【白井聡】資本主義リアリズムの時代における陰謀論の必然

啓文社(編集用)

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陰謀は実在するが、陰謀論は間違いだ。
人はなぜ陰謀論に陥るのか、
それを避けるにはどうすればよいか。

知性が生み出す陰謀論

「いったいだれが人間をこれほど愚弄しているんだろう? イワン、最後にぎりぎりの返事をきかせてくれ、神はあるのか、ないのか? これが最後だ!」
「いくら最後でも、やはりありませんよ」
「じゃ、だれが人間を愚弄してるんだい、イワン?」
「悪魔でしょう、きっと」イワンがにやりと笑った。
「じゃ、悪魔はあるんだな?」
「いませんよ、悪魔もいません」
(フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』原卓也訳)

 敢えて言う。「陰謀論だ」というレッテル貼りこそ、陰謀そのものである。専門的な歴史学の研究に従事してみればすぐにわかることだが、ある種の歴史学の営為とは、過去に企まれた陰謀の詳細を明らかにすることにほかならない。要するに、陰謀の実在は疑い得ない。ゆえに、陰謀の存在を指摘する者に対して「陰謀論者」のレッテルを貼って信用毀損を図ることは、それ自体が何らかの意図を有した言説にほかならない。

 陰謀は実在する。しかし、陰謀論はそれでもやはり間違っている。陰謀の実在という正しい前提から出発したにもかかわらず、陰謀論はどこで道を誤るのであろうか。

 筆者の考えでは、陰謀論は人間知性が陥りがちな一種の認識論的な罠である。Aという事象とBという事象の間に因果関係を見出すことは、知性の基本的な作用だ。知性が発展すればするほど、その主体は多数の因果関係を見出すことになる。Bという事象とCという事象の間に、さらにCという事象とDという事象の間に、知性は次々に因果関係を見出してゆく。そして、A、B、C、D……すべての事象を串刺しにして貫くたった一つの原因を見出すとき、知性は大いなる満足を得るはずだ。

 だが、この瞬間にこそ、陰謀論の罠が大きく口を開けている。人は、知性が足りないから、あるいは論理的思考能力が足りないから、陰謀論に陥るのではない。反対に、知性があるからこそ、また論理的思考能力があるからこそ、陰謀論に陥るのだ。全く運動しない知性を想像してみればよい。怠惰な知性は、さまざまな事象の間に因果関係を想定してみることをしない。そのような知性にとっては、Aという事象、Bという事象、Cという事象……は、それぞれ単に生起して目の前を過ぎ去ってゆくだけである。それら事象の間に何らかの関係を想定するのは、活発な知性のみが為しうる業だ。因果関係を想定し、論理的に首尾一貫したかたちで事象間の関係を説明しうるがゆえに、陰謀論は論理的である。荒唐無稽であったとしても、それは論理的である。

陰謀論の思考の特徴

 では、陰謀論の何がおかしいのか。諸事象を串刺しにしてすべてを決定する唯一あるいは極めて少数の要因の発見、あるいは逆に言えば、その要因によってすべての事象を説明することには、過度の単純化が伴う。かつてマルクス主義者のルイ・アルチュセールは「最終審級の鐘は鳴らない」と表現したが、これは最終審級、すなわち唯一の要因を実体化することへの戒めだったであろう。その実体化には必ず、現実に対する過度の単純化、無理が伴う。

 だから問題は、要因として何を名指すかということではない。多様かつ複雑な因果関係によって生じる事象を、たった一つの要因で説明しようとしてしまうという理性の越権行為に、陰謀論の問題はある。この越権がひと度なされてしまえば、要因として何を措定しようとも本質は変わらない。「唯一の要因」を、「ユダヤ人の世界支配」あるいは「在日韓国朝鮮人による日本の財界・メディア支配」あるいは「人型爬虫類の支配」に見出そうとも、思考の在り方に何も変わりはない。

 陰謀論を取り扱う際の困難は、…続きは本誌にて


<編集部よりお知らせ1>

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<編集部よりお知らせ2>

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