こんばんは、ジャーナリストの松林です。
参議院選挙の投開票日まで10日を切りましたが、ぜんぜん盛り上がりませんね。マスコミも衆参同日選が囁かれていたころは大騒ぎしていましたが、可能性がなくなると途端におとなしくなりました。
もともと参院選は衆院選に比べ関心が高まりにくい傾向があります。平成に入ってからの10回を振り返ると、投票率が60%を超えたのは1989年(平成元年)の1回だけ。あとは50%台が8回、40%台が1回です。衆議院の場合は同じく平成に入ってからの10回中、5回は60%を超えているので差は明らか。今回も同日選の話がなくなってからは50%を割り込むのではないかという見方さえあるようです。
争点がないかといえば、そうでもありません。イランとの対立を深める米国が、自衛隊をホルムズ海峡に派遣するよう要請する可能性が取りざたされています。そうなれば安保法制をめぐる論争に再び火がつき、改憲に向けた動きも一気に加速するかもしれません。「改憲勢力」が3分の2以上を維持するかどうかは改憲派・護憲派を問わず大きな関心事になるはずです。
消費税率の引き上げを予定通り実施するかも重要な論点でしょう。マスコミ各社の世論調査によると、国民の過半は反対と答えています。政府は今のところ淡々と準備を進めていますが、与党が大敗すれば影響がないとはいえないでしょう。
それにもかかわらず今回の選挙が盛り上がらない最大の理由は、もちろん衆院選と違い結果が政権交代に直結しないからです。しかし、それだけでは説明がつきません。そもそも過去30年を見ると、投票率は参院だけでなく衆院でも低下傾向にあるのです。
その原因については政治不信などが考えられます。ただ、新聞やテレビが報じる情勢予測が影響していることは間違いないでしょう。事前に結果が分かるので、すでに勝負はついている気がして投票所に足を運ぶ気にならないわけです。
実際のところ、報道機関の予想はどれくらい当たるものなのでしょう。平成時代の参院選について、日経新聞の過去記事を調べてみました(一覧は本文の最後に掲載)。
予想と結果を照らし合わせると、大勢はかなり正確に予想されていることが分かります。少なくとも政権運営に影響するほどの「番狂わせ」は起きていません。事前に報じることの是非はさて置き、信頼性は高いと言えそうです。
この手の調査・データ分析の技術は年々進化しています。であれば、予想はますます的中するようになり、選挙は「面白くない」イベントになっていくのでしょうか。
そうした見通しもよく耳にするのですが、私自身は懐疑的です。データ処理の精度が上がったとしても、有権者の行動自体が流動化し、予測し難くなっていくのではないかと思うからです。
すでにその兆候は現れているのかもしれません。例えば今回の選挙について共同通信が実施した調査では、投票先をまだ決めていない人が半数にのぼります。「投票ギリギリまで熟慮する」「答えたくないのでとりあえず未定にした」ということならいいのですが、単に定見がなく、当日の気分で投票先を決める人が増えている可能性もあります。
これは、決まった支持政党を持たない「無党派層」の増加とは少し次元の違う問題です。政治信条さえはっきりしていれば、たとえ無党派でも今の段階で投票先を決めることはできるはずだからです。
この問題に気づいたのは2016年の米大統領選挙でした。この選挙では「報道機関や調査機関が結果を正しく予測できなかった」ことに注目が集まりましたが、私の印象に残ったのは、米国世論の移り変わりの激しさです。トランプ氏とヒラリー氏の言動が報じられるたびに、両者の支持率は揺れ動きました。「結果を外した」とされる予測サイトの当選確率も直前まで目まぐるしく変化していました。あれが本当に実態を反映しているのであれば、予測が外れたのも技術的な問題というより有権者の問題ではないかという気がするわけです。
念のため断っておくと、私は「意見がブレる人」を非難するつもりはありません。むしろ、意見がブレないことを自慢する人には、かなり問題のあるケースが多いという印象さえ持っています。
信念と定見がある人は、行動の基準が変わることはあまりありません。しかしそれゆえ、自分を取り巻く状況=前提条件の方が変われば、行動を変えるのはむしろ自然なことです。これが「君子豹変す」の本来の意味でしょう。
逆に「信念の固さ」と「言動の不変性」の違いが理解できない人は、現実の変化から目を背けて見かけ上の一貫性を保とうとするものです。そして、こういうタイプはたいてい独善的で粗暴です。もちろん一方で、信念や定見がないために状況に流され言動がころころ変わる人もいます。
現実と虚心坦懐に向き合おうとしない石頭と、それに付和雷同する人々。伝統的な共同体が壊れ、個人がバラバラに漂流する時代にはこの両極端な2つのタイプが増えます。そうした社会では不確実性が高まり、ちょっとした事件をきっかけに人々が同じ方向に走り出してしまいます。杞憂だと思われるかもしれませんが、かつて日本は政党政治が崩壊した時代にそうした社会を経験しているのです。
今回の参院選で、新聞の見通しが大きく外れることはないと思います。しかし予想外の結果が出るようになったときは要注意。私たちの社会の何かが壊れ始めたのかもしれません。その10年後には、今の「面白みのない選挙」を懐かしむことになるかもしれないのです。
参院選をめぐる予想と結果(日経新聞)
1989年(平成元年)7月23日投開票
【予想】
7月18日付 参院選、社党支持、自民を上回る――本社世論調査、女性“反乱”くっきり
【結果】
7月24日付 参院で与野党逆転、自民惨敗30台、首相退陣表明へ――社会倍増、40台乗せ
同夕刊 参院選翌日開票――社会、比例選20に迫る
1992年(平成4年)7月26日投開票
【予想】
7月22日付 終盤情勢調査、参院選、自民、70議席に迫る勢い――自公民で過半数に
【結果】
7月27日付 参院選、自民、実質70議席を確保――自公で過半数維持、連合惨敗、社党伸び悩む
同夕刊 参院新勢力、自民108、社党72議席
1995年(平成7年)7月23日投開票
【予想】
7月18日付 参院選、社党苦戦、自民伸び悩む与党、改選75厳しく――終盤情勢調査
【結果】
7月24日付 参院選、社党大敗、自民も不振――与党、改選過半数は確保、新進倍増、比例トップ
同夕刊 参院選全議席確定、与党3党、追加公認含め69に――新進が躍進40
1998年(平成10年)7月12日投開票
【予想】
7月7日付 参院選終盤情勢、本社調査、自民伸び悩み、民主足踏み――共産は倍増の勢い
【結果】
7月13日付 参院選、自民惨敗、首相退陣へ――前回下回る44、民主が躍進、共産は倍増
同夕刊 自民、追加公認含め45――参院選全議席確定
2001年(平成13年)7月29日投開票
【予想】
7月22日付 参院選情勢、本社調査――与党、過半数確保へ、自民、60台の勢い
【結果】
7月30日付 参院選、自民大勝、与党過半数――小泉改革に信任、民主、伸び切れず。
同夕刊 参院選、全議席確定、自民64、与党安定多数――民主26、目標下回る
2004年(平成16年)7月11日投開票
【予想】
7月4日付 参院選情勢、本社調査、民主、自民上回る勢い――比例第一党の公算、自民、改選割れ
【結果】
7月12日付 参院選、民主躍進、自民上回る――自民敗北、改選割れ、首相は続投表明。
同夕刊 自公、連立維持を確認――民主50、自民49、全議席確定
2007年(平成19年)7月29日投開票
【予想】
7月22日付 参院選情勢本社調査、与党、過半数厳しく――自民40台割れも、公明も苦戦
【結果】
7月30日付 自民惨敗、30台後半、民主60乗せ、第1党に――参院選、与党、過半数大幅割れ
同夕刊 参院選、民主60、自民37――全議席確定、公明は9に
2010年(平成22年)7月11日投開票
【予想】
7月9日付 民主苦戦50議席前後、参院選、終盤情勢調査、与党、過半数届かず
【結果】
7月12日付 参院選、民主大敗44、与党過半数割れ、自民51、改選第1党――首相、続投を表明
同夕刊 民主44、自民51、全議席確定、みんなは10
2013年(平成25年)7月21日投開票
【予想】
7月17日付 参院選終盤情勢、与党、過半数大きく超す、自民60台後半、民主20割れも
【結果】
7月22日付 与党圧勝ねじれ解消、参院選自民65大幅増、民主17、過去最低に、維・み伸び悩み
同夕刊 首相、安定政権へ始動、参院選、与党が圧勝――自民・石破幹事長、続投が有力
2016年(平成28年)7月10日投開票
【予想】
7月6日付 参院選終盤情勢、改憲勢力、3分の2に迫る、自民、単独過半数も視野、民進、巻き返し苦戦
【結果】
7月11日付 参院選、改憲勢力3分の2、与党で改選過半数、民進苦戦、共闘及ばず、アベノミクスを継続
同夕刊 参院選――単独過半数、自民届かず、全当選者121人確定
2019年(令和元年)7月21日投開票
【予想】
7月6日付 自公、改選過半数の勢い、改憲勢力3分の2うかがう、共同通信情勢調査
(出所:日経テレコン21。断りがない場合は朝刊)
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コメント
常に誹謗中傷するつもりは全くなくただ純粋に、この国の政権もどこになろうが、誰が首相になろうが、お花畑の有権者がいる限り結果は変わらないでしょう。ましてや外交では連戦連敗で経済を損失させ、オマケに新自由主義を進め文化を破壊させ、その挙げ句に大多数の国民に重税を敷く神経はとても看過できません。またそれより酷い、マスメディアと外資系企業の存在意義すら理解不能とくれば、選挙どころの話では済まされません。それも、印象操作や世論誘導につながる媒体の正体だからであるのに、政治にしろ行政もお互いにそれらと結託する姿勢にゲンナリしてます。ですが、さすがにやらなくて後悔するよりは、やって後悔する方が、生き物としての使命と十分認識いたしております。