【吉田徹】「アメリカ覇権の衰退」にどう立ち向かうかー問われる戦後日本の新たな構想

啓文社(編集用)

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トランプ政権発足で最も大きな影響を受ける西側の国、
それは“アメリカ覇権の直系”たる日本だ。

はじめに

 世界が固唾を呑んで見守ったアメリカ大統領選は、ドナルド・トランプ前大統領の見事としか言いようがないカムバックで終わった。若年層や黒人層で前回より得票を伸ばして激戦州を押さえたことが勝因だが、半世紀ぶりのインフレ上昇から現職が敗北するのは世界の民主主義国共通のトレンドだ。アメリカの実質賃金は二〇二三年に四年ぶりに増加したが、二〇二一年と二二年にともに六%を超えたインフレを帳消しするには至っていない。指名候補者が誰であれ、二大政党制のアメリカで民主党が信任されなければ、政権が共和党に転がり込むのは自然なことだった。
 しかしトランプ再選でもって、国際社会とこれが拠って立つ国際秩序に大きな再編圧力がかかることは間違いない。アメリカ大統領選以前から動きの見られたウクライナ情勢は、停戦にまで漕ぎつかずとも、大きな転換点を迎えるだろう。ガザ情勢はすでに出口に向かっている。EUはウクライナに対する安全保障供与を通じて、政治経済の次元で結束を高めることになると予測されるし、ウクライナと中東情勢が落ち着けば、アメリカは対中強硬姿勢を一層強めるだろう。
 しかし、新政権発足でもって、西側諸国でもっとも影響を受けるのは日本だ。俯瞰していえば、トランプのアメリカは、二十世紀後半という時代の土台を作ったアメリカの覇権(ヘゲモニー)の断末魔のようなものだ。そしてその覇権による庇護の最大の受益者は日本だったからだ。
 アメリカ覇権衰退の行く末を考えるためにも、その来歴を確認しておこう。

アメリカ覇権の起点

 いうまでもなく、アメリカが世界史の表舞台に出てくるようになったのは、二度の世界大戦を経てのことだ。ウィルソン大統領が現職大統領として初めて旧大陸を訪問したのは、第一次世界大戦後の一九一八年のことに過ぎない。しかし大戦後は当のアメリカが国際連盟に加盟を果たさず、連盟が頼った集団的安全保障体制も機能しなかったことが第二次世界大戦の遠因となった。
 この反省から、第二次世界大戦後のアメリカは自身が能動的な覇権国(ヘゲモン)となることで、西側の安全保障を実現しようとした。その起点となったのは、一九四四年のブレトンウッズ体制(金ドル本位制)と一九四八年からのマーシャル・プラン(欧州復興計画)である。前者は、戦前の保護貿易と通貨切下げ競争に歯止めをかけるものであり、後者は焦土と化した欧州の経済復興を手助けし、共産主義に対する防波堤を築くものだった。これら枠組みの対象とならなかった日本も、経済安定九原則とドッジ・ラインによって同様の歩みを辿った。
 簡単にいえば、冷戦が始まる中で、アメリカの覇権は国際公共財の提供を通じて、国際秩序の安定を図ろうとした。このような制度を通じた平和というアイディアは、世界恐慌によって着手されたニューディール政策をモデルとしてもたらされたものでもあった。「パックス・アメリカーナ」は、いわばアメリカ自身の歴史的経験が、世界に投影されて生まれたものでもあったのである。
 もちろん、こうした国際社会への関与は世界に展開するアメリカ軍の存在によっても支えられた。国連憲章第七章が規定する集団安全保障の仕組みは構築されたものの、冷戦のさなかで常任理事国の拒否権から、これが機能することは期待できなかった。よって軍事的安全保障は約八〇〇もの米軍関連軍事施設が、日本を含む世界約七十カ国に設置されることで実現することになった。しかし、キッシンジャーがアメリカ外交の特質を「敵を罰することだけではなく、相手国の国民の生活を改善するのも戦争の目的だと唱え」ることに見出したように(同『国際秩序』二〇一六年)、慈悲ある覇権であったことも事実である。
 以上のように戦後のアメリカ覇権は経済支援、制度構築、イデオロギーの三位一体から成り立っていた。

覇権理論の示唆

 こうしたアメリカ覇権の特徴は、国際政治学における「覇権(安定)理論」からも説明された。そこで指摘されたのは覇権維持の困難である。覇権理論の草分け的存在であるオーガンスキー『世界政治』(一九六三年)は、覇権国が経済的成熟に達して後発国に追いつかれるために、覇権維持に困難を抱えると予測した。続くモデルスキー『世界システムの動態』(一九八七年)は、十五世紀ポルトガルから始まる覇権が約一世紀ごとに交代する法則があることを発見した。
 「覇権安定理論」の第一人者ギルピンは、その『覇権国の交代』(原著一九八一年)で、覇権国によって提供される国際システムがその構成国の利得となり続ければシステムは安定するが、逆にシステムによって損を被っていると認識する国が多くなれば、システムに対する挑戦が始まると唱えた。
 栄枯盛衰──覇権は未来永劫続くものではない。世界経済システム論で有名なウォーラスティンは、アメリカ覇権の衰退はベトナム戦争敗北とニクソン・ショック(金ドル本位制の崩壊)から始まったと指摘している。その直前の一九六四年には、リベラル化する民主党に対峙する共和党は、ゴールドウォーター大統領候補による政策転換を経験して、すでに白人労働者層の取り込みとマイノリティ蔑視の路線を歩み、これがアメリカ政治分極化の端緒となったことも記しておこう。
 ポスト冷戦期になってもはやアメリカ一国による世界秩序維持が困難になった状況で、「リベラル国際秩序論」という議論も提出された。その代表的論者のアイケンベリーは、第一次世界大戦後の秩序を「リベラルな国際主義1・0」、第二次世界大戦後のそれを「2・0」、二十一世紀のそれを「3・0」と呼び、同志国による秩序維持を唱えたが、これも実際には「アメリカ覇権衰退時代の覇権」構築の呼びかけである。
 しかしアメリカ一国の、、、続きは本誌にて…


<編集部よりお知らせ>

表現者クライテリオン沖縄シンポジウム
〜戦後80年、沖縄から考える対米独立への道〜

2018年、私たちは沖縄の地において表現者クライテリオン・シンポジウムを開催し、この国の対米従属の歴史とこれからの未来を考えました。
そして今、戦後80年という歴史の節目を迎える本年、もう一度沖縄で集まり、議論しなければならない—そうした強い使命感を抱き、7年ぶりに沖縄シンポジウムを開催いたします。
沖縄こそ、日本の「戦後」が今なお続く場所であり、沖縄を語らずして戦後は語れない。ここにこそ日本の真の独立を考える鍵がある。

日時:3月30日14時~

第1部 14時00分〜15時00分
 ポスト2025の世界と沖縄—第二次トランプ政権がもたらす試練
第2部 15時10分〜16時30分(質疑・応答含)
 戦後80年の検証 ー 沖縄に見る対米関係の実像

懇親会 17時00分〜19時30分 

会場:沖縄県市町村自治会館
(那覇空港から車で10分、バスターミナルから徒歩3分、旭橋駅から通路直通、徒歩5分)

会費:一般、3000円、塾生・サポーター:2000円
懇親会:5000円

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表現者塾は『表現者クライテリオン』の編集委員や執筆者、各分野の研究者などを講師に迎え、物事を考え、行動する際の「クライテリオン=(規準)」をより一層深く探求する塾(セミナー)です。

◯毎月第2土曜日 17時から約2時間の講義
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◯期間:2025年4月〜2026年3月
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講師(敬称略)
藤井聡、川端祐一郎、納富信留、鈴木宣弘、片山杜秀、施光恒、與那覇潤、辻田真佐憲、浜崎洋介、磯野真穂ジェイソン・モーガン、富岡幸一郎、柴山桂太

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