【藤原昌樹】自らの罪責に向き合おうとしない平和主義者たち ―安和桟橋におけるダンプカー死傷事故から一年―

藤原昌樹

藤原昌樹

 

危険な抗議活動が続く安和桟橋

 

 2025年6月28日、沖縄県名護市の安和桟橋で米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に抗議していた70代の女性を制止した男性警備員がダンプカーに巻き込まれて死亡した事故から一年となりました(注1)

 

 『沖縄タイムス』『琉球新報』両紙は、「ダンプの土砂搬入は倍増 警備強化 市民の抗議封じ込め」「安和桟橋死傷1年…進まぬ究明、搬入倍増『牛歩封じ』抗議排除強まる」などといった見出しを掲げて、事故から一年が経った現在の抗議活動の様子を伝えています(注2)

 

 県議会6月定例会一般質問(6月27日)における島袋大議員(沖縄自民党・無所属の会)への答弁で、沖縄県警の小堀龍一郎本部長は「死傷事故発生後も危険な抗議活動が行われている」と述べて「危険、違法な行為に発展する恐れのある抗議活動に対しては引き続き、法令に基づき必要な措置を実施していく」と説明しました(注3)

 

 現時点で、抗議中にダンプカーに巻き込まれて重傷を負った女性への県警の聴取が行われていないことなどから、女性の代理人の弁護士が「通常ではあり得ない。警備会社や沖縄防衛局にも事故の責任の一端があるからなのか」と訝しんでいると報じられました。

 捜査状況について、小堀県警本部長は「重大な事故であると認識している。関係者も多く、捜査すべき事項も多いことから、付近の防犯カメラ映像の解析や事故現場での実況見分、関係者からの聴取、各種証拠の精査など慎重な捜査を進めている」とした上で「誰がどのような刑事責任を負うのか、あらゆる観点から究明を図っていく」と述べています。

 

 安和桟橋の事故現場付近では、今年3月にも抗議活動中の高齢男性が安全ネットを乗り越えた際に50代の男性警備員が転倒し、負傷する事案が発生しています。

 この事案を報じたのが『産経新聞』のみであり、『沖縄タイムス』や『琉球新報』など沖縄のマスメディアが報じなかった(「報道しない自由」を行使した?)ことから、事案が発生していたこと自体を知らない沖縄県民が少なくないのかもしれませんが、小堀県警本部長は『産経新聞』の報道が事実であったことを認めており、県土木建築部の砂川勇二部長も「報道があったことは承知している」と答弁しています(注4)

 

 安和桟橋における安全対策については、昨年6月の死亡事故が発生する前から、港湾を利用する事業者側が「抗議者が事故に巻き込まれないようガードレールを設置してほしい」と何度も要請し、玉城デニー知事も把握していたにもかかわらず、県が「歩行者の横断を制限することになる」として認めてこなかったことが判明しています(注5)

 

 事業者のみならず、防衛省沖縄防衛局もガードレールの設置など妨害行為に対する実効性がある安全対策を繰り返し求めていますが、その要請に対して、県は「ガードレールは歩行者の自由な通行を妨げる恐れがあることから、道路管理者として設置は認められない」として、現場の安全対策は防衛局が行うべきとの考えを示していました。

 

 県は今年1月18日、安和桟橋出口付近の歩道部にラバーポールを設置しましたが、柔らかい材質のラバーポールだけでは事故を防ぐことなどできるはずもありません。

 防衛局は「ラバーポールでは意図的にトラックの進路上に出るなどの妨害行為を防止できず、このような対応は事故の状況や背景を無視したものである」「意味のある対策にならない」と抗議し、玉城デニー知事宛の要請文書で「事故は作業を妨害する者が警備員の制止を聞かず、進行中のトラックの前方車道上に出たことに起因している」「本来、ガードレール設置は法令等に照らして実施不可能ではなく、道路管理者において直ちに実施すべき」と指摘し、「不誠実な対応に終始している」と県の姿勢を強く批判しています(注6)

 

 このように事故現場となった安和桟橋では現在も危険な抗議活動が続いており、しかも、今年3月に再び警備員が負傷する事案が発生してしまったことからも明らかなように、県がガードレール設置など実効性のある安全対策の実施を拒んでいることから、いつ重大な事故が発生しても不思議ではない危険な状態が放置されているのです。

 

醜悪な「平和運動」の象徴と化した「フェニックスさん」-事故現場での「追悼・抗議集会」

 

 沖縄平和市民連絡会と本部町島ぐるみ会議が、6月27日・28日の両日に「亡くなった警備員への追悼と、抗議中に重傷を負った女性の早期回復を願うとともに、強引な工事を続ける沖縄防衛局に抗議する」として、事故現場となった安和桟橋前で「追悼・抗議集会」を開催しました。主催者側によると、集会には約100人が参加し、参加者は献花して1分間の黙禱を捧げました(注7)

 

 「追悼・抗議集会」の開催に合わせて、事故で大腿骨骨折などの大怪我を負った70代の女性が『沖縄タイムス』『琉球新報』両紙の取材に応じています(注8)。彼女は『琉球新報』で「フェニックス(不死鳥)さん」と呼ばれていると紹介され、「手術前に残した『骨は折れても心は折れない』の言葉に奮い立った市民が目立つ」と伝えられた女性であり(注9)、「国が事故を『活用』して規制を強め、搬入台数を増やしていることにショックを受けている。何が何でも基地を造ろうというのか」「この1年、『戦争前夜』だと激しく感じてきた」「反対運動をしている人を妨害者、犯罪者と扱うような国のやり方はおそろしい。一日も早く現場に戻りたい」「分断されているが、亡くなられた警備員やダンプカーの運転手もみんな国策の犠牲者だ」と語っています。

 

 6月28日に開催された「追悼・抗議集会」では、その「フェニックス(不死鳥)さん」と呼ばれている女性から「私は生きて帰ってきた。この命は私だけのものではない。皆さんの魂のこもった命なのだ」との直筆のメッセージが寄せられ、彼女の姉が読み上げました。

 メッセージでは「二度と戦争をさせないために、一日も早く元気になって皆さんとともに現場に戻って頑張っていきたい」とし、「事故は防衛局による、安全性を無視して工事を急がせた危険な『2台出し』によって起こったものだ」と主張し、上記取材にもあった通り、ダンプカーの運転手や、死亡した男性警備員も「国策の犠牲者だ」と訴えています。

 また、集会では女性側の弁護士が事故後の経過を説明し、「事故の責任は(防衛省)沖縄防衛局にある」として警備会社や運行を指示した沖縄防衛局などに賠償請求する考えを示しました。

 

 以前の記事で、私は「抗議活動の現場において、当該事故で重傷を負った女性が『沖縄における基地反対運動』のシンボルとして祀り上げられ、英雄視されるようになってしまうのではないか」との懸念を示しましたが、残念ながら、その懸念は現実のものとなってしまいました。

 

自らの罪責から目を背け続ける平和主義者たち

 

 昨年6月の事故は複合的な要因で発生したとみられており、その事故原因の究明には、もう少し時間がかかりそうですが、県警幹部が「誰がどのような刑事責任を負うのかも含め、あらゆる観点から事故原因の究明に努めている」と語っているように、過失責任の所在が焦点になるものと考えられています(注10)

 

 業務上過失致死傷事件に詳しい元検事の高井康行弁護士は、「一般論」と前置きした上で、① ダンプカーの運転手、② ダンプカーに発車の合図を送ったとされる交通誘導の警備員、③ 抗議活動中だった女性-の三者が刑事責任を負う可能性があると指摘しました。

 ①の運転手は運転上必要な注意を怠っていた場合、自動車運転処罰法違反(過失致死)罪に問われます。②の交通誘導の警備員は、そのタイミングでダンプカーを進行させたら、抗議者の女性が飛び出してきて危なくなるということが予見できたのであれば、過失が問われることになり、業務上過失致死傷罪が適用される可能性があります。また、③の抗議者の女性は歩行者ですが、そのタイミングで横断を始めれば警備員が止めに入り、それによってダンプカーと接触して重大事故になることについて予見が可能であれば、重過失致死罪や過失致死罪に問われる可能性があるとの見方を示しました。

 それぞれ危険性を具体的に予見できたか(予見可能性)、必要な措置を講じれば結果は避けられたか(結果回避可能性)ということが、捜査の焦点になるものと考えられるのです。

 

 安和桟橋での死亡事故が発生した直後の記事で、「現時点では事故に関する検証が終わっておらず、事故を起こしてしまったダンプカーの運転手と誘導していた警備員、そして『牛歩』を止めようとして亡くなられてしまった警備員に何らかの過失があったかどうかについて予断や軽率な発言は差し控えなければなりませんが、今後、(過失・無過失をも含めて)何らかの形で彼らに対して法的な責任が問われることになる可能性を否定することはできません」「たとえ法的な責任がないと認定されて罪に問われることがなかったとしても、業務上の出来事であるとはいえ、亡くなられた警備員の死の場面に直接関わってしまったことについて、運転手と誘導した警備員が少なからず罪責感を抱いてしまうかもしれないということは想像に難くありません」「亡くなられた警備員の方が、今回の事故の被害者であることは論を俟ちませんが、事故を起こしてしまったダンプカーの運転手と誘導していた警備員も、無謀な抗議活動によって引き起こされた悲劇の被害者の一人であると言えるのではないでしょうか」と論じました。

 

 玉城デニー知事も「オール沖縄」勢力でもある県政与党会派の県議も、事故直前の様子を捉えた防犯カメラ映像の閲覧を拒否し、「事実」から目を背け続けています(注1)

 

 昨年8月2日に「オール沖縄会議」が防衛省沖縄防衛局に提出した要請書「安和桟橋出口での辺野古土砂搬送ダンプトラックによる死傷事故について」では、「あくまでも事故の直接的な原因は(抗議活動をする市民の側ではなく)安全確認を怠った警備員とダンプカーの運転手にある」と主張し、「今回、負傷した市民を含め、現場で抗議運動に参加している市民には、非難されるべき事情は全くない」「私たちはこれからも…現場での抗議運動を継続する」と宣言しています。

 

 また、『琉球新報』や『沖縄タイムス』では「オール沖縄会議」の要請書と同様に、事故原因は「警備員による無理な誘導」「運転手の不十分な安全確認」や「政府が強硬に辺野古移設の工事を推し進めていること」であると主張するキャンペーンを繰り広げており、「追悼・抗議集会」前後のタイミングで、危険な抗議行動に対して沖縄防衛局が警備を強化していることについて「市民の抗議封じ込め」と断じて非難する論調で報じたり、「フェニックス(不死鳥)さん」のインタビューを掲載したりすることは、そのキャンペーン報道の一環であると位置づけられます。

 

 前述した弁護士が指摘しているように、現時点では、一般論としてダンプカーの運転手と誘導していた警備員の法的な責任が問われてしまう可能性を否定すべくもありません。

 しかしながら、『産経新聞』が伝えた事故当時の状況を記録した映像を見る限りでは、「牛歩」戦術という無謀で危険な抗議活動が行われていること―負傷した女性(=「フェニックス(不死鳥)さん」と呼ばれている女性)が警備員の制止を無視してダンプカーの前に飛び出したこと―が一義的な事故原因であることは火を見るよりも明らかです(注11)

 

 (法的にではなく)常識(コモンセンス)に基づいて考えれば、「『牛歩』戦術という無謀で危険な抗議活動」そのものが主たる事故原因であることに疑問の余地はありません。

 抗議活動をする平和主義者たちが自分達の非と責任を認めることなく、「ダンプカーの運転手や死亡した男性警備員も『国策の犠牲者だ』」と訴え、「現場で抗議運動に参加している市民には、非難されるべき事情は全くない」と開き直って自己正当化し、あくまでも事故原因は安全確認を怠った警備員とダンプカーの運転手にある―亡くなられた警備員にも何らかの過失があったということを暗に含んでいる―と主張し続けることは、不幸にして事故の当事者となってしまった運転手と警備員の苦悩に追い打ちをかけ、被害者である亡くなられた警備員、そして大切な家族を失い、深い悲しみに苛まれているご遺族の方々をさらに鞭打つかのような極めて酷薄な行為であるように思えてならず、憤りを禁じ得ません。

 

 昨年10月4日の県議会一般質問において、島袋大議員(沖縄自民党・無所属の会)が安和桟橋での事故で亡くなられた警備員のご遺族からのメッセージを読み上げました(注12)

 

 「報道やSNSでは、妨害者に非はなく、非があるのは、強引な警備なのではないかとの誹謗中傷がほとんどであり、妨害活動が問題ないことにされ、家族の死がなかったことのように扱われることに対して精神的に辛く、心を痛めていたところ、最近では妨害者を褒め称える声さえあり、さらに憤りを強く感じ、辛く許せない思いである。そして、車椅子でも抗議活動を再開するなどともあり、不死鳥フェニックスなどと褒め称えているようであります。今までで一番憤りを感じる記事でした。本当に本当に許せないですし、とても辛いです」

 

 「命どぅ宝(ぬちどぅたから)=命こそ宝」という言葉(注13)を信条に掲げて「辺野古移設反対!」と声高に叫ぶ彼らは、自分達の無謀で危険な抗議活動によって引き起こされた事故で警備員の方が亡くなられたという事実、そして、大切な家族を失った遺族の憤りや悲しみといった悲痛な思いに真摯に向き合っていると言えるのでしょうか。

 

 事故発生から一年の日に安和桟橋前で開催された「追悼・抗議集会」においても、亡くなられた警備員の方の冥福を祈る言葉が語られ、黙祷が捧げられていました。

 しかしながら、自らの罪責から目を背け続け、さらにはこの度の悲劇を自らの政治的主張を訴えるための道具として利用しようとする平和主義者たちによって捧げられる祈りの言葉は空疎に響くばかりであり、自己弁護と保身に奔走する彼らの姿は醜悪そのものであると断ぜざるを得ません。

 

 沖縄で活動する「平和主義者」たちが、自らの醜悪で酷薄な振る舞いに無自覚のままで居続けるのであれば、たとえ彼らが美辞麗句を並べ立てて高邁な「平和主義」の理想を語ったところで、その言葉が誰かに届くはずはありません。

 いま彼らが、大切な家族を失った遺族の憤りや悲しみといった悲痛な思いに対して何を思うのか、問い質してみたいところです。

 

(注1) 【藤原昌樹】醜悪な姿を晒し続ける平和主義者たち ―安和桟橋におけるダンプカー死傷事故を巡って―(前半) | 表現者クライテリオン

(注2) 安和桟橋前の死傷事故1年 27、28日に追悼・抗議集会 辺野古工事の土砂搬出現場 沖縄 – 琉球新報デジタル

(注3) 「死傷事故の後も危険な抗議活動が行われている」 沖縄県警本部長が答弁 安和桟橋で警備員と新基地建設に反対する市民が死傷した事故を巡り | 沖縄タイムス+プラス

(注4) <独自>辺野古の警備員死亡事故現場、再び警備員が負傷の事案 抗議者「警備がおかしい」 – 産経ニュース

(注5) 事故現場、再三のガードレール設置要請も沖縄県認めず 玉城知事も把握 辺野古ダンプ事故 – 産経ニュース

(注6) 「ラバーポールでは妨害行為防げず」 辺野古警備員死亡で沖縄防衛局が県の対応を批判 – 産経ニュース

(注7) 安和桟橋死傷事故1年 「個人の問題にさせない」 新基地続行の国に抗議、追悼集会 沖縄 – 琉球新報デジタル

(注8) 「みんな国策の犠牲者」安和桟橋前で大けがの女性 辺野古新基地 沖縄 – 琉球新報デジタル

(注9) 「骨は折れても心は折れない」女性の言葉から勇気 辺野古抗議の市民ら、安和事故で被害の女性へ寄せ書き<国策と闘う> – 琉球新報デジタル

(注10) 【動画】辺野古ダンプ事故1年、過失責任は 沖縄県警「誰がどのような刑事責任負うのか」捜査 – 産経ニュース

(注11) <独自>辺野古抗議活動制止警備員死亡 事故映像を入手 11日に県議会で映像確認へ – 産経ニュース

(注12) [一般質問] 島袋大 令和6年第3回沖縄県議会9月定例会

(注13) 命どぅ宝 – Wikipedia

 

※ 下記の記者トークの中で「安和桟橋の事故」及び「追悼・抗議集会」に言及しています。

 

(藤原昌樹)

 


<編集部よりお知らせ>

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