【特集座談会】「ディープステート(DS)論」の本質を探る― 藤井 聡×柴山桂太×浜崎洋介×川端祐一郎(後編)

啓文社(編集用)

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今回は、特集座談会の一部をお送りいたします。

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トランプの勝利とDS論が盛り上がる背景

 

柴山▼ (中略)では、トランプを押し上げた力は何なのか。それを考えるとき、トランプが二〇一七年一月の最初の大統領就任演説で使っていた論法が思い出されます。「アメリカの政治家は何十年にもわたり世界のために働いてきたかもしれないが、アメリカ国民のために働いてこなかったじゃないか」という論法です。例えば、グローバル化によって工場がどんどん中国やメキシコなどに出ていってしまい、アメリカの製造業は衰退した。それは政治が後押しした流れであり、結果的に本来のアメリカの基盤を支えていた中産階級が没落したという議論を展開する。あるいは、アメリカは冷戦後の世界秩序を守るために世界中に軍隊を出して同盟国を助けてきたが、同盟国はアメリカに感謝もせず負担金も払っていないと言う。だからこそトランプはアメリカファーストを主張するわけで、こういう論法がアメリカ国内のかなり多くの層に浸透していったのは事実だと思います。

 冷戦が終わりグローバル化が進んだ九〇年代から、アメリカのリーダーが自国民のための政治をしていないという感覚がずっと続いているのでしょう。権力機構の中心が空洞化して自動機械のように動いてしまっている、それをト
ランプの豪腕が壊してくれる、と多くの人々は期待しているわけです。アメリカの権力の中心が空洞化しているという話がもう一歩進むと、DSのような闇の組織が入り込んで動かしているという想像力につながる。自分たちが権力を動かせていないという無力感が、一方ではDSのような想像力を刺激し、他方ではトランプのような異形のリーダーを熱心に応援するという行動となって現れているのだと思います。

 

DS論における「錯覚」の拡大

 

藤井▼ ありがとうございます。浜崎さんはどうでしょうか。
浜崎▼ 私は「ディープステート論を超えて」という副題に沿って議論をしたいのですが、その際重要なのは、「ディープ」と「ステート」の議論を分けることではないかと考えています。つまり、常識的に考えれば、権力の「ディープ」な部分は間違いなくあるのだけれど、しかし、それを「ステート」のような纏まりのあるものとしては考えられないということです。

 今回寄稿していただいている先生方の原稿でも、「権力を動かす権力」について書かれています。例えば、農業政策の裏には日米合同委員会や規制改革推進会議があるのではないかとか、政治家や官僚以外の民間人が安倍晋三政権に影響を与えていたのではないかといった話です。政治に何らかの影響力を与えたいと思うのは、私たちの活動を含めて普通のことですから、そういったディープな「権力を動かす権力」は当然、存在しています。

 しかも、それを考えるということは、学問的な営みとも重なってきます。例えばマルクスが「上部構造の底に下部構造がある」と言ったり、フロイトが「表の意識現象の裏には必ず無意識がある」と言ったりしているのも、要するに、「表の権力主体の裏にあるディープな構造」への眼差しによるものでしょう。裏にあるディープな力学関係を認識しないと、表に現れている「権力」を整合的に説明できないわけで、そこに学問的探究が要請されるわけです。その意味で言えば、そもそも人間の知性が、目の前に現れている現象から、その因果を探るという力を持っている以上、これを否定しても仕方がありません。
 でも、だからこそ問題になるのは、その表と裏の因果関係の「結び方」なんでしょう。つまり、「バタフライエフェクト」という言葉があるように、一つの出来事の裏には数えきれない要因が働いているわけで、果たして、その複雑さを過剰に縮減して、その原因を一元的に示すことは、どこまでなら許されるのかということです。

 分かりやすいところでいうと、フランクフルト学派とネオコン、それから金融資本家は全部ユダヤ人だから、「ユダヤ人が裏で結託してディープステートを作っている」といったものですが、そこに「関係」は推測できても、やはり、その「結託」までは証明できません。これは白井聡さんも指摘していることですが、そこで「結託」を言ってしまうと、それこそ「理性の越権行為」であって、それが「陰謀論」になってしまうわけです。「陰謀はあるが、陰謀論は間違っている」というのは、まさに、この点ですよね。

 その上で問いたいのは、では、なぜ今、ここまで陰謀論が流行ってしまっているのかということです。それは、

…(続きは本誌で!)


 

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