少し前ですが、ダンファームリンというところに行ってきました。
ダンファームリンという町にはあまりなじみがない方が多いのではないかと思います。スコットランドに観光に来ても、「ダンファームリンに行こう!」という人はかなり珍しいのではないでしょうか。なぜそんな町にわざわざ行ったのかというと、スコットランドにとってはある意味で特別な場所だからです。
まず、ダンファームリンの場所ですが、スコットランド中東部の「ファイフ」という行政区の西側に位置しています。このファイフという行政区の名前は、かつてスコットランドに存在したピクト人の王国フィブ(fib)に由来するそうで、ファイフで最も有名なのは、東側にあるゴルフの全英オープンで有名なセント・アンドリュースでしょうか。
ダンファームリンは、エディンバラからはフォース湾を挟んで20キロくらいの距離で、汽車に乗って、だいたい30~40分くらいのところにあります。
ちなみに、ダンファームリン方面に向かう汽車に乗ると、世界遺産であるフォース橋(Forth Bridge)を必ず通ることになりますが、この橋の建設には「日本土木の父」といわれる渡邊嘉一氏が携わっています。素晴らしい橋の建設に日本人が携わったことはとても誇らしく感じますね。
さて、なぜダンファームリンに行こうと思ったのかというと、ダンファームリン修道院(Dunfermline Abbey)にある人物が埋葬されているからです。
その人物とは、ロバート・ザ・ブルース(Robert the Bruce/Robert du Brus)です。
ウィスキーの銘柄にもなっているこのロバート・ザ・ブルース(=ロバート1世)は、激闘の末にイングランドから独立を勝ち取った国民的英雄としてスコットランドの人々に親しまれています。
観光地に行くと、多くの人が土産物屋さんに立ち寄る思います。私も土産物屋さんに寄るのが楽しみの1つなのですが、スコットランドの有名な観光地の土産物屋さんに行くと、たいていのところに次の2人の人物にかかわるものが置いてあります。一人はエリザベス1世と同年代であり、悲劇の女王として描かれることの多いメアリー女王(クイーン・オブ・スコッツ)であり、もう一人がロバート・ザ・ブルースなのです。彼らを主人公にした子供向けの絵本も売られています。
かつて見た映画『ブレイブ・ハート』でブルースの名前くらいは知っていましたが、スコットランドに来て、あまりにも多くその名前を見かけることから、ブルースとは誰かをもっとよく知りたいと思い、国民的英雄の埋葬の地であるダンファームリンに行ってみようと思ったわけです。
とまれ、私がとても驚いたのは、スコットランドでは、この二人は単に人気があるというわけではなく、公教育において歴史の教科書できっちり学ぶようなのです。
書店で販売されている公教育の教科書(およびそれに類するもの)をざっと確認してみたのですが、スコットランドの歴史教科書は、「スコットランド史/英国史/ヨーロッパを中心とするその他世界史」という3部構成になっています。その「スコットランド史」の部分において、イングランドからの独立戦争について、つまりロバート・ザ・ブルースの時代について一章、そしてスチュアート朝が成立するあたりまで、つまりイングランドとの同君連合の成立に至る歴史について、メアリー女王を中心に一章と、2人についてかなりの比重を割いているように思いました。
日本人のなかで、人気のある日本の歴史上の人物といえば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康らの戦国武将や、坂本龍馬、西郷隆盛らの幕末の偉人あたりではないかと思いますが、日本史のスタンダードな教科書における彼らの扱われ方とは比べ物にならないように思います。
スコットランドに来てからというもの、歴史とは何か、歴史教育とは何かということを大いに考えさせられます。それはもちろん、ネイションとは何か、〇〇人であるとはどういうことか、ということと直結するわけです。
ナショナリティと公教育というのは重要なテーマであり、スコットランドではどういう観点から市民教育がなされているのかというところはとても興味深いのですが、少なくとも、イングランドから独立を勝ち取ったスコットランドの王と、同時代のイングランドの女王と比較され、結果的に彼女によって処刑される悲劇の女王の存在は、スコットランド・ナショナリズムの形成に大きな影響を与えているように思います。
現在の英国王室は、さかのぼればメアリー女王に行きつき、さらにはロバート・ザ・ブルースまで行きつく、というのも歴史の妙というか、興味深いところです。
このところ独立の機運が再び高まっているスコットランドですが、時期を狙っていたのか、それとも単なる偶然なのかはよくわかりませんが、Robert the Bruceという映画が6月23日からエディンバラを皮切りに公開されています。本作でブルースを演じるのは、95年に『ブレイブ・ハート』でもブルース役を演じたスコットランド(グラスゴー)出身のアンガス・マクファーデン(Angus Macfayden)です。6月23日のスコッツマン紙には、「この映画がスコットランドの独立を後押しすることになればいい」という旨の彼の発言も取りあげられていました。
残念ながら映画自体はまだ見ることができていないので、近いうちに見に行ってみようと思っています。
ダンファームリン自体はこじんまりした町で、駅から15分くらい歩くと、修道院に辿りつきます。修道院はまず外観が非常に綺麗で、上のほうを見ると、KING BRUCEと彫られています。中に入ってみると、ステンドグラスとパイプオルガンが非常に美しく、中央にはロバート・ザ・ブルースの棺があります。また、係りの人が案内もしてくれて、質問するとブルースについて大いに語ってくれます。
ちなみに、ダンファームリンは、アメリカの鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが生まれた町でもあり、カーネギーの生家が博物館として公開されているほか(修道院からすぐ近くです)、カーネギーホールもあります。
修道院の隣にあるピットゥンクリフ公園は緑が豊かな非常に広い公園で、一休みするにはもってこいの場所でした。
ぜひエディンバラにお越しの際には、ダンファームリンにまでちょっと足を延ばしてみるのはいかがでしょうか。
何だか最後は観光案内のようになってしまいましたが、今回はこのあたりで。
Chi mi a-rithist thu!
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