沖縄を日本から切り離そうとするプロパガンダが、にわかに中国から盛んに発信されるようになっています。
高市早苗総理が、11月7日の衆議院予算委員会で台湾有事の最悪ケースを想定して「存立危機事態になり得る」と答弁したことについて中国が反発し、日本渡航の自粛呼びかけや日本産水産物の輸入停止、さらには中国国連大使が国連事務総長に「日本は反省せず、誤った発言を撤回していない」と不満を表明する書簡を送るなど、あらゆる方法で日本に揺さぶりをかけているのは、皆さんご承知かと思います。中国政府はその一環として、琉球諸島の日本帰属に疑義を呈するプロパガンダを展開し出したのです(注1)。
中国共産党機関紙である人民日報系の環境時報は、2025年11月19日付と21日付の紙面に沖縄県の「帰属」に疑義を示す記事を掲載しました(注2)。
「琉球学の研究はなぜ必要なのか」と題する社説で「中国は沖縄県の帰属について学術調査を強化している」として「かつて中国が琉球王国を手厚く遇した」と唱える一方、「1609年に薩摩藩が琉球に侵攻して支配し、その後、1879年に日本軍が王宮に侵入して国王を追放して琉球王国を併呑し、武力と脅迫で琉球藩の廃止を強行、沖縄県を設けた(琉球処分)」「日本は琉球に差別的な政策や同化政策を進めた」などと批判し、「琉球諸島の主権帰属の歴史的、法的な争いが常に存在している」と論じています。
また、北京市共産党委員会の機関紙である北京日報系のSNSアカウントは「琉球は昔から一度も日本の国土となったことはない」と主張し、対外宣伝を担う中国外文出版発行事業局が運営するニュースサイトの中華網は「日本が台湾問題で火遊びを続けるならば、琉球問題が新たに交渉のテーブルに置かれる」と報じました(注3)。
その他、中国のSNS上で「琉球有事は中国有事」との投稿が拡散していますが、これは「台湾有事は日本有事」への皮肉を込めた表現であり、沖縄県の日本帰属を疑問視する声が世界的に増えているかのような流言が飛び交っています。「琉球有事」が具体的に何を指しているのかは不明なのですが、「中国の属国だった琉球を日本が武力で奪った」との主張に基づく表現であり、沖縄の領有権に中国が関与する余地があるとの主張を広める狙いがあるものとみられています。「国連で琉球問題の議論が白熱している」「琉球人は自らを日本人と考えていない」との真実味のない意見も散見され、「琉球は中国のものだ」と直接言及する投稿は多くありませんが、中国当局は削除する動きを見せていません(注4)。
中国政府を支配する共産党が高市総理の台湾有事に関連する発言を撤回させるため、ありもしない琉球諸島(沖縄)の「帰属問題」を言い立てる構図となっています。
また「例のごとく」と言うことになってしまうのですが、環境時報の社説について、『八重山日報』が「中国側のこの言動は沖縄県民としても到底、座視できない」とした上で「中国は尖閣諸島を『台湾に付属する島々』と位置付けて領有権を主張しているが、一連の動きは、沖縄全体に対しても同様の主張を始める布石ではないか」との疑念を示し、沖縄県の玉城デニー知事に「今回の行き過ぎた言動に対しては、当事者として明確に抗議の意を表明したほうがいいのではないか」と中国に抗議することを促しているのに対して、『琉球新報』『沖縄タイムス』両紙は「中国有力紙である環球時報は沖縄県の日本への帰属を疑問視する社説を掲載した」との事実と記事の概要を伝えて、その背景に「高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁に対する中国政府の反発がある」と指摘するのみで、中国政府が「琉球諸島(沖縄)の帰属」に疑義を呈していることについて非難することも抗議を促すこともなく、一切論評を加えていません(注5)。
環境時報の記事などが突発的で一時的な問題なのであれば、「中国政府による妄言である」と一刀両断して片付けてしまえばよいのかもしれませんが、中国による沖縄を日本から分断しようとするプロパガンダは継続的に行われ、しかも近年になって明らかに激しさを増してきています。中国政府によるプロパガンダは、台湾や尖閣を含むこの地域の軍事的覇権を確立する戦略の一環として位置づけられているのであり、習近平政権が既に「平和的に台湾を併合することができないときには武力で併合する」との決意を隠そうともしていない現状において、私たちは危機意識を持って対峙していかなければなりません。
中国政府によるプロパガンダの最近の事例として、10月9日に開かれた国連総会第3委員会(人権問題)において、中国の孫磊(そん・れい)国連次席大使が、沖縄の人々を先住民族とみなして「(日本は)沖縄の人々ら先住民族に対する偏見と差別をやめるべきだ」とする一方的な見解を示したことが挙げられます。
日本や英国、オーストラリアなどが新疆ウイグル自治区の人権状況などに深刻な懸念を表明したことに対して反論する際に、第2次世界大戦中の日本によるアジア諸国への侵略と植民地支配などを批判する文脈で出た発言であり、日本側は「自由、民主主義、基本的人権は日本のあらゆる判断と行動の揺るぎない基盤だ」と反論したと報じられています(注6)。
孫磊氏の発言について、日本沖縄政策研究フォーラムの仲村覚理事長は「中国が沖縄の主権は日本にはないという『琉球主権未定論』(沖縄が日本に属している法的な根拠はないとする理論)を公式の場で言い始めた危険な兆候だ」「中国の『米軍と自衛隊が沖縄で活動するのは先住民の権利を侵害している』という主張の伏線であり、台湾侵攻に向けた作戦の一環である」と分析し、「日本は有事の前の早いうちに反論すべきであり、玉城デニー知事も反論しないといけない」との見解を示しています(注7)。
沖縄に対する野心を曝け出した中国共産党の不当な分断工作を毅然とした態度で撥ねつけなければならないのは当然のことであると思われるのですが、残念ながら、玉城デニー知事に中国政府の主張に異を唱えることを期待することはできません。
玉城デニー知事は10月24日の定例記者会見で、中国国連代表部が「沖縄の人々ら先住民に対する偏見や差別をやめるよう日本に促す」などと沖縄を巡る一方的な主張を表明したことについて見解を問われ、「県庁の中で、いわゆる民族論などについて何か決定づけるような議論したということはない」と断った上で、「捉え方として『琉球民族』という表現をする方もいる」との認識を示しました。
「日本から分断された歴史があり、いわゆる琉球処分によって琉球王国が廃止されて日本に統合され、そして沖縄戦の後に日本から切り離され、米軍統治下に置かれた」といった沖縄の歴史に言及し、「そういう経緯をたどる地域は国内には他にないということを考えると、民族的な問題があるのではないかという研究者もいるので、さまざまな意見があると思う」と語ったと報じられています(注8)。
中国の「沖縄県民は先住民である」との認識について評価することを避けて否定せず、抗議しようとはしない玉城デニー知事の振る舞いは「中国の認識と主張を認めている」と看做されても仕方がありません。
これまで玉城デニー知事が公の場で「沖縄県民は先住民である」との主張や「琉球独立」について自らの見解を語ったことはありませんが、玉城デニー知事の支持母体である「オール沖縄」会派(=革新勢力)の中には「沖縄県民は先住民である」との認識を持ち、反日的で「琉球独立」を望むような極端な思想を持つ人々が含まれていることは明らかです。
日本人として、沖縄人として断じて認める訳にはいきませんが、中国が「沖縄県民は先住民である」と主張することに「全く根拠がない」という訳ではありません。
議論が煩雑になるため、詳細については別の機会に論ずることとしますが、国連人種差別撤廃委員会は2008年から現在まで6度にわたり、日本政府に対して「琉球・沖縄の人々を先住民と認め、権利を守る」ように勧告しています(注9)。
「何故、このような勧告が為されるのか」と不思議に思われる方が多いかと思いますが、この勧告は、「沖縄県民は先住民族である」と認めさせて「沖縄人の先住民族としての権利が奪われた」と主張するために活動しているNGО団体「市民外交センター」や「沖縄国際人権法研究会(AOCHR)」、米軍基地関連の環境問題に取り組む調査団体「Okinawa Environmental Justice Project(OEJP)」、琉球(沖縄)の独立を唱える「琉球民族独立総合研究学会(ACSILs)」などといった団体のロビー活動によるものです(注10)。
日本政府が先住民として認めているのはアイヌの人々だけであり、国連からの勧告に対して「沖縄県民は先住民族ではない」と反論していますが、もし「先住民族」と認められてしまえば、土地に対する国際的に認められた権利が発生し、沖縄から米軍や自衛隊の基地撤去を求める反戦平和活動家たちの運動を勢いづかせることに繋がってしまいます。
2015年9月に翁長雄志知事(当時)が、そして、2023年9月に玉城デニー知事が国連人権理事会で「辺野古移設問題」を国際社会に向けて発信する(=国際紛争化を目指す)演説を行ないましたが、この国連演説も沖縄県民を「先住民族」と認めさせる活動をしているNGО団体「市民外交センター」のサポートによって実現したものです(注11)。
玉城知事は、国連人権理事会での演説に先立ち、記者会見で自らの演説について「広大な米軍基地から派生する事件、事故、環境汚染などの問題が県民の人権を侵害し、安全安心な県民生活を脅かしていることをまず訴えたい。これらの問題が沖縄だけの問題ではなく、人権や民主主義という普遍的な問題であることについて沖縄県の考えを発信したい」との意気込みを示し、報道陣から「知事が国内問題を国際社会に向けて発信することは外国勢力の介入を招きかねない」との懸念があることについて認識を問われ、「県の取り組みを後押しする国際世論を形成し、この地域における安全保障の問題解決について意見交換をしたい」と答えるにとどめていました(注12)。
玉城知事の国連演説について『沖縄タイムス』は「多くの県民の声を代弁した重い訴えであった」と高く評価し、『琉球新報』も「その場で知事が直接訴えることができた意義は大きい」と述べており、全面的に支持しています(注13)。
以前に拙稿で紹介した『オール沖縄崩壊の真実-反日・反米・親中権力』で、著者である『八重山日報』の仲新城誠論説主幹が、玉城デニー知事の国連演説について「沖縄県の尖閣諸島付近では、玉城が国連でスピーチしている間も、絶えず中国海警局の艦船が航行を続けていた。中国艦船による領海侵入や日本漁船への威嚇が常態化している」「尖閣問題の本質は、独裁国家(中国)が、民主主義国家(日本)に侵略を仕掛けているという由々しき事実だ。純粋な国内問題である辺野古移設ではなく、本来、尖閣問題こそ沖縄が国際社会に発信し、世界的視野で問題提起をすべきテーマではなかったか」「当事者の沖縄県知事でありながら尖閣問題をスルーし、中国が喜ぶ米軍基地反対のみ発信する玉城の国連演説はピントがずれまくっている」との所感を述べています(注12)。
残念ながら、玉城デニー知事のピントは、現在に至るもズレまくったままであり、仲新城氏が同書で指摘した「米国には厳しく、(尖閣問題にあえて言及しない)中国に対する及び腰」のスタンスは全く変わっておらず、一貫していると断ぜざるを得ません。
日本沖縄政策研究フォーラムの仲村覚理事長は、玉城知事が国連で演説した後、中国の検索サイト「百度百科」で演説と「琉球独立」を関連づける記事が頻繁にヒットする動きが顕在化したことを明らかにし、「演説をきっかけに中国政府の主導で、沖縄独立を支持する国内の世論工作が始まったのではないか」との推測を示しました。
また、2023年に習近平国家主席が「琉球」に言及したことに関しても「沖縄占領の本格的三戦(世論戦、心理戦、法律戦)の準備が整ったシグナルだ」と分析し、「中国は台湾有事を『台湾統一戦争』と呼称するだろうが、それが『台湾・琉球統一戦争』に発展する可能性もある」と危惧しています(注14)。
前述したように、国連からは沖縄の人々を「先住民族」とみなす勧告が出ており、日本政府が反論しています。台湾有事の際、もし中国が国連安保理にこの問題を持ち込めば、日米は琉球を植民地支配しているとみなされ、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を根拠に撤退を要求されることになる可能性を否定することはできません。
本人たちの意図はどうあれ、玉城デニー知事と翁長雄志知事の国連演説は、国際社会で沖縄県民が先住民族として扱われる素地を作り、中国が沖縄の問題に口出しする口実と日本を恫喝する理由を与えることになっています。
実際に、中国政府が沖縄を日本から分断するためのプロパガンダにおける強力な武器として活用しており、現在、私たちはそれを目の当たりにしているのです。
確かに、沖縄には「琉球独立」を訴え、「先住民族の権利を奪われた」と唱える、ごく少数の人々の団体があることは事実です。
例えば、「琉球民族独立総合研究学会(ACSILs)」の発起人でもある龍谷大学の松島泰勝教授は『沖縄タイムス』に寄稿し、前述した中国国連代表部の発言について「琉球と中国の特別な関係が今回の国連発言に結びついた」「中国や琉球に対する日本の植民地支配を批判し、琉球人の人権回復を主張した」と説明し、「琉球併合で日本の植民地となった琉球の人々は“先住民族”となった」「日本政府は在日米軍基地の約7割をその先住民族の地に押し付け、『南西シフト』で自衛隊基地を増強し、再び琉球を戦場にしようとしている」というように中国政府の主張を全面的に肯定した上で日本政府を非難しています。
また、沖縄「先住民」国連勧告についても「常任理事国である中国政府の発言の意味は大きい…グローバルサウスの国々に対し大きな影響力を持っている」「今後、他の国々も琉球人を先住民族と認め、日本政府による偏見と差別をやめるよう求める動きが出てくる」「今回の中国政府の国連発言も国際慣習法を構成し、日本政府も国連勧告を無視できない状況になる」と指摘し、日本政府を「現在の安全保障体制にしがみつく日本は勧告を無視。琉球に日米の軍事基地を集中させ、琉球人の人権を侵害している」と厳しく論難した上で「琉球民族の自己決定権実現のため、いわゆる『中国脅威論』に翻弄されることなく、今後の中国政府の動向にも注目すべきであろう」と論稿を締めくくっています(注15)。
共同通信社による県民への世論調査でも94%が「沖縄が日本に復帰してよかったと思う」と回答していることからも明らかなように、沖縄県民のほとんどが「独立したい」とも「自分達が先住民族である」とも思ってはいません。「琉球独立」や「先住民の権利」を求める彼らの主張が沖縄県の「民意」からかけ離れていることは明らかです(注16)。
彼らのような極めて特殊な団体や活動家達の主張や活動について、どちらかと言えば、否定的に捉えるのではなく肯定的に評価していると受け取れる論調が多いように見受けられるという問題点があるものの、沖縄のマスメディアでも少なからず報道されていることから、沖縄県民の多くが「全く知らなかった」という訳ではありません。
恐らく、「沖縄が琉球国として独立する」「沖縄県民は先住民族である」などといった彼らの主張が「常識(コモンセンス)」や自分達の感覚から余りにもかけ離れていることから、忙しい日常生活を過ごしている大多数の沖縄県民が「彼らの非常識な主張が通用する訳がない」と高を括り、「このような馬鹿げた話には付き合っていられないから無視しておけばよい」として、わざわざ否定することも非難することもなく放置してきたというのが実態に近いのだと思われます。
しかしながら、たとえ彼らの主張が沖縄の現状、沖縄県民の「民意」や「常識(コモンセンス)」からかけ離れた荒唐無稽な内容であったのだとしても、国連などをはじめとする国際会議の場、より広く国際社会において、沖縄県を代表する立場の知事や政治家、○○大学の教授、○○研究の専門家などいった、一見すると立派な肩書を持った人物が真面目な顔で訴え、それに加えて、『琉球新報』や『沖縄タイムス』をはじめとするマスメディアが、あたかもそれが「事実」であり、沖縄の「民意」を代表しているかの如く報道することによって、歴史や現状など沖縄の実態を知らない海外の人々が疑うことなく信じてしまうのは何ら不思議なことではありません。
実際に、国連人種差別撤廃委員会が、日本政府に対して「琉球・沖縄の人々を先住民と認め、権利を守る」ことを繰り返し勧告する事態にまで陥ってしまっているという事実が、その証左であると言えるのです。
今回の中国による琉球諸島の日本帰属に疑義を呈するプロパガンダは、高市総理の国会答弁に対する反発という側面が強調されていますが、中国政府が、日中関係の悪化を好機として、沖縄を日本から分断させるためのキャンペーンを拡大・強化しているという側面がより強いと捉えなければなりません(注16)。
中国には、台湾や尖閣を含むこの地域の軍事的覇権を確立するために「対中最前線として米軍や自衛隊基地を抱え、地理的な要衝である沖縄の国際的地位を不安定化させたい」との思惑と、日本が台湾有事に介入することへ対抗策として「沖縄の領有権問題を持ち出すことで沖縄を日本から分断して攪乱する」との戦略があり、琉球諸島の日本帰属に疑義を呈し、沖縄県民を「先住民」と看做すプロパガンダは、その戦略の一環に位置づけられるのです。
現在の高市総理の国会答弁をめぐる日中間の対立が沈静化したとしても、沖縄をうかがう中国の動きが収まることはないと構えておかなければなりません。中国国連代表部による「沖縄の人々ら先住民族に対する偏見と差別をやめるべきだ」との主張や日本政府に対する国連人種差別撤廃委員会からの勧告は中国による「認知戦」の一環であると認識し、その「認知戦」に対応できる体制を早急に整える必要があります。
私たちは、たとえ「馬鹿々々しい」と思えても、「沖縄が琉球国として独立する」とか「沖縄県民は先住民族である」などといった主張を放置してはいけない危機的な状況にまで至ってしまっているということを自覚しなければなりません。
今年の5月24日に那覇市内で開催された「戦後80年・沖縄県祖国復帰53周年記念祭典」で、琉球王家の末裔で第二尚氏第23代当主の尚衛(しょう・まもる)氏が登壇し、「DNAを紐解くと、沖縄の人々は先住民族ではなく日本人である」と述べた上で「国連の誤った勧告や『沖縄は中国のもの』との主張は歴史を無視したものであり、毅然と反論すべきだ」「尚家一門は分断を煽る動きにくみしてはならない」と語りました(注17)。
尚衛氏は、琉球王国と清国の関係について「日清両属」は誤解を招く表現であり、「琉球王国は清国に属さず、朝貢は対等な外交であった」と述べて「歴史的に清国に属さなかった」との考えを示し、1879年の「琉球処分」は「琉球王国の滅亡ではなく、日本という国家への統合を選択した結果である」と強調し、最後の国王である第19代尚泰王の判断について「激動の国際情勢の中で、琉球の民の未来を見据えて、その幸福を願い、尚家を守ることではなく日本への帰属を選んだ歴史的決断であった」との見解を示しました。
また、1972年の沖縄の祖国復帰に関しては「将来の子ども達に日本人としての教育を施したいという強い思いが、日本への帰属を選択する力となった」「琉球の魂と日本の心が一つとなり、新たな未来を築く礎になった」「琉球の歴史・文化を継承する基盤が整った歴史的瞬間であった」と指摘し、現在の沖縄については「台湾有事の可能性など沖縄を取り巻く安全保障環境が厳しさを増している」との懸念を示し、「再び戦火が沖縄を覆わないかと心が痛む。日本は唯一の被爆国として、沖縄は国内唯一の地上戦の地として、平和を提唱し続ける義務がある」と訴えています。
琉球王家の末裔である尚衛氏の言葉は、中国政府から発信されるプロパガンダに対する極めて的確な反論となっています。
台湾や尖閣諸島を含む沖縄周辺地域の軍事的覇権の確立を目論み、着実にその歩みを進めている中国に対抗するためには、私たち沖縄県民(と日本国民)自身が、「沖縄県は日本国家の一部である」「沖縄県民は先住民族ではなく日本人である」との認識を共有した上で、そのことを国際社会に対して明確に示し、中国政府が発信するプロパガンダに対して逐一反論し、対抗していかなければなりません。
沖縄県民の一人として、琉球王家の末裔である尚衛氏から中国によるプロパガンダに対する反論や「沖縄県は日本国家の一部である」「沖縄県民は先住民族ではなく日本人である」との言葉を聞くことができたことを嬉しく思う一方で、現在の玉城デニー知事から聞くことができないことを至極残念に思います。
『八重山日報』の仲新城誠論説主幹が、玉城デニー知事に会った時の印象と人物像について「政治家とは思えない腰の低さや丁寧な対応に感動さえ覚えた…玉城に批判的なことを書いている自分に罪悪感めいたものを感じてしまうほどだ。こんな政治家は沖縄では類例がない。玉城の『人柄の良さ』は折り紙付きである」「玉城の『人柄の良さ』は政敵も含め称賛するところだが、日本本土と沖縄を分断するため権謀術数を駆使する中国と渡り合うには純真過ぎる」「玉城は徹頭徹尾、善意で平和を語っているようでもある。それが底知れぬ怖さなのか、逆に救いなのか、今は私にも分からない。ただ玉城のひたむきな瞳を見るたび『地獄への道は善意で敷き詰められている』という言葉を思い出す」と語っています(注12)。
私自身は、シンポジウムや講演会、懇親会の場などで玉城デニー知事を見掛けて挨拶したことはあるものの、面識があると言えるほどの会話をしたことはなく、その人物像を語る資格はないのですが、玉城デニー知事と言葉を交わしたことがある友人・知人にその印象を聞いた際には、全員が仲新城氏と同じように玉城デニー知事の「人柄の良さ」を称賛しており、そのこと自体を疑う余地はないように思えます。
しかしながら、「人柄の良い人物」が、必ずしも「良い政治家」であるとは限らないということは、古今東西の歴史が教えてくれる事実です。
玉城デニー知事の「人柄の良さ」が、沖縄を日本から分断することを目論む中国政府、極端で非現実的な「絶対平和主義」のイデオロギーにかぶれて沖縄を舞台に活動を続けている反戦平和活動家や「琉球独立」を妄想する夢想家などといった輩たちにつけ込まれ、その結果として、沖縄を危険に晒すことになってしまっているのです。
私たち沖縄県民には、玉城デニー知事と共に「地獄への道」を歩み続けなければならない謂れはありません。
沖縄県民の一人として、玉城デニー知事に対して「退任すること」を進言したく思います。
(注1) 衆議院インターネット審議中継 2025年11月7日
(注2) 中国主要紙、社説で沖縄の日本帰属を疑問視 | 共同通信 フラッシュニュース | 沖縄タイムス+プラス2025年11月19日
(注3) 「琉球有事は中国有事」投稿が中国SNSで拡散 「台湾有事は日本有事」への皮肉か – 産経ニュース 2025年11月24日
(注4) <主張>中国共産党の宣伝 沖縄への野心曝け出した 社説 – 産経ニュース2025年11月24日
(注5) 【視点】中国の言動 県民も座視できぬ – 八重山日報 -Yaeyama Nippo-八重山日報 -Yaeyama Nippo- 2025年11月21日
(注6) 「沖縄人へ差別」中国が中止要求 国連総会第3委 | 沖縄タイムス+プラス 2025年10月18日
(注7) 「中国が沖縄に口出しする根拠」 「先住民」主張、危険な兆候 仲村覚氏 – 八重山日報 -Yaeyama Nippo-八重山日報 -Yaeyama Nippo- 2025年10月23日
「琉球主権未定論」とは、第二次世界大戦後における琉球諸島の最終的な主権の帰属が国際法上確定していないとする見解であり、そのため琉球の主権が当然に日本に帰属するとみなすことはできないとする主張のことです。
(注8) 沖縄・玉城知事「琉球民族と表現する方もいる」 国連総会での中国の一方的な主張に言及 – 産経ニュース2025年10月24日
(注9) 新たな対立の火種に 沖縄帰属めぐる人民日報論文 (1/2ページ) – 産経ニュース2013年5月10日
(注10) 市民外交センター – Shimin Gaikou Centre (Citizens’ Diplomatic Centre for the Rights of Indigenous Peoples)
「琉球民族独立総合研究学会」については、拙稿で言及したことがあります。
・ 【藤原昌樹】「沖縄アイデンティティ論」及び「琉球・沖縄独立論」の再検討 | 表現者クライテリオン
(注11) 【月刊正論】沖縄・翁長知事の国連演説は本当にヤバい(1/6ページ) – 産経ニュース2015年9月16日
(注12) オール沖縄崩壊の真実 八重山日報記者が著書 安保、県民への影響暴く – 八重山日報 -Yaeyama Nippo-八重山日報 -Yaeyama Nippo-
(注13) <社説>知事の国連演説 国際社会への訴えに意義『琉球新報』2023年9月20日
(注14) 「琉球独立」のトピック急増 中国検索サイト、知事演説後 – 八重山日報 -Yaeyama Nippo-八重山日報 -Yaeyama Nippo-2023年9月29日
(注15) 松島泰勝「【寄稿】沖縄人を先住民族と認識/国連での中国政府代表発言/日本、国連勧告無視できず」『沖縄タイムス』2025年11月21日
(注16) <主張>「沖縄は先住民族」 中国政府は妄言撤回せよ 社説 – 産経ニュース2025年11月9日
(注17) 「琉球滅亡ではなく正しい決断」 沖縄県設置、尚家当主 復帰53周年記念祭典 – 八重山日報 -Yaeyama Nippo-八重山日報 -Yaeyama Nippo- 2025年5月25日
(藤原昌樹)
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