高市政権の現下の「財政」をどう評価すべきか?──鍵は『骨太方針2026』にある

藤井 聡

藤井 聡 (表現者クライテリオン編集長・京都大学大学院教授)

こんにちは。
京都大学の藤井聡です。

 

年末になって、大きな政治上の動きが「二つ」ありました。

 

一つが、玉木さんの国民民主党と自民党で年収の壁が178万円まで引き上げられることが決定したこと。

 

もう一つが、次年度の当初予算の政府案が閣議決定され、史上最大規模の予算となったこと。

 

…これらは、積極財政を掲げて誕生した高市政権としては、何とか「緊縮じゃないか!」と言われない程度の「積極財政」的決定、とは言えるように思います。

 

それが証拠に、178万円への壁引き上げについては、オールドメディアは、「財源が問題だ」と批判していますし、当初予算の閣議決定についても「史上最大の予算規模となった!放漫財政だ」との批判が見られます。

 

現状の日本ではむしろ、オールドメディアに褒められるようになったら、トンデモ無いド緊縮財政だという事になるわけですから、むしろ放漫財政だと批判されるのは、正しい財政をやる上での「義務」と言えるわけですが…

 

逆の立場から言えば、積極財政として、本来高市総理がやりたいと考えている「本格的な積極財政」としては必ずしも十分ではないものだ、という点が見えてきます。

 

まず、年収の壁引き上げの問題。

 

これは、かつて自民案で「大幅な減税の対象となるのは、ある一定の所得水準”以下”の低所得者だ」という意味での「所得制限」が細かく細かくあって…減税額が最小化されていたのですが、それが665万円までの所得の人は一応、一律178万円までに引き上がるということとなり、随分と緩和されたという意味で「前進した」ことは間違いありません。

 

しかし…

 

かつての「103万円の壁」と今回の「178万円の壁」は、(年収665万円以下の人だけにおいても!)全く異なる「壁」なのです!

 

第一に、103万の壁は恒久的なものでしたが、178万円の壁は時限的なものです。

 

第二に、103万円の壁は「全所得階層」に対して全く同じ「壁」だったのですが、178万円の壁は、最も低い所得階層の人だけの壁であって、(665万円以下の所得の人においても)所得が高いほど、「178万円よりも低くなる」壁なのです!

 

したがって、減税額が、所得が上がる程にどんどん低くなってしまうもの(もう少し正確に言うなら、「178万円という数字の意味(非課税効果)が所得が上がるにつれて薄れていくもの」)なのです!

 

だから、今回の178万引き上げは、重要な一歩ではありますが、単なる第一歩であって、これからどんどん減税効果のある実効性の高いものに改善していくべきものなのです!

 

 

さて、次に「次年度の当初予算の政府案が閣議決定され、史上最大規模の予算となった」という点について、以下で解説します。

 

これはもちろん事実ではありますが、だからといって素晴らしく積極財政の当初予算だ、とは決して言えないのです。

 

この予算は、「プライマリーバランスを黒字化させる」ものでしかない」という点。これはつまり、この予算を執行したとて、結局政府が民間に貨幣を「供給」することになるのではなく、逆に「吸い上げる」ものとなってしまうのです。

 

したがって、この予算を「素晴らしく積極財政的な予算」と評価することはできないのです。

 

 

…ということで、今回の178万引き上げも次年度当初予算の閣議決定も、高市総理が本来やりたいと思っている決定からは、残念ながら乖離してしまっているのです。

 

…ではなぜそうなったのかと言えば…

 

本年度中の高市早苗総理は、昨年決定された、石破総理による「骨太の方針」の枠内で決定する「義務」があるからです。

 

一般の方は、総理大臣が変わったのだから、予算だって新しい総理が思うように決定できるだろ!? と思っている方が大半だと思いますが、事実はそうではないのです。

 

我が国は法治国家である以上、過去に決められた拘束力ある政治的決定には、総理大臣であったとしても従う義務を持っているのです。

 

だから、高市総理としては「不本意」と言うべき政治的決定を下さざるをえないのです。

 

では、未来永劫、高市総理は本格的積極財政は無理なのかと言えば…決してそうではありません。

 

次々年度(次年度ではありません!)は、来年6月に、高市総理の下で定められる「骨太の方針2026)に拘束されるからです。

 

高市総理は、これから半年をかけて、次々年度予算の「設計図」である「骨太方針2026」を、高市総理の権限の下、策定することが可能です!

 

したがって、少なくとも日本の内政における最重要項目は、「骨太方針2026」を、高市総理が理想とするものにすることができるか否かの一点なのです。

 

当方としては、高市内閣の正確な評価は、「骨太方針2026」が策定されるまで待つ必要があると考えています。

 

…というのが、当方の2026年にむけての個人的方針です。

 

ついては本記事読者の皆様にも、今回の高市決定について感情的な全否定をするのではなく、冷静中立なご評価を御願いしたいと、思っております。

 

どうぞ、来年もまた、よろしく御願い致します!

 

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