ人も…(後編に続く)


 

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