【大石久和】「危機感のない日本」の危機―移民国家へと進む知能喪失の国―

大石久和

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 一九九五年から二〇一七年までのほぼすべての世界中の国々の名目GDPの推移を見ると、この間プラス成長できずにマイナスとなった国が二カ国だけあり、それは内戦相次ぐリビアと日本だという報告がある。内戦もないのに政策の継続的失敗が、このような情けない惨状を世界にさらしているのだが、しかし、政治家からは何の反省の弁も聞こえてこない。

 この財政再建至上主義の始まりの一九九五年は、日本の生産年齢人口が史上最大となった年であった。つまり、緊縮財政による日本の転落と歩調を合わせるように生産年齢人口が減少していったのだ。そして今、日本国民人口の急速な減少と、少子化が並行している。そこで岸田前政権は移民拡大政策に踏み切り始めたのだ。岸田氏は移民政策ではないと繰り返したが、まったく意味不明な説明だ。では、氏の考える移民政策とは何なのかについて、説明が必要ではないか。精神科医の片田珠美氏は岸田氏について「総理で居続けたいという願望のほかに感情のない執着型サイコパス」だというが、まったく同感だ。問題は日本人が大勢の外国人と共生できるのか、という一点である。長い先の日本の将来に何の関心も持たない「今だけ、自分だけ」の経済界は無責任にも移民の拡大と促進を叫んでいるが、政治はそれを単純に受け入れるのではなく、日本の将来についてどのような影響をもたらすのかを丁寧にアセスメントしなければならないのだ。

 まず、最初に考えなければならないのは、海外の人びとは、ほとんどが一神教の世界に生きてきたということである。一神教とは、相次ぐ厳しい紛争の世界を生き延びるために生まれた宗教である。(中国人とは何かについては、別稿を用意したい。)徳川宗家の十八代目の徳川恒孝氏は、一神教について「単一で絶対的な力を、持つ創造者をただ一人信じ、この教えをしっかり守ることで、人間は神の国へ行くことができるという宗教」であり、そして、その神は「絶対的服従と信仰を求め、これを破ったもの、信じないものには厳しい罰を与える強い性格の神」だというのである。

 皆殺し戦争などが頻繁にあった昔の時代には、恐怖におののく兵士をガチガチに縛って、戦いに向かわせなければならない。そこには強力なただ一人の神を共に信じている仲間たちの存在が不可欠だ。
 旧約聖書はキリスト教とユダヤ教などの共通経典という性格を持つが、戦争死を研究しているマシュー・ホワイト氏によると、旧約聖書には約一三〇万人もの殺戮が記録されているという。日本人の作家や漫画家が「旧約聖書物語」といった書物を出しているが、残酷な殺人場面はすべて省略されている。ところが、実際には次のような話が満載なのだ。旧約聖書のヨシュア記の一〇章には、モーセたちが次のような行動を取ったと記されている。「その町と王を撃ち、住民を滅ぼし尽くして一人も残さなかった。全住民をその日のうちに滅ぼし尽くした。息のあるものをことごとく滅ぼし尽くした。」

 旧約聖書は、こうした日本人が絶対に直視することができない物語で埋め尽くされている。現在のイスラエルとハマスの血で血を洗うような紛争の本質など、日本人の理解の及ぶところではないのだ。

 唯一絶対神を信じて戦い抜いてきたユーラシア人は、その歴史を国歌に込めて自分たちを鼓舞し、そして戒めている。アメリカ、イギリス、フランスなどの国歌は、われわれにはどう聞いても戦歌にしか聞こえない歌詞
となっている。オリンピックでは、こうした国が金メダルを取るたびに散々聴かされてきた国歌であるが、内容が何なのかについて関心を持つことはほとんどないために、この三カ国ともに国歌が戦歌であることを、われわれ日本人はほとんど知らないでいる。われわれの「君が代」の世界から見ると、「これが国歌なの」の世界なのだ。

 上記の三カ国はキリスト教圏の国々だが、世界にはイスラム教という大きな世界宗教がある。砂漠で生まれたといってもいいほど厳しい環境で育ってきた宗教ということもあって、自分たちに厳しい課題を課して「政教一体の宗教共同体」の構成を目指している。ラマダンという禁食、メッカへの巡礼という縛りも厳しいものだが、ジハードという異教徒との戦いを聖戦とする考えも有している。

 彼らは、われわれの感覚からいえば宗教にぎっちりと縛られているようなのだが、それでなければ生き延びてこられないほどの生存環境だったともいえる。島国国家の日本人は、われわれの外にこれだけ厳しい生存を賭けた世界が存在してきたことをほとんど理解できていない。

 ところで、イランの国歌はもっとすさまじいのではないかと調べたが、一九九〇年にコンテストで選ばれたというイラン国歌は実におとなしいもので、戦争の匂いなどほとんどない宗教信仰と民族振興の歌詞となっている。これは近年の価値観の反映であり、ペルシャ人の誇りを織り込んでいるものと考える。

 たびたびのテーマだが、紛争死がほとんどなかったけれども、相次ぐ自然災害で死んでいかなければならなかったわれわれの自然災害死史観と、日本人以外のほとんどすべての民族の、戦いに次ぐ戦いに勝利することで生き延びることができて獲得した紛争死史観との違いがある。国歌を調べると、それが見事に伝わってくる。これだけ死生観が異なり、従って命令する神を受け入れてきた人びとと、救済に専念する仏を心のよりどころとして信仰してきた民とが、一つの共同体を構成できると考えるのは、頭がどうかしているとしかいいようのない無能の風景である。

 厳しい掟の絶対遵守が基本となっている西欧世界とわれわれの違いを具体的に見てみよう。コロナ騒動の始まりの二〇二〇年頃の話である。コロナに対応するために、わが国も世界各国と同様に強制的な都市封鎖をするべきで、そのための法整備を! といった意見が政治家からも出されたし、世論でもかなりの賛同者がいることも明らかとなった。厳しい罰則付きの封鎖をやれば、お願いベースの外出規制などよりもはるかに人の動きを制限できることは確かだ。しかし、われわれ日本人には理解しにくいのだが、そのために「封鎖を必要とした民族の歴史と経験」が不可欠なのだ。

 コロナ騒動の初期には、各国は海外からのウィルスの持ち込みを防ぎ、自国での感染拡大を阻止するために、自国民の帰国者に二週間程度の移動制限をかけていた。日本も同じように措置していたのだが、確認が甘かったり罰則もなかったために、勝手に自宅に帰ってしまう人が出て「ゆるゆるの甘さだ」と批判されていた。この時、西欧などの他国が制限違反にかけた罰則は驚くべきものだった。最も厳しかったカナダでは「違反者には最大で日本円にして五千万円以下の罰金、または最長六カ月以下の禁固」というすさまじいものだった。これは日本人には到底受け入れ不可能であるが、程度は違うものの西欧各国は同じような厳しい罰則付きの自宅謹慎を強制したのだ。

 彼らにはそれがなぜできたのか。日本ではなぜ考えられもしないのか。

 

…(続きは本誌で!)


<編集部よりお知らせ1>

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