改題第6号(通巻第84号) 読者からの手紙

ビジネスパーソンという「専門人」について思うこと

 西部先生は、近代というのは誤訳であり、その語源から考えると、単純なモデルが流行る社会、そして、そのモデルに大量の人が群がる社会として解釈しておられました。その単純なモデルの好例としてスマホを挙げていましたが、私が初めて西部先生のお姿を拝見したのは、皮肉にもスマホの動画メディアを通してでした。現代人、特に若者やビジネスパーソンにとって、もはやスマホは切っても切り離せないものになっています。

 私が問題提起したいのは、そんなスマホを使いこなすビジネスパーソンという大量の「専門人」についてです。もちろん、「専門人」の問題については、西部先生が『知性の構造』でお書きになっている通りなのですが、本投稿につきましては、私の経験に引きつけて教育、科学、経済の側面からビジネスパーソンの多くが「専門人」から抜け出すことができない、そういう社会構造の中で生きているということを少しでも示せればと思います。

 まず、教育そのものの構造が「専門人」になるよう設計されています。私の場合、義務教育で得意な科目を見出し、高校では理系へ進み、大学では情報工学を専攻しました。そして、概ね10年間IT技術者として働き、激務の末に退職することとなります。もちろん、手に職を付けて生きるため、国として生産性を上げるため、この構造の全てを否定するわけではありませんが、真面目に勉強すればするほど、ある分野の専門性だけが高まり、その他の分野が見えなくなります。気が付けば自分の専門分野からしか物事を考えられなくなります。

 冒頭では現代の技術の象徴としてスマホを挙げました。技術は生活や仕事の効率、利便性を高めます。しかし、その弊害については見落としがちです。スマホのような情報端末を例にとるならば、もっとも害悪なのは、その設計上、私的利用において、自分の好みに合う情報だけを取捨選択するよう迫ることです。その使いやすさから、よほど意識的でない限り、欲望の赴くまま、例えば、刺激のある情報、心地良い情報、お金になる情報だけを追うことなどに時間を割くようになり、その結果、限定的な側面でしか物事を解釈できなくなくなります。

 経済の側面では、デフレや賃金が上がらない状態が続く中、人手不足が深刻な問題になっています。特にIT技術者の人手不足はとても深刻で、私が働いていた会社も首が回らない状況が多々ありました。とにかく忙しく、多くのビジネスパーソンは時間もお金もありません。そのため、余暇と言えば、休息にあてるか、趣味にあてるか、スマホにあてるかで終わり、他の学問へ興味を持つ時間が確保できません。

 3つの側面から考察しましたが、これ以外の側面もあると思います。「専門人」の固定化は、それ自体を問題と考える傾向が薄いこともあって、一向に改善の兆しが見られません。対策については、別途考えてみたいと思います。ちなみに私の場合、恥を忍んで申し上げますと「専門人」から抜け出すきっかけとなったのは、退職して暇な時間ができたことです。そして、療養する中で西部先生の言論に出会ったことです。「専門人」から抜け出す第一歩は、多面的に物事を考える態度を持つことであり、何か特別な学問や技術は必要としません。ビジネスという専門分野から、政治、経済、社会、哲学などへ興味の範囲を広げることです。それによって、多面的に豊かに物事を解釈できるようになり、より物事の真実に迫ることができます。

 以上、つたない文章ではありましたが、最後にこの場をお借りして、この気付きを与えてくれた西部邁先生に感謝の意を伝えたいと思います。ありがとうございました。

投稿者 : 

  • (池田健、39歳、神奈川県、無職)

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