【鈴木宣弘】日本の食と農の独立に向けてー「占領政策」から脱却せよ

啓文社(編集用)

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2月16日発売の最新刊、
『表現者クライテリオン2025年3月号 [特集]トランプは”危機”か”好機”か?』から特集論考をお送りします。

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前トランプ政権下、自動車への追加関税に怯え、
農産品交渉で譲歩した日本。同じ過ちを繰り返すのか。

プラスとマイナス

 トランプ大統領の基本姿勢は、「反グローバリズム」「自己完結型経済」と思われるので、グローバル化に晒され、過度に輸入依存に陥っている日本の食と農からすると、あるべき方向性を示していると言える。米国は日本を、米国の余剰農産物の処分場として、日本を食料で自立させないようにして「属国化」し、米国発のグローバル穀物商社などの儲けにもつなげてきた。
 関税を引き上げてでも輸入によって米国内産業が打撃を受けないように守り、各国にも、より独立した形で自国を守ることを容認するなら、日本も関税を引き上げてでも輸入依存度を減らして食料自給率を高め、食と農が独立できる可能性が高まることになる。
 米国から「独立」できることはありがたいが、それは、ある意味、突き放されることにもなるので、日本が本当に自力で日本国民の命を守れるだけの農業生産力を強化できるかという課題も突き付けられる。
 一方で、米国にとって農業は輸出産業であり、「米国ファースト」で自国利益を高めるには、日本にもっと買わせることが不可欠との判断から、理不尽な要求が強まる可能性も懸念される。自動車などの追加関税で脅されて日本が農産物で不利な条件を飲まされ続ける懸念がある。実際、前回のトランプ政権では、こうした事態に陥った。

濡れ衣を着せられた蛾の幼虫物語の顚末

 振り返ってみよう。二〇一九年八月二十五日に日米首脳会談で、トランプ大統領がうれしそうに、「安倍さん、中国が買うと言って買わなくなって余ったトウモロコシを日本が買うと約束したあの話、君からしてくれ」と、みんな
に聞こえるように当時の安倍総理に促した。総理は「害虫駆除のために買います」と言った。
 害虫駆除(?)とは何か。日本のトウモロコシを蛾の幼虫が食べているので、不足するから、これを買わなくてはいけないのだと説明された。農水省の担当者が記者の質問を受け、「害虫は出ていますが、被害は出ていません」と答えた。これはえらく怒られたのだろうか、あとで言い換えた。「害虫の被害については確認していません」と(結局一緒だが)。
 しかも、この害虫が出たトウモロコシは青刈りトウモロコシといって、牧草などと一緒に混ぜて繊維質を与える粗飼料というもの。粗飼料が足りなくなっても、アメリカから買う栄養価の高い粒の濃厚飼料のトウモロコシを牛に代わりに食べさせたら牛は病気になってしまう。代わりにならないものを無理やり理由付けに使ってしまったわけだ。
 だから、これは最初にそういう理由があったのではなく、「尻拭い」で買う(言葉は悪いが、親分が粗相したので、お尻を拭くのは日本)ということになってしまったけど、そんなことは恥ずかしくて国民に言えない、何か理由を探せということで、濡れ衣を着せられたのが、蛾の幼虫だった。この背景には日本が自動車の追加関税に怯えていたことがある。

自動車の追加関税の脅しで食と農を犠牲にしないか

 トランプ氏自身は日本に買うと言わせた二〇一九年八月二十五日のパフォーマンスで満足して、あとのことには関心がなかったかもしれないが、当時懸念されたのは、ヌカ喜びさせられたと気付いた米国の穀物業界が話が違うと言い出したら、どうなるか。トランプ氏もまた動く。恐ろしいのは、味をしめたトランプ氏は、引き続き自動車への二五%の追加をちらつかせることで、日本に際限なく様々な「尻拭い」を要求してくる可能性だった。
 威嚇されるたびに、トウモロコシも毎年三〇〇万トン近く買わされたら、あっという間に一〇〇〇万トンになってしまう。実は、実際、二〇一九年八月二十五日の会見時、第一報では、日本政府高官の発言として日本が約束した輸入量は一〇〇〇万トンとの情報が記者の間で駆け巡っていた。そういう可能性は最初から出ていたということだ。
 日米貿易協定の交渉でも、米国へ輸出する牛肉は、TPPより勝ち取ったと日本側は虛偽の説明をしたが、実態は逆だった。TPP(環太平洋連携協定)では低関税枠の拡大(二〇〇トン→六二五〇トン)の上、枠外関税(二六・四%)も十五年目に撤廃され、完全自由化のはずだったが、二国間協定では、実質的にはわずかな枠の拡大(二〇〇トンを少し超えても枠内扱いが可能になる程度)にとどまり、関税は撤廃されない。TPPで合意していた米国の牛肉関税撤廃は反故にされたのだ。
 さらに、日本は、、、続きは本誌にて…


<編集部よりお知らせ>

表現者クライテリオン沖縄シンポジウム
〜戦後80年、沖縄から考える対米独立への道〜

2018年、私たちは沖縄の地において表現者クライテリオン・シンポジウムを開催し、この国の対米従属の歴史とこれからの未来を考えました。
そして今、戦後80年という歴史の節目を迎える本年、もう一度沖縄で集まり、議論しなければならない—そうした強い使命感を抱き、7年ぶりに沖縄シンポジウムを開催いたします。
沖縄こそ、日本の「戦後」が今なお続く場所であり、沖縄を語らずして戦後は語れない。ここにこそ日本の真の独立を考える鍵がある。

日時:3月30日14時~

第1部 14時00分〜15時00分
 ポスト2025の世界と沖縄—第二次トランプ政権がもたらす試練
第2部 15時10分〜16時30分(質疑・応答含)
 戦後80年の検証 ー 沖縄に見る対米関係の実像

懇親会 17時00分〜19時30分 

会場:沖縄県市町村自治会館
(那覇空港から車で10分、バスターミナルから徒歩3分、旭橋駅から通路直通、徒歩5分)

会費:一般、3000円、塾生・サポーター:2000円
懇親会:5000円

参加お申し込みはこちらから

 

表現者塾第七期塾生募集中(初回特別ゲストは高市早苗衆議院議員!)

表現者塾は『表現者クライテリオン』の編集委員や執筆者、各分野の研究者などを講師に迎え、物事を考え、行動する際の「クライテリオン=(規準)」をより一層深く探求する塾(セミナー)です。

◯毎月第2土曜日 17時から約2時間の講義
◯場所:新宿駅から徒歩圏内
◯期間:2025年4月〜2026年3月
◯毎回先生方を囲んでの懇親会あり
◯ライブ配信、アーカイブ視聴あり

第一回特別ゲストとして高市早苗議員をお呼びすることとなりました!

講師(敬称略)
高市早苗、藤井聡、川端祐一郎、納富信留、鈴木宣弘、片山杜秀、施光恒、與那覇潤、辻田真佐憲、浜崎洋介、磯野真穂ジェイソン・モーガン、富岡幸一郎、柴山桂太

詳細はこちらから

 

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