『表現者クライテリオン』2022年9月号より連載がスタートしている、但馬オサム「東京ブレンバスター」を月1でお届け!
今回は第一回目の「祖国復帰とウルトラの星」を配信いたします。
異才の論客がサブカルで語る日本の過去・現在・未来
文筆人 但馬オサム
祖国復帰とウルトラの星
沖縄祖国復帰五十周年の今年、なぜ『シン・ウルトラマン』なのか?
ウルトラマンを作った金城哲夫
『シン・ウルトラマン』を鑑賞した。予想通り、僕のようなウルトラマン・リアルタイム世代(樋口・庵野両監督も)にとっては、ニヤリとさせられる“くすぐり”が随所に散りばめられていた。
初代スーツアクター・古谷敏のプロポーションを完全トレースした七頭身のCGウルトラマン、初登場シーンの彼の体の模様はグレイ。五十五年前、まさに僕がブラウン管の中で最初に見たウルトラマンがそこにいた。
当時、わが家をはじめほとんどの家が白黒テレビだった。後日、少年誌のグラビアで彼の本当の体色を知り、銀と赤の鮮やかさに驚いたものである。ちなみにシン・ウルトラマンにカラータイマーがないのは、デザインを担当した美術家・成田亨のデザイン画を踏襲したため。
カラータイマー自体は、金城哲夫のアイディアで、カラー放送向けに視聴者にわかりやすいアクセントを、というのがその理由だそうだ。むろん、うちのテレビでは、単なる胸のポッチにしか見えなかったが。
金城哲夫はご承知の通り沖縄の人である。ウルトラマンの基本設定は彼によって作られた。「宇宙人(外星人)であり地球人」であるというウルトラマンのアイデンティティは、沖縄と本土の架け橋とならんとする金城自身の投影だともいわれている。
沖縄の祖国復帰五十周年の今年、ウルトラマンの原点回帰的作品が公開されるのも何かの縁か。
モロボシダンのネーミング元
金城は高校、大学を東京の玉川学園で過ごした。当時、沖縄は米軍政下にあったので、「留学」である。玉川学園は創立者の小原国芳の方針による自由主義的校風で知られ、幼稚園から大学までの一貫教育が特徴である。
自由主義教育の人、小原はまた愛国者でもあった。父親が薩摩軍として戊辰戦争に参加、捕虜となりながらも無事帰ってこられたのは明治天皇のおかげと聞き育ち、終生、皇室への尊崇の念を忘れなかったという。
沖縄祖国復帰運動の象徴的存在である屋良朝苗とは、広島高等師範学校の先輩後輩の間柄。戦後間もなく、屋良の招きで沖縄の教育現場を視察した小原は、教科書もノートもなく、馬小屋を教室替わりに授業を受けている児童の姿に心痛め、帰京後、玉川学園発刊の百科事典を始め書籍数千冊を沖縄に寄贈している。
そのうちの一冊が、金城哲夫の母の手に渡り、これが機縁となって、金城の玉川進学につながるのである。屋良朝苗は後年、金城夫妻の媒酌人を務めるが、これも小原の取り持つ縁だったようだ。
玉川の自由な校風は、金城の生まれ持った想像力の芽を大樹に育て上げた。大学時代に脚本家を目指し、一年先輩の円谷皐(円谷英二の次男)を知って、円谷プロに出入りするようになる。つまり、玉川学園への「留学」なくして、脚本家・金城哲夫なく、またウルトラマンも誕生していなかったといえるのである。
小原は生徒、学生から「おやじ」「おやじさん」と呼ばれることを好んだという。「おやじ」というあだ名の名づけ親は、諸星洪という第一期生で、彼が昭和二十九年に記した回顧録の表題は、ズバリ『玉川のおやじ/弟子の見たる小原先生』。
金城もこの名物先輩の著書を読んでいるはずで、『ウルトラセブン』の主人公モロボシダンのネーミングのヒントは、この諸星洪ではないかと僕は睨んでいるのだが。また、『セブン』第十八話でのキリヤマ隊長のセリフ、「神なき知恵は知恵ある悪魔をつくることなり」は小原の言葉がもとになっている。
金城が円谷プロで遺した仕事の数々についてはあえてここに触れることもないだろう。ひとつ付け加えるなら、『シン・ウルトラマン』のストーリーは、「遊星から来た兄弟」他、金城による『ウルトラマン』の四つのシナリオのオマージュである。
故郷沖縄で発したある一言
昭和四十四年、諸般の理由から円谷プロを退社した金城は、「本土復帰は沖縄で迎えたい」という言葉を残し、仲間に見送られ家族とともに船上の人となった。
帰郷後はラジオパーソナリティを務め、島芝居の復興に熱意を燃やすのだが、青年期のほとんどを本土で過ごし、“本土ナイズ”されてしまった金城に、故郷沖縄はどこかよそよそしかった。金城もまた、複雑化した戦後沖縄の心情に疎かった。
「沖縄から米軍をなくせというなら、自衛隊を誘致しなければならない。僕は自衛隊を歓迎しますよ」
地元ラジオで発した彼のこの言葉に、本土以上に左傾化した沖縄マスコミは敏感に反応し、大バッシングに発展した。『ウルトラマン』最終話でゾフィーに「地球の平和は地球人自身の手で守ることに価値がある」と語らせた金城にとって、それはごく自然な言葉だったはずだ。
しかし、この一言で彼は、沖縄にとって危険人物となってしまったのである。
歯車は狂いだした。失意と酒浸りの日々、仕事に穴を開けることも多くなった。そして、本土復帰から四年目の昭和五十一年の二月二十三日夜、泥酔した彼は離れの二階にある書斎の窓から落下し頭を痛打。看護も空しく、三日後の二十六日、ウルトラの国へと旅立った。
今も当時のまま時を止めた彼の書斎の書棚には恩師・小原国芳の著作が並んでいる。
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