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【白川俊介】「ナショナリズム」の複雑さ

From 白川俊介(関西学院大学准教授・エディンバラ大学客員研究員) 

英国の政治状況はますます混迷を極めてきました。

テレーザ・メイ首相は5月24日、欧州議会議員選挙の結果を待たずに辞任を表明。当の選挙では、ナイジェル・ファラージ氏率いるブレグジット党が大きく躍進し、保守党は(労働党もですが)大きく議席を減らすことになりました。

目下のところ、英国メディアの関心はもっぱら、次期保守党党首が誰になるのかというところにありますが、党首の座をめぐるレースはボリス・ジョンソン氏が優勢なようで、仮にジョンソン氏がこのまま勝利し、次期首相ということになれば、英国はEUとのあいだに合意があろうとなかろうとも離脱するということになりそうで、いわゆる「ハード・ブレグジット」は避けられないかもしれません。

さて、そうなると、今度はスコットランドの英国からの分離独立という状況にますます拍車がかかるように思われます。

欧州議会議員選挙において、スコットランドは6議席を保有しているのですが、先の選挙結果を見てみると、スコットランド国民党(SNP)が、これまでよりも1議席伸ばして3議席、つまり全議席の半分を獲得。残りの3議席は、ブレグジット党、自由民主党、保守党が1議席ずつ分け合うことになりました。

SNPと自由民主党はEU残留派、ブレグジット党と保守党はEU離脱派なわけですから、残留派と離脱派は2:1の割合で議席を分け合ったわけですが、こうした議席の配分は、先に行われた「ブレグジット」についての国民投票において、スコットランドでは6割強が反対、4割弱が賛成であったという状況ともある程度は符合しています。

こうした結果を受けて、SNP党首のニコラ・スタージョン氏は、5月26日に自身のツイッターで、「歴史的な勝利だ。スコットランドは再度ブレグジットを拒絶したのだ」と述べ、27日には、これまで2021年までにとしていた独立にかかわる住民投票を、2020年の後半に行いたいという意向を表明しました。

スタージョン氏からすれば、英国がこのままブレグジットに突き進むとすれば、それはスコットランドの「民意」に反することになる。スコットランドは「イングランド」とは異なる「民意」を明確に示したのであり(しかも2度も)、その「民意」を尊重するとすれば、スコットランドは英国から分離独立する以外にないというわけです。

これは間違いなく、スコットランド・ナショナリズムのある種の表現であるといってよいでしょう。

ところで、こうした(とりわけSNPが掲げるような)スコットランド・ナショナリズムを見ていて、私はつくづく、「ナショナリズム」の複雑さを感じるわけです。

たとえば、昨今のヨーロッパにおけるナショナリズムの台頭は、ある意味では「欧州懐疑主義」と結びついています。それは、ありていにいえば「主権」にかかわるのであって、「なぜEUの上の連中が勝手に決めたことに俺たちが従わなけりゃならないんだ!」ということなわけです。

であれば、スコットランドにおけるナショナリズムもそうした性格を帯びているのではないかと考えられるのですが、必ずしもそうではありません。少なくとも、スコットランドでそれなりに多くの人々の支持を集めているSNPは、「スコットランドがヨーロッパにおける一つの独立した主権国家としてEUに加盟すること」を党是としており、明らかに親EU的なカラーを帯びた政党なのです。

ただ、私からすれば、「スコットランドのことはスコットランドで決めたい」から英国から離脱したとしても、スコットランドはそれと同じような政治的なコントロールの問題をEUとのあいだでも将来的に抱えることになるのではなかろうかと思いますので、ざっくり言ってしまうと「反英的だが親EU的なナショナリスト」というのはどういうことなのだろうかと考えてしまうのです。

もっとも、このようなある種の「ねじれ」のようなものが生じるのは、スコットランド・ナショナリズムをどのようなものとして規定するか、という点とかかわっているのかもしれません。

ナショナリズムという言葉を聞くと、それは「自民族中心」とか「排他的」などという言葉と直ちに結びつけられることがよくありますが、SNPの主要な論客の発言を聞いたり、あるいはSNPの綱領を見てみても、必ずしもそういう印象は受けません。むしろ、たとえば、マイノリティの権利の保護や移民や難民の受け入れなどに積極的であり、「寛容」などといった言葉で形容するほうがしっくりくるような気がします。

実際に、まだ3か月ではありますが、エディンバラに滞在してみて、往々にして人々が優しく、大変住みやすいということを肌で感じます。前回の記事にも書いたとおり、とりわけエディンバラは非常にコスモポリタンな町で、多様な文化的背景を負った人々が多く暮らしています。だからなのか、たとえば、移民や難民についてもより積極的に受け入れるべきだという考えている人々が少なくないように感じますし、LGBTの権利を支持する声もそれなりに強いように思います。この間にエディンバラ以外の都市をいくつか回ってきましたが、こうした「寛容さ」は、なにもエディンバラにかぎったことではないのではないかとも感じました。それゆえ、SNPへの支持の広がりは、1つには、スコットランドの国柄というか、スコットランドのナショナリティに関するこのような自己規定と大きくかかわっているように思うのです。

もっともSNP自体は、一昔前までは、民族主義的な色合いをかなり強くもった政党であったようなので、党内でネイションの自己規定をある意味で変容させてきたようです。なぜこのようなナショナリティの解釈/再解釈が可能であったのかというところは、スコットランドの歴史という観点からも、SNPの党史という観点からも実に興味深いのですが、少なくとも、スコットランド・ナショナリズムを見れば、ナショナリズムというものを「自民族中心主義」や「排外主義」などと直ちに結びつけて考えるのはあまりに単純すぎるのではないか、と思うわけです。あるいは、ナショナリズムの本質はそういうところにあるわけではない、ということなのかもしれません。

スコットランド・ナショナリズムについては、他にもいくつか思うところがあるのですが、長くなってきましたので、今回はこのあたりで。

Chi mi a-rithist thu!

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