本日は6月14日発売、『表現者クライテリオン2024年7月号 [特集]自民党は保守政党なのか?』より、特集論考「現代日本社会における 保守政党と自民党」から一部をお送りいたします。
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「真の保守」を標榜する多様な政治勢力が台頭し、
対立軸が曖昧な現代政治において、
自民党に求められる所作とは何か
本企画において編集部から筆者に与えられたテーマは大まかに次の三点にまとめることができる。
・ そもそも現代日本社会における「保守」とはどのような立場か?
・保守政党とはどのような政党を指すのか?
・自民党をどのように位置づけることができるのか?
問題は二〇二〇年代の現代社会においてこの三つの主題それぞれが所与の政治的立ち位置によって合意に至ることが困難であるのみならず、互いに相関する主題でもあるため、政治的な全方位的に対して説得的に回答することはそれほど容易なことではない。
「客観的な指標(変数)とトレンドを見ればよい」と考えるかもしれないが、どの変数を取り上げ、どの変数を取り上げないか、またどのように期間を定めるかによって「成果」の見え方は大きく異なり、少し期間を伸縮するだけでも「成果」が「失敗」に見えてくることがしばしばあるからだ。
今、SNSや動画で喝采を浴びている「政治的論議」なるものの大半は視野狭窄な単なる論破ごっこに過ぎない。少々考えてみればわかることだが、たまたまSNSで見かけた相手を仮に論破(難詰)できたとして、相手の政治的態度が変容することがありえるだろうか。言うまでもなく、単に返信に飽きて押し黙ってしまうか、多くの場合には意地でも相手の立場を支持しないように心に誓うだけであろう。
そうであるにもかかわらず難詰した側はともすれば自分の好みの政治的立場の陣地を拡大したと満足してしまうのだ。なんと自己満足的で、無意味な所作だろうか。
このとき保守か革新か、小さな政府か、大きな政府かといった様々な対立する政治的立場を議論するに際して、「そもそも現代社会において政治に関する議論が極めて難しく、コスト高である」というかなり控えめな前提を確認し、共有できるかどうかは案外重要だが看過されがちである。
かつて「保守」という言葉と政治的立場は、「革新」という言葉がどのような政治的立場を示すのかということと同程度か、表裏一体にある程度には自明であった。一般に「保守」とは自民党的なものと現実主義的なもののことを指し示し、「革新」は共産党的なものであり、理想主義的な立場であった。両者の中間にも社会主義や社民主義など様々な政治的立場が存在したが、今ではともし火と化しつつある。
保守と革新。両者は対立しながらも、少なくともそれぞれの立場を自認するものたちは文脈を踏まえていたはずだ。前者が『読売新聞』や『中央公論』を読むなら、後者は『朝日新聞』を購読し、『世界』に目を通すというように。
だが、期待できる前提はほとんどなくなってしまった。二〇二三年に新聞の一世帯平均購読部数は〇・五を割った(1)。政治的立場や常識云々以前に、新聞紙という媒体自体が読まれなくなっているため、新聞紙上の政治報道と論議はますます意識されなくなっているはずだ。それ以上に、自身も連載しているだけに心苦しいが、いまどき論壇誌に目を通すという奇特な人が政治に関心を持つ人のなかにいったいどれだけいるだろうか。甚だ疑問である。
例えば筆者が仕事を始めた十五年前に論壇誌に論考を書いたり、新聞に長いインタビューが掲載されると、決まって政党や政治家、業界団体から問い合わせがあったものだ。だが、いまではそんなものはすっかり聞かなくなってしまった。いったい誰が新聞や論壇誌を読んでいるのかと訝しむこともあるし、それとももちろん筆者の原稿や議論に力がなくなったのではと自分に失望することもある。
だが、ありがたいことにネット媒体に仕事が掲載されるといまも声がかかることは少なくない。再生回数が伸びる動画の場合にはなおさらだ。こちらとしては拍子抜けするほどである。ネット媒体のインタビューにしても、動画にしても収録にかかる時間も手間も驚くほどに少ない。しかし悲しいかな、それが現実であり、影響力は明らかだ。
最近の実証的政治学の研究は、世代によって保守や革新という言葉が指し示す政治的立場が従来と真逆になることがあると示唆する(2)。「政治的常識」に親しんだ年長世代は歴史的文脈を踏まえ、若い世代はもっぱら文字通りの原義というべきか、すなわち保守は何かを護持することを、革新については何らかの変化を想像するようだ。
社会のなかの生きた言葉の使われ方だと思えば、ただちにどちらが正しく、どちらが間違いと断じることはできない。それぞれの世代の思考の合理性を想像することができるだけに、正解や間違いを問うてみたところで学界はさておき実践的な含意は乏しそうである。
かくして現代社会における「保守」と「革新」という言葉の指し示す政治的立場は曖昧模糊としたものとなり、それだけではなく、いつの間にか多くの政治的勢力が前者を標榜するようになった。
混乱に拍車がかかるばかりだが、多様な政治的立場を主張する勢力がそれぞれ自分たちこそが「真の保守」であると主張し、自民党宏池会などを念頭に置きながらむしろ現在の自民党よりも保守本流的であるとする「リベラル保守」などという政治的立場すら登場したことで、ますます政治的立場のキャッチコピーの差異化が難しくなり、政治的世界の分節、把握が困難になっているといえる。
そのような時代における「保守政党」とはいったいどの政党を指すのだろうか?
(1) 新聞協会「新聞の発行部数と世帯数の推移」(https://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation01.php)を参照のこと。
(2) 遠藤晶久/ウィリー・ジョウ、二〇一九、『イデオロギーと日本政治──世代で異なる「保守」と「革新」』新泉社。
西田 亮介(にしだ りょうすけ)
83年京都市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。
慶應義塾大学助教(有期・研究奨励Ⅱ)、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授などを経て、日本大学危機管理学部教授・東京工業大学リベラルアーツ研究教育院特任教授。
(著書)
・『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』
・『ネット選挙とデジタル・デモクラシー』
・『メディアと自民党』
・『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』 など。
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