4月16日発売の最新刊、
『表現者クライテリオン2025年5月号 [特集]石破茂という恥辱ー日本的”小児病”の研究』から特集論考をお送りします。
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自公政権が象徴しているもの、
それは未熟なまま老いていく日本の国民精神ではないか。
石破政権の「歴史的使命」
一体今日の日本の政治状況をつくり出した精神状況とは何であるか。昨年秋の衆議院総選挙から年明けの通常国会における来年度予算成立までの過程を経て、今日の日本政治の内政上の争点は、この上なく明らかになった。
それは本質においては単純なものだ。税負担と社会保障費用の増大にあえぐ現役層は、もうこれ以上の過重負担には耐えることができない、という感覚を日々強めている。他方、公的給付を受ける側は、給付水準の低下を極度に恐れる。この対立が鮮やかに表れたのが、昨秋以来の政治過程であった。国民民主党が提起した基礎控除額の拡大による所得税・住民税の本格的な減税の要求を、自民公明与党はあらゆる権謀術数を動員して退けた。
さらに、現在進行中の争点だが、高額療養費補助制度の自己負担額の大幅上昇の提案は、現役世代で比較的高所得を得ている層を直撃する。要するに、すでに現役を退き年金収入しかない層の負担額上昇は抑制され、手厚い医療を引き続き受けられる一方、若くして難病に罹ったが治癒の可能性のある人々には治療を諦めさせ、配偶者や子供を残して墓穴に追い込む、ということである。
ここにおいて筆者は確信するに至った。すなわち、石破茂政権の歴史的使命とは、現代日本の世代間対立を顕在化させ、煽り立て、爆発へと導くことなのである、と。
日本社会を破壊する労働力不足
少子高齢化社会が問題である、と指摘されて久しい。このままでは健康保険制度と年金制度が立ち行かなくなる、そして負担と受益において世代間で深刻な不平等がある、と言われてきた。
だが、この間明らかになってきたことは、立ち行かなくなるのは福祉国家の諸制度のみではない、という真実だ。少子化が続いてきたことによる人口構成全般の高齢化がもたらしつつあるのは、圧倒的な労働力不足である。
それが何を意味するのか、その一端をわれわれは知りつつある。例えば、路線バスが、地方部のみならず都市部でも、運転手不足のために減便や路線の廃止に踏み切る動きが相次いでいる。これはほんの序の口にすぎない。労働力不足が最初に顕著になるのは労働条件が劣悪な業界においてであるが、その業界の待遇が改善されたとしても、問題は解決しない。なぜなら、真の問題は労働力の絶対的な不足であるからだ。現在、運輸や建設といった領域の特定の業界において、労働力不足が叫ばれているが、年々労働力人口が減少する人口の年齢構成からして、労働力不足は全般的なものとならざるを得ない。
この事態が具体的にはどのようなものなのか。それは、例えば、あらゆる建設コストが暴騰するということ、工期が異常に長くなるということに始まり、道路に穴が開いても直せない、エアコンが故障しても修理業者が来るのは数か月後、といった状況をもたらすはずである。つまりは、われわれの生活を支えるインフラストラクチャーを維持できなくなり、日常生活が全般的な破綻を迎え、時には命の危機がもたらされるのである。その先にはもちろん、文明の破壊、廃墟化が待ち構えている。われわれの社会は、そのような状況に向かう軌道にすでにはっきりと入っている。
自民党の発想はソ連型社会主義
このような見通しが明確に視界に入ってきたにもかかわらず、石破政権は、現役世代を徹底的に痛めつけ、次世代の再生産を不可能ならしめる道を突き進んでいる。石破は社会保障費の負担増の言い訳として「次世代に負担を押し付けない」という定型句を口にするが、これほど欺瞞的で笑止千万の言辞はない。「負担を押し付ける相手=次世代」など、存在しようがなくなるのだ。
このような状況に対して突きつけられたのが、現役世代を中心とする国民の減税(および社会保障費負担の削減)要求である。その要求は、「手取りを増やす」という国民民主党のスローガンの大成功として現れた。これに対し、石破政権はあらゆる手管を用いてこの要求を退け、来年度予算を通過させた。大型減税の要求を退けるこの過程で、今日の自民党の思想・権力基盤・体質は残らず明るみに出た。
基礎控除の大幅引き上げに反対する根拠として、「高所得者の方が大きく減税されるのは不公正」という論を繰り返し持ち出した。この論は実質的には、減税を避けるための詭弁でしかない。そもそも納税をほとんどしていない、あるいはわずかにしか納税していない人々から減税するのは不可能である。本格的な減税を行なうならば、それは必ずある程度の納税をしている層の納税額を引き下げることになる。このことを彼らは「不公正」と称する。「高額所得者」(この国ではたかだか六万米ドル程度の年収でそう定義される)に対する負担はいくらでも増やしてよいという政策が断行される一方で、自公政権は低所得層への給付に関しては積極的である。ゆえに、その極まるところは、国民のほぼ全員の所得の均一化である。ソ連型社会主義の発想に、自民党はいつの間にか一体化していたのである。
そして、貧困と物価高対策と称して、近年の自公政権は低所得世帯に対する給付金の支給を連発してきたが、その対象は高齢者に必然的に偏る。住民税非課税世帯は、三十~五十代では一〇~一五%未満だが、六十代で二割を超え、七十代では三五%、八十代では五〇%を超えるからである。「税は理屈の世界」とは自民・宮沢税調会長の言葉だが、その「理屈」とは「現役世代から取り上げ、高齢世代に配る」以外のものではない。
膨らむ官僚機構の収奪欲求
かくして、国民の全階層を過不足なく代表する「国民政党」を標榜してきた自民党は、…続きは本誌にて…
<編集部よりお知らせ>
表現者塾は『表現者クライテリオン』の編集委員や執筆者、各分野の研究者などを講師に迎え、物事を考え、行動する際の「クライテリオン=(規準)」をより一層深く探求する塾(セミナー)です。
◯毎月第2土曜日 17時から約2時間の講義
◯場所:新宿駅から徒歩圏内
◯期間:2025年4月〜2026年3月
◯毎回先生方を囲んでの懇親会あり
◯ライブ配信、アーカイブ視聴あり
執筆者 :
2025.05.24
2024.08.11
2025.05.22
2021.04.01
2025.05.26
2025.05.16
2018.07.18
2025.05.16
2025.05.17
2019.04.20