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狂歌を一首

吉田真澄(66歳・会社員・東京都)

 

遂に5類への移行。三年余りになる新型コロナ騒動がいよいよ終局に向かいつつある。その間、政府や自治体における対策の非科学性や言説の虚妄性、行き惑い暴走しかけた社会心理、専門家たちの無定見ぶり、メディアの頽落など、さまざまな議論がなされてきた。このコラムで、それらすべてを取り上げることはできない。しかし私たちは何を見間違い、何を聞き違えたのか。また、この国が現在、どのような知的状況、情報環境にあるのかを胸に刻みつけておくために、最も大きな影響力を行使した一方面にだけでも、きちんと落とし前を着けておきたいのである。

それは白衣を纏った医師や専門家たちに対してである。振り返ってみれば、彼らは、PCR検査の有効性、コロナによる予測死亡者数、ロックダウンをはじめとする社会規制のタイミング、発熱患者の診察回避、病床確保料の過大請求、さらにmRNAワクチンの潜在的リスクなど局面ごとの重要な判断において、ことごとく間違いを犯し、ミスリードを繰り返してきた。これら、本来、医療界を牽引すべき人々の、信じられないほどの知見の低劣さや無節操ぶりについては、かつて表現者クライテリオンへ寄せた拙稿(2021年11月号・読者投稿欄「シュールジャパン」)でも触れたが、最近になって、ある友人からまた、にわかには信じ難い話を聞かされたのである。

その友人は、非常勤の医師(医局をはじめとする組織に馴染まない一匹狼的な医師や出産後、復帰準備中の女医などの比率が高いという)を介護施設や在宅医療現場、医療機関へと送迎する仕事をしている。彼は、コロナ渦中の送迎時に、ある医師からワクチン接種の有無を問われ、非接種であることを正直に告げると、その医師も笑いながら、自身のワクチン虚偽接種を告白してくれたうえに、mRNAワクチンの組成上の危険性について得々と説明してくれたそうである。筆者は「組織に属さない一匹狼だからこそ可能な、ささやかな抵抗であり、それはそれで苦渋の選択だったのだろうな。」と半ば同情気味にその話を聞いていた。しかし、甘かったのである。私など世の中を知らないガキみたいなものだったのである。

友人とその医師は、その後、何度かの送迎の機会を通じて次第に懇意になっていったのだという。同志のような共感が芽生え始めていたのかもしれない。しかし、ある朝、その送り先として告げられたのは、大病院のワクチン集団接種会場だったそうである。「儲かるらしいけど、臆面もないんだよなあ。」友人は、少し寂しげに笑った。

現実は、細部に至るまで修羅に満ちていたのである。先生方は、敬うに値せず、権威は、算術の権威に過ぎず、白衣は、今ここにはない、未来の血に染まっていたのである(ほんの一握りの善良な医師や科学者の皆さん、ごめんなさい。でも、あまりにも、一握り過ぎるのです)。

近年、頻発するテロ事件については、表現者クライテリオン最新号(2023年5月号)巻頭座談会『岸田文雄とは何者か?』の論考をよそに、巷では相も変わらず「政治と特定宗教の関係など社会体制に目を向けるべきだ」あるいは「いや、動機など報じてはいかん。犯罪に対しては是々非々で論じるべきだ」といった、左右両極に振り切れた、浅はかな論戦が繰り広げられている。しかしいずれにせよ、現下のように権威に哲学や正義がなく、それを伝える知識人やメディアに道義のない社会は、テロルの温床になり下がっていくのであろう。権威を鍛え直し、真の権威として復権させていくためには、権威への厳しい批評が必要なはずである。そして、どうやら、この国で生き延びていくためにも、既存の権威を一から疑ってみる必要があるようだ。そのことを決して忘れぬよう、あの寺山修司に倣って、狂歌を一首…。

道を説く、白妙人の罪深し、身捨つるほどの祖国はありや。

*白妙人(しろたへびと)…白衣を纏った専門家たちの意