最新刊、『表現者クライテリオン2024年11月号 [特集]反欧米論「アジアの新世紀に向けて」』、好評発売中!
今回は、特集論考の一部をお送りいたします。
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「道統」(石原)、「道義」(保田)、「思想」(林)が、
台頭するアジアにあって日本の針路を定める。
ドイツ軍が東部戦線ではポーランド西部を手中に収め、西部戦線でもフランスを攻略しつつあった昭和十五(一九四〇)年五月二十九日、第十六師団の師団長であった陸軍中将・石原莞爾は、京都で「人類の前史終はらんとす」と題する講演を行った。後に、その講演録は立命館大学出版部から『最終戦争論』と題して刊行される。その中で、国際連盟に象徴される第一次世界大戦後の世界主義的な潮流は終焉を迎えたものの、大戦前の露骨な国家主義には回帰せず、国家連合の時代に入ったとする石原は、①ソ連を中心とする社会主義諸国、②ドイツを中心とする欧州諸国、③アメリカ合衆国を中心とする北米・南米の諸国、④日本を中心とする東アジア諸国という四つの国家連合が形成され、ひいては、「ソ連を取り込んだアメリカ」と「欧州と提携した日本」とが、「無着陸で世界をグルグル廻る」飛行機と「一発あたると何万人もがペチャンコにやられる」破壊兵器を駆使して「世界最終戦」を展開すると予想し、その意義について次のように語る。
この両者が太平洋を挟んだ人類の最後の大決戦、極端な大戦争をやります。その戦争は長くは続きません。至短期間でバタバタと片が付く。そうして天皇が世界の天皇で在らせらるべきものか、アメリカの大統領が世界を統制すべきものかという人類の最も重大な運命が決するのであろうと思ふのであります。即ち東洋の王道と西洋の覇道の、いずれが世界統一の指導原理たるべきかが決定するのであります。
「悠久の昔から東方道義の道統を伝持遊ばされた天皇が、間もなく東亜連盟の盟主、次いで世界の天皇と仰がれる」という信仰を有する石原は、大量破壊兵器と長距離運搬手段が実用化されて「世界最終戦」が勃発するまでには二十年ほどの猶予があり、その間に、「東亜の諸民族の力を総合的に発揮して、西洋文明の代表者と決勝戦を交える」ため、まず「東亜諸国の対立から民族の協和、東亜の諸国家の本当の結合という新しい道徳」に基づく《東亜連盟》を実現し、次いで「ヨーロッパまたは米州の生産力以上の生産力」を確立すべき、と強調した。
だが、日本を取り巻く情勢は、石原の構想とは全く異なる方向に動く。
フランス降伏後の九月二十七日に日独伊三国同盟が締結されたものの、ドイツ軍はイギリス本土上陸を断念し、日本軍も中国との和平を収束させるに至らなかった。さらに、アメリカを牽制すべくソ連との提携をも視野に入れていた日本に対し、ドイツはソ連との開戦を決意する。加えて、ソ連がアメリカに取り込まれるという石原の見立てとは逆に、民主党政権下のアメリカにおけるソ連の工作活動が功を奏し、欧州における局地戦は「日独伊」VS 「米英ソ中」という第二次世界大戦へと発展し、「世界最終戦」の準備どころではなくなった。
「科学の進歩から、どんな恐ろしい新兵器が出ないとも言えません」と言う石原が原子爆弾に関する情報を知っていたかは不明だが、講演の時点で核分裂現象は既に発見されており、日本においても実験が進められていた。それから五年あまり、まずイタリアが脱落し、次いでドイツが敗北する。そして、広島と長崎に原爆が投下されて「何万人もがペチャンコにやられ」た上に、ソ連軍が南樺太・千島列島および満洲国に侵攻し、日本も降伏に追い込まれた。
第二次世界大戦における手酷い敗北という事態を受け、「西洋の覇道」を武力で打ち破って「東洋の王道」を体現する「天皇を中心とする新しい世界秩序」=「八紘一宇」を実現せんとする自らの構想が破綻したことを認めざるを得なくなった石原は、…
<編集部よりお知らせ>
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